第74話:星降る夜の夢の告白
キャンプの夜、本当の主役は空にありました。
二人を連れて向かったのは、街明かりの届かない秘密の場所。
降り注ぐような星空の下で、二人は胸に秘めていた「大切なこと」を話し始めます。
焚き火の片付けを終えた俺は、二人を連れて少し離れた原っぱへと向かった。
そこはキャンプ指定地のはずだが、テントは一つも張られていない。
「ここはテント、ほとんど無いんだね」
「うん。日中は日陰になるところがないから、みんな避けるんだろうね。
……よし、ここならいいか」
俺は持ってきたレジャーマットを広げ、蚊取り線香に火を灯した。
「二人とも、ここに寝っ転がってみて」
「えっ、こう?」
言われるがまま、マットに背中を預けた二人が、次の瞬間――言葉を失った。
そこには、プラネタリウムよりも鮮明な、三百六十度のパノラマが広がっていた。
無数の星々が、まるで白い川のように天の川を描き出している。
「きれい……」
さっちゃんが、ポツリと呟いた。
「こんなにたくさんの星を見たのは、初めて……」
ハルちゃんも、溢れる光景に圧倒されて言葉を詰まらせている。
夜風が少し冷たくなってきた。
俺はリュックから大きめのブランケットを取り出し、二人の体にかける。
「風邪引いたら困るからな」
「あったかい……。ねえ、りんも一緒に見ようよ」
「楓も寒いでしょ? 真ん中においでよ」
「えっ! いや、それはまずいっしょ……」
流スタに女子二人の間に入るのは抵抗がある。
だが、二人は逃がしてくれそうにない。
「りんが風邪引いたら困るよ」
「楓、早く来なさい!」
なし崩し的に、俺は二人の間に収まった。
……あったかい。
左右から伝わる体温が、星空よりも刺激的だ。
「ふふっ、あったかいでしょ!」
「へへっ、りん、いい匂いする」
「……二人とも、ちょっとくっつきすぎじゃないかい?」
さっちゃんの柔らかい感触が二の腕に当たり、ハルちゃんが当然のように俺の腕を絡めてくる。
「だって寒いから、しょうがないもん」
「ねー」
確信犯だ。俺は思考を止めて、夜空を見上げた。
「……二人、星は詳しい?」
「私、好きだよ」
ハルちゃんがそう言うので、俺は強力なペンライトを彼女に渡した。
光の筋が空を指す。
「ライト使うと、星を教えるの分かりやすいんだよね。
よく父さんがやってくれたんだ」
「すごい……。光の線が星まで伸びてるみたい」
「じゃあ、葵、早速教えて!」
「じゃあ、夏の大三角形からね……。
あれがベガで、こっちがアルタイル」
「葵、すごーい! 織姫と彦星ってどれになるの?」
「あ、それはさっきの二つだよ。一年に一度、天の川を越えて会うんだよー。
それでその隣にある星が……」
ハルちゃんは、本当に星に詳しかった。
「ハルちゃん、星好きなんだね」
「うん! 家に星座の本があって、ギリシャ神話のお話も大好きだったの」
「そうだったんだ」
「……将来、天文台とかで働けたらなって。……あ、今の、恥ずかしいね」
少し顔を赤らめるハルちゃんに、俺は即座に答えた。
「そんなことないよ。素敵な夢だ」
「私は、看護師になる!」
さっちゃんが、力強く宣言した。
「おおー……。ん? 看護師?」
「……何よ、その反応。葵の時と違いすぎない?」
「いや、さっきの夕食準備で、包丁持ってウロウロしてた姿を思い出しちゃって……」
「うんうん。治す方じゃなくて、傷つける方だね」
ハルちゃんも乗っかってくる。
「へぇー、みんなウチのことをそんな風に思ってるんだ……」
「冗談だよ。さっちゃんの明るさがあれば、患者さんもすぐに元気になれるだろうね」
「ウフフ、そうでしょ!」
二人の夢。
なんだか眩しくて、俺は少し目を細めた。
「りんは? 何か考えてるの?」
「うーん、先生になりたいような気もするけど……。
でも、そこまでハッキリしたものはないんだ。
……あ、でも、将来は『物知り爺さん』になりたいな」
「「なんだそれー!」」
二人が同時に吹き出す。
「近所の子供たちに、余計なことばっかり教えて煙たがられる爺さん。
楽しそうだろ?」
「「……あ、なんか分かるー!」」
星空の下、三人の笑い声が静かに響く。
夜も更けてきた。名残惜しいが、そろそろ潮時だろう。
「そろそろ戻らないと。友達がテントで待ってるんじゃないか?」
「そうだね。戻ろっか」
二人のテントまで送り届けると、案の定、誰も戻っていない。
友人たちのテントは、もう明かりが消えて静まり返っている。
「どうしよう……二人じゃ怖いよ」
ハルちゃんが不安そうに俺の服の裾を掴む。
さっちゃんが、とんでもない提案をしてきたのはその時だった。
「……ねえ。いっそのこと、りんのところで寝よっか?」
「ええーー!?」
ハルちゃんの意外な夢、さっちゃんのらしい夢、そして楓の……おじいちゃん計画。
それぞれの個性が星空の下で交差する、お気に入りのシーンです。
……さて、最後にとんでもない爆弾が投下されましたね。
「りんのところで寝よっか?」
怖い話を聞いた後の、一人(二人)では眠れない夜。
次回もお楽しみに!




