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第81話:命をかけた「ありったけ」

いつも応援ありがとうございます、武徳丸です。


海編午後の部は、お待ちかねのバーベキュータイム!

最高級の「サフォークラム」の香りが漂う中、女子陣からは男子の心臓に悪い「ある提案」が投げかけられます。


今回、ミヤはまさに命がけの覚悟を決めました。

その覚悟の重さは、もはや有名漫画の主人公クラス。

彼が「ありったけ」を込めて放った一撃は、果たして届くのか……?


夏の陽射しより熱い、お食事タイムの幕開けです!


 羽幌(はぼろ)の空は高く、正午を過ぎて日差しはさらに勢いを増していた。

 海遊びで適度に腹を空かせた俺たちの前に、いよいよ本日のメインイベントが姿を現す。



「よし、焼くぞー!」



 吉川の親父さんの威勢のいい声とともに、コンロに火が灯る。

 食材のメインは吉川家、飲み物類は愛美の母・美沙さんがすべて用意してくれた。車を出してもらった上に昼飯までご馳走になるとは、感謝してもしきれない。

 

 さらに、並べられた肉を見て、俺のテンションは跳ね上がった。



「おい吉川、これ……もしかして」

「へへ、気づいたか。本日のジンギスカンは、士別産サフォーク特選ラムだ!」

「おおーっ!」



 俺とムツ、そしてミヤから歓声が上がる。

 北海道民といえども、地産の羊肉はなかなか口にできない代物だ。

 通常、スーパーに並ぶのはオーストラリア産。それでも十分美味いが、士別産サフォークラムとなれば話は別だ。


 国産豚肉が100グラム300円、牛肉が600円程度だとすれば、士別産サフォークは1100円を超えることもある高級品。

 何より違うのはその肉質だ。臭みがなく、とにかく柔らかい、そして肉の旨味を最大限に引き出す秘伝のタレ。まさに「ベストチョイス」と呼ぶに相応しい逸品だった。



 ジューッ、と小気味よい音とともに、芳醇な香りが砂浜に広がる。

 肉を焼きながら、ふと「カリテス」の一人、里奈ちゃん――藤原さんが声を上げた。



「ねえ、ちょっと思ったんだけどさ。みんな、私たちのこと苗字で呼ぶじゃん。……なんか、ちょっと寂しいんだよね」

「そうね。せっかくの海だし、名前で呼んでみない?」



 小野寺ゆきさんも同意する。その提案に、吉川が喉を詰まらせた。

「……っ、ハードル、なまらたけぇよ……」



 あのカリテスを下の名前で呼ぶ。それは男子にとって、聖域に踏み込むような畏れ多さがあるのだ。だが、そんな空気をムツがサラッと更新した。



「じゃあ、里奈ちゃんでいい?」

「うん、いいよ! ありがと、ムツくん」



 里奈ちゃんが満面の笑みを浮かべる。便乗して俺も続く。



「俺も、ゆきちゃんって呼んでいいかな?」



 俺の問いに、皆ちゃんとゆきちゃんがニコニコと頷く。

 残るは、あの一人だ。ふと隣を見ると、ミヤが何やら呪文のようにつぶやいていた。



「逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……」



「ミヤ、大丈夫か?」



 俺が小声で聞くが、そいつの目は据わっていた。



「……もう、これで終わってもいい。だから、ありったけを……」



「ん? ミヤ、お前それゴン……」



 俺のツッコミが届くより早く、ミヤが震える唇を必死に動かし、蚊の鳴くような、それでいて全力の声を出した。



「あ、あ、あしゃこちゃん……っ!」



 一瞬の静寂の後、爆笑が巻き起こった。

 制約と誓約をかけたはずの覚悟は、緊張による滑舌の崩壊にあっけなく散った。



「ミヤくん、私の名前、亜沙子(あさこ)だよ?」



 逢坂亜沙子さんが、悪戯っぽく微笑む。



「いいじゃん、あしゃこ! 親近感あって最高だよ!」



 ゆきちゃんが笑い転げ、里奈ちゃんもノリノリで(はや)し立てる。



「じゃあ、ミヤくんだけは特別に『あしゃこ』って呼んでいいよ。……特別、だよ?」



 首を少し傾け、天使のような笑顔でトドメを刺す亜沙子さん。



(((その言い方は、ダメだろ!!)))



 俺や吉川、さらには大人たちまでが、心中で総ツッコミを入れた。

 破壊力が、特選ラムの比ではない。



「……っ、ハ、ハイ……」


挿絵(By みてみん)


 ミヤはそれだけ言うと、真っ赤になったまま石像のように固まった。

 そこへ、「すいませーん」と声がかかった。午前中にバレーボールを飛ばしてきた大人たちのグループだ。



「さっきは本当にごめんね。あれ? その子、大丈夫?」

「あー、大丈夫です。ボールじゃなくて、別の衝撃で固まってるだけなんで」



 俺が苦笑いしながら説明すると、彼らは「そうかい?」と笑い、手に持っていた発泡スチロールの箱を差し出した。



「お詫びに、これ食べて。帆立(ほたて)にタコ、つぶ貝。今朝上がったばかりだから」



「えっ、こんなにいっぱい? 申し訳ないです!」



「いいんだよ。俺たち漁協(ぎょきょう)の人間だからさ。遠慮なく受け取ってよ」



 爽やかなお姉さんの笑顔とともに、羽幌の海の幸がどっさりと並んだ。

 高級ラム肉に、獲れたての海鮮。そして、名前で呼び合うようになった距離感。


 ミヤの心臓が保つかどうかは怪しいが、俺たちのバーベキューは、これ以上ないほど豪華で熱いものになっていった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


劇中に登場した「士別産サフォーク」ですが、実は先日、テレビ番組の『笑ってコラえて!』でも紹介されたばかりの実在する名産品です。


今回、作中のモデルとさせていただいたのは、士別で「ペコラファーム」を経営されている山下社長のラム肉です。

山下社長とは縁もあり、その並外れた情熱と技術を知っていたからこそ、どうしても楓たちにこの「本物の味」を食べさせてあげたくて登場させました。


特にペコラファームさんの肉は、徹底した保存方法や丁寧なトリミング技術がプロの料理人からも高く評価されており、高級レストランなどで扱われる一級品です。


北海道の風土が生んだ、不器用ながらも温かいこだわりが詰まった士別の味。

皆さんも機会があれば、ぜひその特別な美味しさを探してみてください。


応援よろしくお願いします。


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