第82話:砂浜の騎士道
いつも応援ありがとうございます、武徳丸です。
最高級の肉を堪能し、まったりと羽幌の午後を楽しむ一行。
しかし、女子たちが席を立った直後、静かな砂浜に悲鳴が響き渡ります。
仲間の窮地に、真っ先に駆け出す男たち。
そこで明かされる(?)、ある男の秘められた実力とは……。
いつもとは一味違う、少し熱い夏の攻防戦をお楽しみください!
「ふぅ……食った食った。サフォーク特選ラム、マジで別格だったな」
「海鮮も最高だったね。漁協の人に聞いたら、直売所で活きの良いのを買ってから浜に来るのが、通のバーベキューなんだってさ」
網の上で弾ける貝の香りを名残惜しみつつ、俺たちは一息ついていた。
女子たちは「お花摘み(お手洗い)」へと席を立っている。
皆ちゃんが遠くの水平線を眺めながら、しみじみと呟いた。
「今日、みんなとここに来られて本当によかった。里奈ちゃんや亜沙子ちゃんとここまで打ち解ける機会なんて、なかなかなかったから」
「きっかけがないとな。……吉川、お前も今日はよくやったよ」
「おうよ。カリテスと名前呼びで話せるなんて、一生の思い出だわ」
今日の吉川は珍しく「クズ」の角が取れている。
相手がカリテスの三人だからか、余計な下ネタを封印して紳士(?)に徹しているようだ。
……んで、ミヤはというと。
真っ白に燃え尽きたような顔で、遠く天売島を眺めていた。
「あそこは……天国の島だからな……」
完全に「あしゃこ」の一撃で召されている。
そんな平和な空気が、一瞬で凍りついた。
「助けて! 怖い人たちに絡まれちゃって!」
砂浜の向こうから、里奈ちゃんが必死の形相で走ってきたのだ。
真っ先に飛び出したのは、意外にもミヤだった。続いて皆ちゃん。
ミヤは中学時代、泥にまみれて白球を追った元野球部だ。
理由は聞かないが、自分で木刀を削って作り、夜な夜な素振りをしているので実は細マッチョだ。ただ、その情熱の方向が少しだけズレているのが難点だが。
「……はぁ。こういうの、本当に苦手なんだよね」
ムツが溜息をつきながら腰を上げる。俺もムツと共に走り出した。
「吉川! お前は漁協のお兄さんたちを呼んできて!」
走りながら的確に指示を飛ばすムツ。判断が早い。さすが、軍師ムツだ。
現場に到着すると、そこには同年代か少し上くらいの、見るからに「輩」な雰囲気の男たちが四人。どいつもこいつも筋肉バキキバキの体育会系だ。
男たちが、亜沙子さんとゆきちゃんの手を強引に引いているのが見えた。
「彼女に触れるな」
皆ちゃんが静かにキレた。男の手を払い、ゆかちゃんを力強く抱き寄せる。
「殺すぞゴラァッ!!」
ミヤにいたっては、男の手に鋭い手刀を叩き込んでいた。
……いかん、ミヤの方がよっぽど輩に見える。
二人を取り戻したものの、相手は四人。
険悪な空気が漂い、一触即発の瞬間。
「はいはい、そこまで。おしまーい」
ムツがひょいと間に割って入った。
「揉めても良いことないから。ね?」
「うるせーな、こら! どけよ!」
苛立った男の一人が、ムツに向かって拳を振り下ろした。
――一瞬だった。
乾いた衝撃音が響いたかと思うと、大男の体が宙を舞い、背中から砂浜に叩きつけられていた。
ズゥン、と重い音が砂を震わせる。
「なっ……!?」
続く男がムツに蹴りかかるが、ムツは流れるような動作でその足首を掴むと、前転の勢いを利用して関節を極める。
ミキッ、と不穏な音が漏れ、男は膝を押さえて砂に蹲った。
最後は二人まとめて殴りかかってきたが、ムツは一人目の肘を蹴り上げ、そのままもう一人の腕に絡みつくようにして「腕ひしぎ十字固め」を完成させた。
パシィィン!
空気を切り裂くような音が響き、あっという間に、バッキバキの男四人が砂浜に沈められた。
「ムツ……お前、一体何者なんだ?」
俺が呆然と問いかけると、ムツは少しだけいたずらっぽく微笑んだ。
「何者って……みんな、僕のことを陸奥って呼んでるだろ?」
「まさか、お前……陸奥圓……」
「"Need not to know"(知る必要のないこと)」
ムツは人差し指を口に当てた。
「……んなわけあるか! 漫画の読みすぎだ!」
俺のツッコミが響く中、周囲の女子たちの視線は釘付けだった。
萌奈美は「ムツさん……っ」と目を輝かせてキュンキュンしてる。
ゆきちゃんは皆ちゃんにベッタリ。
そして亜沙子さんは、いつの間にかミヤの手をぎゅっと握りしめていた。
そこへ、吉川に呼ばれた漁協のお兄さんたちが駆けつけてくれた。
「大丈夫か! ……って、どういう状況だこれ?」
転がっている四人を見てお兄さんたちは目を白黒させていたが、すぐに納得したように頷いた。
「ああ、こいつら町の問題児なんだよ。俺たちが引き取っておくから、君たちは遊びを続けてな」
男たちが連行されていく中、ミヤがようやく「あ、俺、女の子の手を握ってる……?」と素に戻り、頭から煙を上げそうなほど赤くなっていた。
「うん、まあ、結果オーライか」
「楓くん、何にもしなかったね」
隣で見ていた愛美にボソッと突っ込まれる。
「今日は俺の日じゃないからいいの。みんな、かっこよかっただろ?」
「それでも、私は楓くんが一番かな」
「……はいはい。ありがとうよ」
午後を過ぎ、少しだけ涼しくなった羽幌の風が通り抜ける。
波乱含みの海水浴だったが、絆はさらに深まったようだ。
「……俺も、一応走ってきたんだけどな」
最後尾で一人呟く吉川に、俺は心の中で「えらい、えらいぞ」と深い敬意を表した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ムツ、一体何者なんだ……?
あの「陸奥圓……」という響きに、思わずニヤリとしてしまった方は同世代かもしれません(笑)。
砂浜に響く乾いた音とともに、ムツの鮮やかな制圧劇をお届けしました。
必死に走ったミヤ、冷静に対処したムツ、そして大人を呼びに走った吉川。
それぞれが自分の役割で仲間を守った、熱い午後のひととき。
特に、亜沙子さんに手を握られたままフリーズするミヤの今後が気になるところです。
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