「光と別れ道」
少し雪がちらついて寒くなってきた。
「そんで俺が悩んでることやけど·····」
実際に色々ありすぎてまとまっていない。
ぐちゃぐちゃに絡み合って、心がいっぱいになっている。
「なんでもいいから喋りたまへ」
蒼汰は相変わらずだし、まとまってなくてもいいか。
「ユルハのことなんやけどな。多分、俺が原因であんなんになったかもしれんねん」
吐き出すように俺は喋り始めた。過去の言葉が今のあいつを作り出したこと。その原因こそが自分だと。
「それやのに俺はあの子を殺そうとしとって·····」
そんな気持ちもある。でもそれ以上に·····
「今までユルハがやってきたことは絶対許せん」
恨む気持ちがあること。この気持ちは、真弓を、皆んなを傷つけたことは·····殺したことは、理性を失うほどの怒りを覚えた。何があっても、差し違えてでも殺す。そんなつもりでいた。
「でもそうしたら俺は、親父みたいになると思ったんや」
自分から原因を作っておいて、脅威となったら排除しようとする。それが俺の前の親父だった。
そしてそのクソ野郎に言われた言葉が今でも頭に残ってる。
「お前は俺とおんなじでクソ野郎や!邪魔になったら手も差し伸べず、見捨てて踏みにじるような奴や」
まさにそうだな·····と思ってしまった。
自分から手を差し伸べて結果、脅威になれば説得という選択肢を振り払って排除しよう。無責任だ。それが複雑に絡み合ってぐちゃぐちゃになっていった。
「そしたらさ、だんだんどうでもよくなってきてん」
空には雲がかかって、青い空は少しか覗いていない。地面に落ちる雪を見る。
「考えるのが面倒くさくなったというか、思考を止めて殺すことしか頭にない。それが今や」
悩みが悩みじゃなくなって、殺すという選択肢を後押ししているような感覚だった。
疑問も嫌悪もしていない。当然のような、ロボットみたいな感じ。
このままなら、ユルハを殺しても何とも思わないだろう。どうせ殺すんだし、このままでいいだろう。
違う、駄目だ。
「その感覚がさ、母親をぶっ殺した時とおんなじやってん」
記憶と思いが俺を止めた。それが喉に小骨が刺さったみたいに引っかかった。
それが良かったのかが分からなくて、また気持ち悪くなった。
「整理がつかんくて、もうわからんくなってきたわ」
一通り話し終えた。蒼汰の顔を見ると、少し怒ったような顔をしていた。
「とりあえずは分かった。いろいろ言いたいことあるからちゃんと聞けよ?」
そう言って、立ち止まり真っ直ぐ俺の目を見た。
「お前は阿呆や」
「·····は?」
おいおい、真面目な顔して何言ってんだこいつ。
「お前、俺がどんな思いで·····」
「まずはユルハや!」
俺の言葉を遮って喋りだしやがった。
「ユルハに関してはお前は一切悪くない」
そう言い放ったのだ。反論する暇もなく蒼汰は言う。
「誰かから受け取ったもんは、自分でつけ足していって意味を成すんや」
誰かの言葉に共感したり、言ってもらったことを意識するのはいい。でもその通りに生きていたら、広い世界が狭くなっていってしまう。だからそうならないためにつけ足していくんだ。いろんな事を経験して、時にはその言葉を否定して、学んでいくんだ、と。
覚えがあった。芳弘さん·····父さんを見て気づいたことだ。自分という芯を持ちながら、いろんな解釈を用いるところ。
思考が止まった頭が少しずつ働き出す。
芯がここで言う「貰い物」で、様々な解釈が「つけ足し」なのだ。芯と言う自分のルールのようなものを持って、それに乗っ取ってつけ足していく。そしてルールには包容力が必須で、自分とは違うものを知っていって認めることが大切なのだ、と。
それに俺はやっと気づいた。
「経験は環境によって違う。ユルハは·····環境に恵まれなかったんや」
教えてもらうことがなかったのだろう。
世界を狭い視野で見たまま、包容力を捨ててどんどん深く潜っていった。だから、あんな愛情表現しかできなくなったんだ。
「だからお前は悪くない」
面と向かってそう言ってくれた。
「そんでユルハを殺すことはクソ親父とは違うぞ」
生きていく上では、邪魔なものは対処しなきゃならない。今回はそれが殺す事になる。
じゃないと、翔が生きていけない。それにこれは翔が撒いた種じゃない。ただ向かってきた火の粉を払うだけだ。
「それに気づいてなかったから、お前は昔みたいに世界が狭くなってたんや」
「あぁ·····そうか!」
そこでようやく止まっていた思考が完全に復活した。
「やから俺はずっと、酷い顔してたんか」
憎悪で視界が狭まっていたんだ。
いつの間にか晴れていた空を見上げた。
蒼汰が背中を叩いた。
「ええ顔してるわ!」
「ありがとう」
なんだか胸が熱くなった。詰まっていたものが一気に消えて流れていた熱い血を感じ。気分が綺麗に晴れている。そんな今の俺が見た蒼汰の笑顔は、とても輝いていた。
朝倉家 風呂場
今日は翔が帰ってくる日だ!久しぶりだしちゃんと身なりは整えたいところ·····
「まゆちゃ〜ん。翔が先に病院行くって〜」
シャワーを浴びていると洗面所から咲ねえの声が聞こえた。
「分かった〜」
よっぽど翔は雪ちゃんが恋しいみたいだ。
私も早く二人に会いたいし、さっさと用意しよう!
「まゆねえ、ちゃんと服着とかんと兄ちゃんおったら見られるで?」
そうだ·····翔が帰ってきているときは気をつけないと。
「大丈夫!絶対多分気をつけるから!」
「·····絶対あかんやつや」
そろそろ寒くなってきたので、自室にいって服を取る。とりあえず部屋着を着て、服を選ぶ。
「これがいいかなぁ?」
翔が好きそうな服·····い、いや!今日はどんな服を着たい気分かなぁ〜。
そんな事を考えていると、窓から白い世界が見えた。冷たくて凍えるような寒さをしているくせに、世界を彩る雪の白が綺麗に見えた。
白色は好き。どんな色にも染まる事ができるし、何よりふかふかしていて優しい感じがする。翔も白色のマーガレットが好きと言っていたし·····
「白にするか!」
そうして無事、私は服を決めることに成功した。
髪を整えて、服を着て、心の準備をして·····
「もう行けるよ〜」
これで全員、準備完了!
玄関を開けると寒い空気が漂っている。
私はそんな事を気にせずに、誰もいない家に「いってきます」と呟いて鍵を閉めた。
「すげぇ〜。晴れてんのに雪降ってる」
「ほんまや。綺麗やね」
咲ねえが雪に向かって手を出した。そして私を見て、「似合ってるよ」と言ってくれた。
早く翔に会いたいな。なんて言ってくれるだろうか?褒めてくれるだろうか?
嬉しさと期待で胸は膨らんでいった。
「ドンッ」
突然、体に衝撃が走った。そのせいで尻もちをついてしまった。何事かと前を見ると私は誰かとぶつかっていた。
「す、すみません!」
急いで謝った。私がちゃんと前を見ていなかったのが原因だ。早々と立ち上がって手を貸す。
「大丈夫です。私も前を見てませんでした」
相手は私の手を取ってゆっくりと立ち上がった。
「そちらも大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
相互に無事を確認し合った。幸いどちらにも怪我はなく、一言交わして相手は歩いていった。私も振り返ることなく白く綺麗な道を歩いていった。
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