俺はこうしてメスガキママの赤ちゃんとして……異世界に産まれたのだった。
投稿遅くなって申し訳ありません。
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俺は特にすることもないため、ベッドの上で横になっていた。
扉を開く音がする。メスガキが帰ってきた音だ。
俺はまだ半分眠っている頭を揺さぶってゆっくりと上半身を起こした。
のっそりと立ち上がって音のする方へと歩いていく。
俺は部屋の扉を開けた。
「ただいま、いい子にしてまちたかぁ~!」
メスガキの威勢のいい声が部屋の中に響き渡る。
メスガキは俺をしっかり抱きしめようと胸の中に飛び込んできた。
「あぁ、おかえり。」
俺はできるだけ落ち着いた声でメスガキに応える。
「あれあれ、元気がないでちゅね。育史ってば……まだまだお寝坊さんなのかなぁ?」
メスガキは俺の異変に気付いたのか上目遣いで見つめた。
背を伸ばして俺の頬に触れる。ほんのりとした温かい感触が頬に伝わってくる。
「そんなことないぞ」
声は裏返ってないか、今まで通りできているのか、不安が心に残る。
俺は考える。どうメスガキに話すべきだろうか。
結局日記の中身は見ていない。直接メスガキのことを聞くべきだと思ったからだ。
「……ホントに?」
メスガキはそんな俺の様子に気付いたのだろうか。
ジッと俺のことを見つめてくる。
俺は言葉に詰まる。
「……。」
しばらくの間、沈黙が続く。メスガキは大人しく俺の言葉を待っている。
どうやら大事な話であることは薄々察しているようだ。
俺は重々しく口を開く。
「一つ、聞きたいことがある。」
生唾を飲み込み、メスガキの反応を伺う。メスガキは優しい目を俺に向けた。
「何かなぁ?」
「家族のこと聞いてもいいか。」
俺は恐る恐る言葉を口にした。彼女は何やら考え込むような仕草を向けた。
「どうして?」
いつもとは違う低い声が聞こえてきた。
彼女の声に対して俺は思わず息を飲む。
「……家族だからだ。」
俺は震える声を張り上げた。本心である、心の底からそう思って俺は呟いた。
「……何か見た?」
メスガキはゆっくりと口を開いた。俺は首を縦に振った。
「鏡見たんでしょ、それで帰りたいから理由を探そうとしている。」
メスガキは暗い表情を浮かべた。
「大人って本当に勝手だよね!そうやって切り捨てようとしてるんでしょ。」
彼女は眉をひそめる。憎しみを表現するかのように目付きを釣りあげて俺を睨みつけた。
「パパやママだってそう、リーベが頑張って召喚術を使えるようになったら勝手に挫折を味わってさ」
彼女の言葉は止まらない。
「挙句の果てにいい子にしていたら一人で何でもできるよねって……。」
雪崩のように次から次へと不満が溢れてくる。
「だから育史も……リーベが何でもできるからどっか言っちゃうんでしょ。赤ちゃんなんてなりたくないって」
「落ち着けって。」
俺は彼女に静止の言葉をかけた。
「うるさい!うるさい!うるさい!」
彼女はヒステリックに喚き散らかした。
「最初、育史はリーベの赤ちゃんになりたくないって言ったし。……すぅー。」
彼女は息を吸い込む。
「また、一人になっちゃうんだ!!」
彼女は大きく声を出した。
俺はその言葉に対して応答をする。
「だから聞けって。俺はお前の家族だから聞きたいんだよ」
俺の言葉に対して彼女は目をパチクリとさせた。
「俺はお前を見捨てるための理由として知りたいのではなく、家族になりたいから知っておきたいんだよ。」
俺はゆっくりと口を開いた。メスガキの目をジッと見つめた。
「家族だから?」
彼女はキョトンとした表情を浮かべた。
「最初に言ったのはお前だろ。俺はお前の赤ちゃんだって……。」
「そ、それはそうだけど……。」
彼女は困惑した。しかし、どことなく嬉しそうではあり頬を赤く染め上げた。
「確かに鏡を見た。だけど俺は決めたんだ。俺がもし帰る選択をしたらお前が一人になってしまうからな。」
俺は照れくさくなって頬をかく。
「……育史。」
「だから聞かせてほしいんだ、俺が一緒にいるためにも。」
彼女の呼びかけに俺は応じた。そして思いを告げる。
彼女は俺の言葉を聞くと、ゆっくり口を開いた。
「……パパはね。昔、召喚術師だったんだ。だけど才能がなかった。いや、リーベが才能あっただけかな。」
彼女は口元を釣り上げて苦々しく微笑んだ。
「だからポキッて折れちゃったんだよねー、パパのプライドが。」
彼女はつまらなさそうに言葉を吐き出した。
「それでパパはどっか行っちゃって……ママも後を追いかけた。リーベは一人でも大丈夫だよねって。」
小さくため息をつく。俺はジッと彼女の目を見た。
とても悲しい目をしていた。
「……そうだったのか。それは寂しかったな。」
俺は小さく首を縦に動かした。そして彼女の頭の上にポンっと手のひらを置いた。
ゆっくりと左右に揺らす。
「甘えてもいいんだぞ、今まで甘えられなかった分も含めて。」
「は、はぁ!?いきなり何を言いだすのよ!」
彼女は俺の言葉にびっくりしたのか目を見開いて怒鳴り声をあげた。
「俺はお前の家族だ。確かに赤ちゃんとして雇われてはいるが、その前に家族だ。家族の前でくらい甘えてもいいだろう。」
怒鳴り声をあげる彼女を宥めるように肩を掴む。
「なぁ、ママ。俺は外に出たい。元の世界ではなくて、リーベの世界の外に。」
俺は彼女の目をしっかりと見つめて言葉をかけた。
「俺はリーベの世界にまだ足を踏み入れてない。まだ産まれていないことになる。」
メスガキがいない間、ずっと考えていたことを言葉として吐き出す。
「だから、産まれたいんだ。リーベの赤ちゃんとして……。」
赤ちゃんとして最大限のわがままと共に。
「そして会いたいんだ。リーベの両親、つまりおじいちゃん、おばあちゃんにもさ。」
思いを全て口にしたあと、彼女はゆっくりと頷いた。
「もう、育史ってば仕方ないなー。」
彼女は何かを決心したのかいつも通りの笑顔を浮かべた。
「そんなに言うなら連れてってあげまちゅねー。」
そう言葉を口にして彼女は俺の手を握りしめる。
杖を一振りすると、目の前にはキラキラと輝く扉が現れる。
ギィッと音がする。
扉の開く音だ。俺はママに引っ張られて扉の中へ消えていく。
俺はこうしてメスガキママの赤ちゃんとして……異世界に産まれたのだった。
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