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第71話:局長特製ダッチオーブン

 キャンプの醍醐味といえば、やっぱり食事!

 ですが、その前に一行は「北欧のよう」とも評される朱鞠内湖の遊覧船へ。

 

 絶景に癒やされた後は、いよいよ楓の料理スキルが火を吹きます。

 ……そして、ヒロインたちの「胃袋を掴む戦い」も、静かに幕を開けるようです。


 テントの設営も一段落し、事前に予約しておいた遊覧船の時間だ。

 俺は局員たちを見渡し、声を張り上げた。



「よし、みんな! 夕食の前に、遊覧船に乗るよ!」



 鏡面のような朱鞠内湖を、遊覧船が静かに滑り出す。

 スピーカーからは、この湖の誕生を物語るガイダンスが流れていた。



 遮るもののない青空が深い水面に溶け込み、微風が頬を撫でる。

 複雑に入り組んだフィヨルドのような島々が、陽光を浴びて宝石のようにキラキラと輝いている。



「スゲー! 北海道なのに、北欧の映像見てるみたいだ」

「見て、あの島! あそこにも行けるのかな?」



 原生林の静寂とエンジン音が混ざり合い、日常を遠くへ置き去りにしていく感覚。

 皆が「気持ちいい!」と賑やかに過ごす中、彦根先生だけは設営に全力を出し切ったのか、あるいは船に酔ったのか、ぐったりと項垂れていた。



 約三十分のクルーズを終え、港に戻る。

 遊覧船が立てた波で、水際ギリギリにテントを張った奴らが入り口近くまでびしょ濡れになったと騒いでいる。

 はははっ、俺は注意したぞ。

 知らん知らん。



「さて、そろそろ四時か。夕食の準備を始めようか」



 今回は全体でカレーを作り、あとはグループごとに好きなものを作るスタイル。

 もしグループ料理に失敗しても、カレーという保険がある素敵なシステムだ。



 俺は各班のサポートに回った。

 女子たちの手際の良さには感心するが、包丁を持ってウロウロしているさっちゃんは、正直言って少し怖い。



 一方、男どもはかまどの火付けに悪戦苦闘していた。

「おい、誰だ。最初から備長炭に火を付けようとしてるのは……ミツルか!」



「これ、高いいい炭なんですよ、りん先輩!」



「いい炭なんだけどな、備長炭はそう簡単に火が付かないんだよ」



 俺は自分のテントから『ファイヤーチムニー(火起こし器)』を持ってきた。

 筒状の煙突効果で素早く火を育てる魔法の道具だ。



 文化焚き付け、通常の木炭、そして備長炭の順に詰め込み、火を放つ。

 数分後、筒の上から勢いよく炎が上がると、局員たちから「おぉー!」と歓声が上がった。



「焚き付けが燃え尽ける頃には炭も赤くなってるはずだ。あとは任せたぞ」



 復活した彦根先生は、山岳部時代の経験を活かして飯盒炊飯を担当してくれた。

 十個もの飯盒を同時に捌く先生の姿は、珍しく格好良かった。


 お米炊くのって結構難しくて、各自にやらせると失敗が続出するだろう。

 本当にありがたい。



 カレー鍋の横、空いたスペースを借りて俺も自分の料理を始める。

 家で下準備してきたダッチオーブン料理。

 味付けした骨付き鶏もも肉、玉ねぎ、ピーマン、じゃがいも、人参を詰め込み、イカれた塩と胡椒をたっぷり振って蓋をする。


挿絵(By みてみん)


 蓋の上にも炭を置き、あとは熱を閉じ込めて放置する。



 周りではピザ、ホイル焼き、バーベキューと、それぞれが持ち寄った料理で賑やかな食卓が完成していく。

 俺も男連中に呼ばれたが、立地の悪い彼らのテントを避け、女子たちのエリアへダッチオーブンを持って移動した。



「楓先輩、こっち来て食べてください!」

「局長! こっちのも美味しいですよ!」



 椅子と鍋を持った俺は、あちこちから一口サイズのお裾分けを口に放り込まれる。

 うーん、役得。だが、本命たちの視線は鋭かった。



「……浮気者がやっと来たね」



 ハルちゃんが一口ピザを「あーん」と差し出してくる。

 パリッとした生地にチーズがとろけて、最高に美味い。



「ウチのも食べて!」



 さっちゃんが牛サガリの炭火焼きを突き出してきた。

「あつっ! 火傷するわ!……でも、うまっ」



 結局、二人の間に腰を落ち着けることになった。

 彼女たちのメニューは、バーベキューコンロでの焼肉と、餃子の皮を使ったミニピザだ。



「じゃあ、お礼に俺のも……」



 ダッチオーブンの蓋をガランと開ける。

 フワッと一気に溢れ出す湯気と、スパイスの香ばしい香り。



「「「すごーーい!!」」」



 周りに人だかりができてしまったので、お裾分けタイムに突入した。

「みんな、皿持ってこーい!」



 一口ずつだが振る舞うと、あっという間に完売。

「おいしー!」という声の合唱に、俺の腹も心も満たされていく。



「りんは焼きそばの時もそうだけど、本当に料理上手よね」



 ハルちゃんが感心したように言う。



「ハルちゃんも上手だろ?」



「えへへ、いつか一緒に台所に立って料理するのもいいね」



「ん?……うん、そうだね……?」



「ウチも! 楓の好きな『ちらし寿司』作れるようになるから!」



「あー、ばあちゃんに作り方を熱心に聞いてたもんね」



 なぜか二人ともボルテージが上がっている。ダッチオーブンの熱にあてられたのだろうか。



「ちらし寿司って何よ!」

「何が『えへへ』よ!」



「……まあまあ、仲良くしなさいって」



 俺の苦笑いに、周りの女の子たちも楽しそうに笑っていた。


 ダッチオーブンで作るローストチキン、キャンプ場であの香りが漂ってくると、もう堪りませんよね。

 ちなみに楓が使っていた「イカれたクレイジーソルト」は、アウトドア好きにはお馴染みの魔法の調味料です。


 さっちゃんが持ち出した「ちらし寿司」のキーワード。

 おばあちゃんから教わろうとしているあたり、彼女の本気度が伺えます。

 一方のハルちゃんも負けてはいられません。


 お腹も膨れたところで、次回は夜の帳が下りる朱鞠内湖。

 あの「城」のような巨大テントで、何かが始まります……!

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