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「、ゲームへ」  作者: ヒト
第ニ章 骨の髄まで
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「太陽」

「お久しぶりです。雪の面会に来ました」

「翔くんやん、久しぶり!雪ちゃんも喜びますね!」

百合さんの歓迎もそこそこに、俺は雪の病室に向かった。

道中、蒼汰に現状報告をする。

「百合さん、コピーやから気をつけろ」

「了解」

それと雪の宿泊許可の話を先生にしてくれ、と伝えた。


俺はもう迷わない。支えてくれる人がいるから。

「よう、来たで!」

窓の外を見ていた雪は、俺の方を見た。

そしてベッドから降りて、飛びついてきた。

「お兄ちゃん、久しぶりぃ·····」

俺は胸元に顔を埋める雪の頭を、優しく撫でる。

「蒼汰、頼んだ」

蒼汰は親指を立てて、笑顔で病室を出ていった。

「他の皆は?後、何で蒼汰がおったん?」

「皆は後で来る。蒼汰は、俺のこと助けてくれたんや」

雪の表情が少し曇る。だから、もう大丈夫だと、優しく伝えた。そしたら雪も安心した顔をしてくれた。


──その時だった。

「翔ぉぉ、雪ちゃぁぁん、久しぶり!」

この騒がしい声は·····

「ただいま、咲ねえ、真弓、裕太、母さん」

あぁ、顔見ただけで泣きそうだ。それだけ俺は皆が恋しかったみたいだ。これも蒼汰のおかげだな。またなんか奢ってやろう。

「元気やっ·····」

世間話でもしようかと思ったら咲ねえが突然、俺と雪を抱きしめた。

「お帰りなさい。翔、雪」

いつものふんわりした雰囲気じゃない。帰郷を喜んでくれているみたいだ。

「ただいま、姉ちゃん」

何度だって体験してきたことだ。この心にじんわり染み込んでくる温もり。どんなものより、あったかい。

やっぱ家族っていいなぁ。


    

       病院 受付前


翔から頼まれた雪ちゃんの宿泊許可。百合さんには気をつけつつ、他の先生に相談しないと。確か、草原先生が雪ちゃんの──

「どうかしましたか?蒼汰くん」

背後からの声で体がビクッと跳ねた。声の正体。今、一番会ってはいけない人、百合さんだった。とりあえず誤魔化さないと。

「えっと·····ト、トイレっすよ!トイレ!」

誰がどう見てもバレバレの嘘。当然、問い詰められる。


「草原先生いますか?翔が用事あるみたいで」

観念して目的がバレない程度に喋る。

「草原先生?おったかな?」

そう言って、百合さんはスマホで連絡を取り始めた。これなら目的も悟られずに先生も呼べる。我ながら良くやった。偉いぞ、俺。

自画自賛もそこそこに、連絡を取っていた百合さんに一人の看護師さんが声をかけた。

その人と少し言葉を交わしたと思えば、百合さんは「ちょっと用事ができてね。力になれなくてごめん。草原先生からどこかにいるから」とだけ言って、看護師さんと奥のほうに歩いていった。


そんなこともあるよな。そう考えて予定通りに受け付けへ行こうとした。

胸騒ぎがした。さっきの看護師の顔が、ずっと頭の中で再生されていたんだ。

あの人の顔のシーンがずっと。

笑っている。普通の笑い顔に見えるかもしれない。でも俺は、噛み殺さんとする勢いの、邪悪な雰囲気を感じた。悪役の不敵な笑顔と言うのだろうか。とにかく嫌なものを感じ取った。

見たことがあるんだ、あの顔。噛んだら骨まで喰い尽くす。獣みたいな顔を。


いても経ってもいられず結局、百合さんを追いかけた。怪しまれないよう一定の間隔を保って。

しばらくすると二人は、人気のない病室に入っていった。その病室には名前はない。

何故こんなところに来たのか、ますます不安になる。聞き耳を立てると、会話が聞こえる。

「·····なんです。手伝ってくれませんか?」

これは看護師さんの声だ。百合さんは、戸惑ったような声をしている?

「何言ってるんですか?漫画の読みすぎですよぉ?」

百合さんのおちゃらけた声。

でも、返事はない。沈黙が続く。


呼吸が浅くなっていく。

「·····冗談、ですよね?」

百合さんの声は引きずっていた。

頭の整理が追いつかない。

翔には百合さんがコピーだと言われた。だから警戒していたが、今は百合さんよりもさっきの看護師のほうが怪しいと思う。

看護師が百合さんがコピーだと気づいて指摘したということもあり得るし、看護師がコピーで百合さんに何かしようとして──


「じゃあ殺すしかないですね」

突然の声と同時に、足音が響く。近づいていってる?結構、速足だな。というかこれ······ヤバい!

