表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/84

第75話:テントの攻防と、朝もやの軌跡

 一人の夜を過ごすはずが、まさかの展開。

 狭いテント、左右から伝わる体温と、柔らかい感触……。

 

 煩悩と理性の狭間で、楓の長い夜が始まります。

 

 後半の湖畔のシーンは、作者が実際にキャンプで目撃した「実話」に基づいています。

 あの幻想的な光景を、ぜひ三人と一緒に体験してください。


 まさか、こんなことになるなんて。


 一人用のテントに三人。流石に狭すぎるだろ。

 そして、なぜ当然のように真ん中が俺なんだ。


 三人が密着しているせいで、寝袋を使う必要すらない。

 俺たちは一枚の大きなブランケットにくるまり、横になった。


 右にハルちゃん。左にさっちゃん。

 なぜ二人とも、俺の方を向いて寝ようとするんだ。


「あの、おやすみ……なさい……」


「うん、おやすみ」


「おやすみ」



……

…………

………………


(寝れんがなーー!)



 心の中で絶叫した、その時だった。


「んぅ……」


 さっちゃんが、俺の左腕をぎゅっと抱きしめてきた。

 あの! おっふ! あおっ!?

 腕が、得も言われぬ柔らかいものに包み込まれて、脳内の警報が鳴り響く。


 さらに反対側。


「……ふふ」


 今度はハルちゃんが、俺の右手を自分の足で挟み込もうとしてくる。

 ちょっと! はうっ! はぁ~……。

 だめなんだ、ハルちゃん。そこは手が触れちゃいけない聖域なんだよ!



 その身尽きても、その魂は死なず……。

 リンドウ・カエデ、十六歳。ここに眠る。



 いや、この状況じゃ逝くこともできねぇよ!

 どうしたらいい? 二人とも、本当は起きてるのか?


 確認しようにも、顔が近すぎて、下手に横を向いたら唇の接触事故が起きる。

 耳をそばだてると、二人から規則正しい「スースー」という寝息が聞こえてきた。


 ……あぁ、そりゃ疲れるよな。

 トンネルまで歩かせて、慣れない設営に料理。

 夜遅くまで起きていたんだから。


「俺は寝れんけどね!!」



 どうしよう、どうしよう……。

 悶々と悩み続けた。


 そして、寝たいと思っても寝れないので


 ――そのうちカエデは、考えるのをやめた。



 それから小一時間ほど経った頃だろうか。

 二人が不意に寝返りを打った。


 ここだ!

 俺は音を立てずに起き上がり、二人にブランケットをかけ直す。

 ついでに寝顔をしっかり拝ませてもらった。


挿絵(By みてみん)


 二人ともマジ天使。



 俺は静かにテントを這い出し、外の空気を吸った。

 焚き火台に小さな火を灯し、ランタンを点ける。

 椅子にもたれかかり、俺は一人、考え込んだ。


 ……右手と左手の感触を思い出しながら。


 いや、違うぞ! そうじゃない!

 二人が俺のことをどう思ってるのかなって、そっちを考えてるんだからな!


 ……まあ、嫌われてはいない……よな?

 俺も二人のことは大切な友達だと思ってる。

 友達……だよな?


 パチパチとはぜる薪の音が、相槌を打ってくれているようだ。

 俺はコーヒーを淹れ、その煙を目で追った。

 煙は吸い込まれるように、満天の星空へと消えていく。


 ふと、光が走った。

 流れ星だ。

 まだ少し早いが、もうペルセウス流星群が見え始める頃らしい。


 願わくば、この三人の関係が、いつまでも続きますように。

 

 ……そんなガラにもない願いを抱いているうちに、俺はウトウトと眠りに落ちていた。



 チリチリ……チリ。


「ア゛ッヂ!!」


 熱っ! 熱いーー!

 飛び起きると、シャツの横っ腹に火の粉が飛んで、穴が開いていた。


「なになになにー?」

 さっちゃんが目をこすりながらテントから顔を出す。


「なんでりん、外にいるのー?」

 続いてハルちゃんも、まだ目が開いていない状態で這い出てきた。


「……二人の寝顔が可愛くて、寝られなかったんだよ」


 正直に(?)答えると、ハルちゃんが真っ赤になって顔を隠した。


「恥ずかしい!」


「……今の、金取るぞー」

 流石はさっちゃん、平常運転だ。



 三人で焚き火を囲み、朝日を待つ。

 太陽を待つ湖畔が明るくなり始めると、神秘的な光景が広がった。


「あれ? りん、湖が……」


 明るくなり始めた湖面から、白い霧が立ち上っている。

 それが一つの塊となり、ゆっくりと龍のように空へ昇っていくのだ。


挿絵(By みてみん)


 幻想的な、夢のような景色。

 立ち上った煙は、そのまま青空の雲へと変わっていく。

 それに合わせて朝日が昇り、湖面はキラキラと黄金に輝き始める。


「……俺も、こんなの初めて見た」


「私も……」


「ウチも」


 なんて現象かは分からない。

 けれど、昨夜の恐怖も甘い時間も、すべてを包み込んでくれるような絶景だった。


 この景色は、今ここにいる三人しか知らない、特別な宝物だ。


 最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

 楓は1月生まれなので、高2の夏で16歳。早生まれ設定です。

 

 ラストの「龍のような煙」は、作者が大学のゼミキャンプ中に見た実話です。

 教授や他のメンバーは寝ていて、自分一人しか見ていなかったために当時は誰にも信じてもらえませんでしたが……。

 

 小説の中で、ようやく二人のヒロインが証人になってくれました。

 シャツの穴も実話ですが、良い子は真似厳禁です(笑)。

 

 次回、キャンプ編ついに完結!

 応援の評価やブクマ、お待ちしております!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