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第70話:それぞれの秘密基地

 朱鞠内湖キャンプ場に到着!

 さっちゃんのお母さんから「公認」をいただいた楓ですが、本人はそんなこと露知らず。

 局長として、そして一人のキャンパーとして、波乱の設営が始まります。


 朱鞠内湖キャンプ場に到着し、俺たちは荷物を降ろした。

 最後に、今日一日お世話になったさっちゃんのお母さんへ、深く頭を下げる。



「今日は本当にありがとうございました。助かりました」


「いいのよ。楽しんでね、楓くん」



 俺が少し離れて荷物の整理を始めた時、さっちゃんのお母さんは二人のヒロインをこっそり呼び寄せた。



「さつきも、葵ちゃんも。……あれはいい男だよ」


「「えっ!?」」



 二人の顔が瞬時に林檎のように赤くなる。



「勉強ができるできないとかじゃなくてね。誰かのこと、何かのことを、あんなに真剣に思える子、なかなかいないわよ」


「……それは、知ってるけど」



 さっちゃんが照れくそうに視線を泳がせる。お母さんはさらに続けた。



「あの子、私のことを一度も『おばさん』って呼ばないのよ。ずっと『さっちゃんのお母さん』って。大人にまで自然に気配りができるなんて、素敵じゃない?」


「そういえば……そうですね」


「本当だ……!」



 二人は改めて、少し離れたところで手際よく荷物を仕分けている俺の背中を見つめた。



「二人ともライバルで大変だと思うけど、頑張りなさい!」


「んもー! お母さん、そういうのやめてよ!」


「はは……頑張ります」



 そんな密談が行われているとは露知らず、俺は戻ってきた二人に声をかけた。



「お、戻ったか。何かあったのかい?」


「「何にも!!」」



 ハモりながら猛烈に首を振る二人を不思議に思いつつ、俺たちは走り去るミニバンを見送った。



 集合場所に行くと、すでに局員たちが集まっていた。

 全員が揃ったところで、吹奏楽局局長の俺が前に立つ。



「えー、みんな。日頃の練習、本当にお疲れ様。今日はその労いも兼ねたレクだ。……ただ、前にも言ったが、今回は『釣り』は無しだ」



 局員たちから「えーっ」と不満の声が上がる。

 ここ朱鞠内湖は、巨大なニジマスや「幻の魚」イトウが狙える聖地だ。釣りをしたい気持ちは痛いほどわかるが、俺は真剣だった。



「近年、この付近でも熊のニュースが出ている。実際、ここでは痛ましい事故も起きているんだ。キャンプ場エリアからは絶対に出ないこと。笑い話にならないことが起きるから、これだけは守ってくれ。いいね?」



 その重い言葉に、場が引き締まる。

 

 顧問の彦根先生からは?

 何もない?

 いいから始めようぜ?

 なぜか先生が一番ウズウズして鼻息を荒くしている。



「先生の方が待ちきれないんじゃない?」

「なんでアンタが一番張り切ってるんだよ!」



 みんなからのツッコミが入り、笑いが起きたところで設営開始となった。

 テントは男子と女子でエリアを分け、それぞれ三〜四人のグループで張っていく。



「男どもは自分たちでできるな? ミツル、大丈夫か?」


「大丈夫っす、りん先輩!」



 威勢のいい返事を聞き、俺は女子側の手伝いに回った。

 なるべく日陰で平らな場所を案内し、石や木の根が背中に当たらないかチェックして回る。



「あんまり藪の近くに行くと虫が入ってくるぞ。あと、友達同士だからってテントを近づけすぎると、ペグが打てなくなるからな」



 そんなアドバイスを送りながら、女子たちの寝床を完成させていく。

 一方、男子連中はやりたい放題だった。



 湖のギリギリに立てる奴ら。

 風が吹いて波が立ったら浸水するぞ。


 秘密基地のように笹藪の中に立てる奴ら。

 絶対に虫に刺される。


 遠くの林の中に立てる奴ら。

 トイレも炊事場も遠くて後悔するぞ。



 一応声はかけるが、深追いはしない。失敗もまた、キャンプの思い出だ。



 俺はと言えば、炊事場がなくても困らない装備だ。

 みんなから離れすぎず、かつ静かな木陰を見つけ、二人の前で例のヤツを披露した。



「じゃあ、いつものように……パラレル パラレル、テントになれ!」



 ケースから出したテントを空中にぶん投げると、ボフンと一瞬で形になった。



「なにそれ!?」


「私たちが、あんなに苦労して組み立てたのに!」


挿絵(By みてみん)


 二人が呆れたように叫ぶ。

 呪文はスルーね……。

 二名用の小型ポップアップテントだが、ソロならこれで十分だ。

 湖が見える向きに設置し、今回はタープも張る。



 みんなにいい場所を譲ると日陰がなくなるだろうと予想していたので、最初から自前で影を作る作戦だ。

 いつも通り、入り口左右に蚊取り線香をつけてと。

 焚き火スペースをタープで覆い、椅子、焚き火台、ランプを並べると、一気に「通」のサイトが出来上がった。



「わー、最初はお手軽だと思ったけど、本格的なんだね」


「前よりも、もっとキャンプっぽくなってる!」



「車だと荷物増やせるからね。さっちゃんのお母さんに感謝だよ」



 俺は少し腰を下ろしてから、立ち上がった。



「みんなが準備してる間に、焚き木を拾ってくるよ」



 林に入り、よく乾いた枝や松ぼっくりを集める。

 中にはずっしりと重い、立派な丸太のような枝も落ちていた。

 

 それらを抱えて戻ると、何やら人だかりができていた。



 中心にいたのは彦根先生だ。

 生徒たちに手伝わせながら、巨大な布の塊と悪戦苦闘している。



「……あー、張り切りすぎだろ、先生」



 それは某会員制マーケットで売っている、アメリカンサイズの十二人用テントだった。

 

 あんな「城」みたいなテント、俺も立て方は知らんし、他のキャンパーの邪魔じゃないかと思うが……まあ、遠くからでも自分たちの場所がわかる目印にはなるか。



 こうして、朱鞠内湖での波乱含みのレクリエーションが、本格的に幕を開けた。


 テントをぶん投げて設営!

 あのポップアップテントの便利さを知ると、普通の設営には戻れなくなりますよね(笑)


 一方、彦根先生が持ち込んだ「巨大な城」。

 あんなに大きいと、設営だけで日が暮れてしまいそうですが……。


 次回、いよいよ夕食の準備。


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