急いで扉を開ける。そこにはナイフを振り上げた看護師の姿があった。

「なっ!?なんでここが?」

混乱に乗じて拳を振るう。それは容易に交わされた。けど、そいつは本命じゃない!

俺は百合さんの手を取って、病室から脱出した。


「とにかく逃げますから!」

逃げる?何処に?人気のないところ?

いやそれは危険だ。相手の土俵で戦うのと同じになる。

そう考えていた矢先だ。

「あれ、百合さん?どうしはったんですか?」

声の方を見ると通りかかった看護師だった。

そして同時に、向かってくる奴の姿も目に映る。

「看護師さん、逃げてください!とにかく逃げて!」

「え?なにっ」

声が途絶えたと思えば、その人は喉から赤いものを垂らし、動かなくなった。

赤く染まった手には赤黒く塗られたナイフが握られている。その瞬間、恐怖が体を包みこんだ。内臓がドロっと溶け出すような感覚に襲われて、足元がふらつく。ここで死ぬかもしれない。そんな予感が過る。


こちらに彼奴の目が向く。猛獣のような目だ。相手が猛獣なら俺は兎か?そんな呑気な想像も、生きてる内できることだ。

·····死にたくない。

余計に足が竦んで動けない。恐怖で死にそうになった。

その時、突然体が動いた。引っ張られるような感覚。

「蒼汰くん、こっち!」

俺は百合さんに手を引かれて、エレベーターに飛び込んだ。扉が閉まる。

「蒼汰くん、落ち着いて!息、息吸って!」

言われるがまま、ゆっくりと息を吸った。

一気にしんどかった体が楽になった。どうやら呼吸を忘れるくらいビビってたみたいだ。

「すいません、助かりました」

視線をモニターに移すと、地下三階へと向かっていた。そこは荷物置き場になっていて滅多に人が来ないらしい。


「駄目です!そこは危険です!」

人気のないところは駄目だ。そこは完全に相手のフィールドだ。

けれど、百合さんは理性的に、そしてどこか感情を押し殺した声で言った。

さっき見た通り、奴は目撃者を平気で殺す。だから犠牲者を増やさないためにも、二人でどうにかしよう。そして患者を危険にさらしたくないと言った。俺はそれに共感するところがあった。確かに奴は多くの人を巻き込むかもしれない。それが誰かにとっての「傷」になるのは嫌だ。だから、俺たちは暗闇に包まれた地下へと足を踏み入れた。


この状況を俺だけでどうにかするのは不可能だ。一刻も早く翔に現状を知らせないと。

「ガンッ」

背筋がゾッとする。もし、ここに彼奴みたいな奴がいたら·····。俺は木偶の坊だろう。

今だってこんなに手の震えが止まらなくて、今朝食った米を吐きそうなぐらい恐怖してる。

「百合さん、電気つけてもらっていいすか?」

暗闇の通路を睨みつけながら言う。自分のできる最大限を今に集中させる。


前の方で何かが動く感覚があった。

「パチッ」

暗黒に光が灯ったと思えば、既にクロは光を塗り潰していた。先手を取られては防御しかできない。

向かってきたナイフを寸前で交わして、百合さんのほうに下がる。多分、こいつがクロだ。

コピーには強さは劣るが、こいつだって殺意を持ってる。その時点で立派な強敵だ。百合さんの手を引いて奥に行き、どこかの部屋に隠れた。


「百合さん、大丈夫ですか?」

俺は一旦腰を下ろして、百合さんに声をかけた。しかし、返事は返ってこない。百合さんは体を震わせて、息を荒くしていた。そんな様子を見て俺も怖くなってきた。目の前で人が死んだり、自分も殺されかけて、今まで感じたことないくらい恐怖してる。

でも──

そんな極限の中、百合さんはそんな恐怖の中、俺を助け出してくれた。震える呼吸を抑え込むように力強く息を吸う。

「よし!」

俺は強く生きるって決めたんだ。誰かの恐怖をかき消すくらいの、月夜を照らす太陽に。

どうも、ヒトです。この作品を読んでいただきありがとうございます。良ければ感想やブックマークをしてくれると嬉しいです。誤字脱字もあったら報告していただけると助かります。

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