聖女とヒロイン気取りの行動記録
「ふむ、それならば貴様らの提示したルルー嬢が加害された記録と、デイジー殿の行動記録を照らし合わせて行こう」
あ、そういえば言われていましたね。侯爵や商会長や学園長に。
私が毎時行動する記録は必ずつけるようにと。
「それでは始めましょう。ルルー嬢が加害された日時と場所はこちら。それに対応するデイジー殿の行動記録はこちら」
バーンベルク侯爵が魔法で映し出した二つの時間軸が空中に浮かび上がった。
王子側から提出されたルルー嬢の被害申告書と、デイジーが毎日律儀に書き留めていた行動記録──それらが精密な年表のように並べられる。
「4月8日 午後3時20分」
ルルー嬢の被害申告:化学室で実験器具を壊された。
デイジーの記録:図書館にて学生の自習を撮影中。生徒会長及び司書の証言あり。
「5月15日 午前10時45分」
被害申告:美術室の絵具を盗まれた。
記録:体育館にて運動部員の練習風景撮影中。複数証言。
「……」
「9月2日 午後1時10分」
被害申告:更衣室の私物が破損。
記録:食堂で生徒会役員らに頼まれ共に昼食。レシートあり。
「10月27日 午後4時30分」
被害申告:廊下で突き飛ばされた。
記録:校庭にて夕暮れの樹木写真を撮影中。生徒会書記が立会い。
次々と明らかになる事実のずれに第二王子の顔が次第に赤くなっていく。最後の項目を読み終えると、彼はわなわなと唇を震わせた。
「な、なにがおかしい! ルルーの被害申告はすべて正しいのだ! こんな記録、捏造に決まっている!」
「捏造?」
クロヌスが片眉を吊り上げる。
「これは学園長と生徒会役員全員の監修入りの公式記録だ。そもそも。デイジーは特定の者の許可なく教室に入れない」
特定の者というのは、学園長が合意した腕章を付けた教師か、同じく腕章を付けた生徒会メンバーですね。
「ええ。それが魔法契約ですからね。学園側が施したものです」
クロヌスの言葉に、学園長がゆっくりと頷いた。老齢の校長は穏やかな表情を崩さないまま続ける。
「聖女殿が学園内で自由に出入りできるのは申請を受諾した場合のみ。ルルー嬢が申告した日時はいずれも申請なし。つまり物理的に不可能なのです」
「ふん! 魔法なんて簡単に破れるだろう!」
「いや、魔法契約の怖さ分かっていないんですか?」
『言っておきますが。聖女であろうと精霊であろうと、魔法契約を容易に破れません。
仮に破れても四肢の欠損は覚悟する程のものです』
「四肢を欠損したとて、契約違反の激痛を解呪するのに年単位掛かるだろう。
つーか、本当に王族か?初歩的な勉強も碌に出来ていないのかよ」
「はあ、頭が痛いよ。デイジー殿の魔力量じゃあ破ったとして、痕跡が丸わかり。
君たち、それを感知できなかったの?」
「ぐっ……」
王太子の一言に王子は詰まる。
「あと、忘れておいでですか? この学園には常に『王家の影』が滞在しておりますよ」
バーンベルク侯爵がこめかみに血管を浮き立たせ、微笑みながら言った。
その言葉に場の空気が一瞬で凍りつく。
王家の影──それは王族や高位貴族の子息が集う学園を守るために密かに潜伏する王直属の特殊諜報員だ。
その存在を知る者は極めて少ない。
「な、なに!?」
王子の狼狽ぶりに侯爵は薄く笑みを深める。
「影の一人が報告してくれました。『ルルー嬢が放課後の空き教室に忍び込むところを目撃した』と。そして『自ら顔を殴りつけ、泣きながら私物を壊していた』とね」
「きゃぁぁぁぁぁっ!?」
突如会場の隅から甲高い叫び声が上がった。振り向くとそこにはルルー嬢が顔面蒼白になりながら床にへたり込み失神していた。
‥‥‥まあ、フリでしょうけどねぇ。
まだ締め上げる方は多いですし、自主的に黙るならいいでしょう。
お、このソーセージ美味しい。マスタード付けると美味っ。
「まぁ、それは後で聞けば良いことですわね。レイジー様への名誉毀損についてきちんと償ってもらいましょうよ」
ジュリアナ公爵令嬢が扇子をぱちりと鳴らす。
「それよりも重要なのは、こうして実証されている真実を隠蔽しようと謀った貴族がこの中にいるということ」
彼女の鋭い指摘に数名の貴族令息令嬢が慌てて目を逸らす。
特にルルー嬢に積極的に同情していた女子グループは硬直していた。




