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第83話:離岸流とモッチリとした煩悩

 海編もいよいよクライマックス。

 全力で遊んで、全力で笑って。

 そんな最高の夏の1日の終わりに、予想外の波が押し寄せます。


 局長として、職務を全うしようとする楓。

 けれど、抗えない「煩悩」が彼を襲い……?


 楓が直面する、もっとも過酷(?)な救出劇をお楽しみください。


 色々なハプニングはあったが、後半の海も俺たちは全力で楽しんだ。


 砂浜に深い穴を掘って、文字通り吉川を「埋没」させたり。

 童心に帰って、バカみたいに本気で巨大な砂の城を築き上げたり。



 やがて日は大分傾き、空の色が変わり始めた。


「よし、泳ぎ納めにするか!」


 誰かの声を合図に、名残惜しむようにみんなで海へ入っていく。



 ヒリヒリと焼けた体に、ぬるくなった海水が心地いい。

 だが、その一瞬の隙を突くように、タイミング悪く高波がザパァーンと押し寄せた。


挿絵(By みてみん)


 足のつく場所ではあったが、不意に頭から波を被り、視界が真っ白になる。

 ゴボリ、と肺が鳴り、慌てて顔を上げた。


 その時、俺は見逃さなかった。

 すぐそばにいたはずの愛美の姿が、消えていた。



「愛美!」



 波にのまれたのだ。

 俺は決して泳ぎが得意な方じゃない。

 だが、咄嗟に愛美の手が見えた方へ、無我夢中で足を踏み出した。


 そこはまだ足がつく深さだった。だが、急な衝撃でパニックになったのだろう。

 愛美は上下の感覚を失い、もがいていた。

 俺は必死に手を伸ばし、その細い体を抱きすくめて強引に立たせた。



「……大丈夫だ! 大丈夫、俺が支えてるから!」



 激しく、ケホッケホッと咳き込む愛美を、全力で抱きしめる。

 だが、場所が悪かった。足はつくものの、引き波の力が尋常ではない。


 これが離岸流というやつだろうか。油断すれば、二人まとめて持っていかれそうだ。

 俺は踏ん張りながら、一歩ずつ、慎重に愛美を支えて岸へと歩いた。



「楓くん……っ」


「大丈夫。心配ない。俺がいるから、ね?」


「うん……でも、あの……」


「ん?」


「……水着が、流されて……」



 愛美の消え入りそうな声に、思考が一瞬フリーズした。

 おそらく高波の衝撃だろう。縦の水流は着衣が外れやすいと聞いたことがある。



「……あ」



 いや、決して悪気はないんだ。断じてない。

 けれど、見てしまったような気がするような、しないような……。



「……とりあえず愛美、俺の後ろから肩を掴んでろ。このまま岸まで行くぞ」


「うん……」



 小さくウナヅいた愛美は俺の肩をつかみ、しっかりと寄り添って歩く。


 俺は前方を向いたまま、必死に平静を装った。

 怖かったんだろう、今も怖いんだろう、水着も流されて恥ずかしいだろうし。


 負の感情に寄り添いたい自分と、それ以上に主張してくる背中の感触。

 モッチリとした煩悩が、恐ろしいほど心を揺るがしてくる。




 立って歩け 前へ進め


 あんたには立派な足がついてるじゃないか




 自らを鼓舞して前に進む。


 浅くなってきたところで、俺は真っ先に「適任」の人物を呼んだ。



「萌奈美ー! 悪い、バスタオル持ってきてくれ!」



 続いて、状況を瞬時に察してくれそうな男を呼ぶ。



「皆ちゃん、ちょっといいか?」


「どうした? ……ああ、なるほどね」



 さすがは皆ちゃんだ。俺の表情と愛美の状態を見ただけで、すべてを察してくれた。



「ゆき、ちょっといいかい? 一緒に『探し物』をしてほしいんだ」


「わかった。行こう」



 皆ちゃんのリードでゆきちゃんが動く。俺は二人の背中に声をかけた。



「皆ちゃん、無理はしないでくれ。流れが速いところがあるみたいなんだ。遠くに行ってたなら、諦めていいから。水の事故なんて嫌だからな!」


「OK、任せなよ」



 萌奈美が持ってきたバスタオルに愛美をくるみ、俺たちは一度テントへと戻った。



 一息ついた頃、波間の方から「お宝ゲットォォォ!」という絶叫が聞こえた気がしたが……多分、気のせいではないだろう。


 予想はついていた。


 ありがたいことなのだが、なんというか……ものすごく残念な気持ちになる。



 案の定、皆ちゃんが岸辺で頭を抱えていた。

 そしてゆきちゃんが、吉川の手から「それ」を冷徹な手つきで取り戻す。



「……ありがとう、吉川くん」



 ヒョウテンカの微笑みを浮かべるゆきちゃん。

 吉川はいつも通りだが、とりあえず全員無事だ。それが何よりだった。



 シャワーを浴び、帰りの準備を整える。

 俺は、少しだけシュンとしている吉川の横に並んだ。



「吉川、本当にありがとうな。あのままじゃ夕暮れで見えなくなってたところだ。お前のおかげで助かったわ」



 わざと、近くにいたゆきちゃんたちに聞こえるように大きな声で言った。



「おう? 俺、目はいい方だからな」



 目配せをしながらムツも皆ちゃんも、それに続いてフォローを入れる。

 吉川は照れくさそうに笑い、女の子たちもようやく小さな微笑みを返してくれた。


 愛美も最後が嫌な思い出にならなくて済んだようで、ほっと胸をなでおろす。



 波にさらわれかけた緊張感が、ようやく砂浜に溶けて消えていった。


 全員が無事であること。

 その最低限で最高の結果だけを噛み締め、俺たちの「海」が幕を閉じる。


 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 波にさらわれた愛美を救った楓でしたが、そこには避けては通れない「煩悩」との戦いがありました。

 そして、相変わらずの吉川と、それを見守る(?)仲間たち。

 全員が無事に岸へ戻れたことが、この夏の何よりの収穫かもしれません。


 騒がしかった海辺も、ようやく静かな夕暮れを迎えようとしています。

 次回、物語はさらにエモい夕方のシーンへと続きます。



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