宮廷魔術師の息子と騎士団長の息子の罰
二人目、三人目の罰が決定しました
エリオットへの加害が余程腹に据えかねたのだろう。
顔面蒼白なダミアンに騎士団長は冷たく告げる。
「ただし!余計な抵抗はするなよ。痛みが増すだけだからな」
あら、騎士団長さん自らへし折る気満々ですね。
うーん、それはちょっと違うかも。
「あ、待ってください」
何か、ダミアンの瞳が輝きましたが誤解ですよ?
これ、検証ですよね?
「その場合、侯爵令嬢と同じ状態の方が良いでしょう。コルセット装着時の骨折なので、出来るだけ再現しておいた方が良いですよ」
「じゃあ、僕の時魔法で骨を当時の侯爵令嬢と同じ栄養状態にしておこう。検証後は戻せばいい」
そういえば時魔法使いでしたね、クロヌスさん。
クロヌスさんが侯爵令嬢の当時のカルテを見ながら言いました。
「騎士団長さん、どうします?」
おや?どうして絶望しているのでしょう?
騎士にしては華奢なのでコルセット付ける位は出来ますよね?
「ほう、それは良い。では、そのように」
「た…助け‥‥‥」
「貴様はそう言った令息への暴力を止めたか?」
「…………」
「連れていけ!!」
騎士団長の怒号で屈強な衛兵たちが現れ、有無を言わせずダミアンを拘束した。そのまま別室へと連行される。
彼の顔には恐怖が張り付いていた。
「クロヌス殿、生徒会員。万が一の時があれば頼むぞ」
「承知した」
クロヌスは淡々と答え、生徒会長を筆頭とするメンバーたちも神妙な顔で頷いた。
「やれやれ。まさかここまで馬鹿げたことになるとはね」
クロヌスがため息をつきながら呟く。彼と生徒会メンバー数人がダミアンを追って別室へ消えた後、会場には一層の緊張が走った。
特にダミアンの取り巻きと化していた他の生徒たちは互いに顔を見合わせ、青ざめた表情を浮かべている。
私はそんな光景を眺めつつも、何故か厨房から漂ってくる香ばしい匂いに意識が向きました。取り敢えずタンシチューのお代わりをお願いしておきましょう。
「お前、吞気だなあ」
「いやー、ここの学園のお料理美味しいんですよ。
それと、あの脳筋。この一年間、私を侯爵令嬢と勘違いして、殴るフリして来たんですよ?あ、フロム侯爵には通達済みです。
流石にそんなのに慈悲の心何て持ちませんって」
「それもそうだわ。あー、美味い、ワインが欲しい」
「ですよねー」
「あの」
「あら、エリオットさん」
暫しの空間が出来た事で、思い至ったようにエリオットさんとお父上が話し掛けて来ました。
「…聖女様とフロム侯爵令嬢の断罪を止められず、申し訳ありません」
謝罪が遅くなったと、父親と共に頭を下げるエリオット。
謝罪の言葉が震えています。彼はダミアンたちが去った方向を一度見やり、私やフロム侯爵に向かって深く頭を下げました。その肩はまだ微かに震えています。
「君は問題を進言し、脅され、暴力を受けた。心が折れてもおかしくはない。
それでも、勇気を出して匿名の手紙を送ってくれたのだろう?
何度も、そうしてきた」
フロム侯爵は落ち着いた声で尋ねる。
「君の勇気がなければ、娘が直接被害を受けただろう」
「‥‥‥」
彼の拳がぎゅっと握られる。
「誰かのために勇気を出せる人は強いんですよ。そんなお人に課す罰は何でしょうか?」
「ふむ…」
バーンベルク侯爵にそう問いかけてみました。
「まあ、罰するとするならば。君はご家族や学友としっかり休暇を楽しみなさい。
国王、宮廷魔術師の長期休暇位は申請できるでしょう」
バーンベルク侯爵が国王に告げた。
エリオットは目を見開き、言葉を失っていた。
罰が家族との休暇だと言われても、すぐには理解が追いつかない。
「……家族と……休暇……ですか?」
掠れた声でエリオットは問い返した。
バーンベルク侯爵は頷き、穏やかながら芯のある声で言う。
「そうだ。君はこれまで精神的に追い詰められすぎている。まずは心身の休息が必要だ。
そして」
侯爵の視線が真剣なものに変わる。
「大切な家族としっかり話し合う時間を持つべきだ。彼らはきっと、君がどれだけ辛い思いをしてきたかを知らないだろう。
君の言葉で伝えなさい。それもまた、君が背負うべき『罰』だ」
「それが……罰なんですか?」
エリオットの声に驚きと戸惑いが混じる。
「少なくとも、無能な取り巻きの一人としてではなく、一人の人間として生きる第一歩になるだろう」
バーンベルク侯爵の言葉は厳しくも温かかった。
「ありがとうございます。……必ず、償って……いえ、向き合います」
その様子を見守っていた宮廷魔術師当人も、涙を流し国王らに深々と頭を下げる。
そして、エリオットの手を握った。それは力強く、しかし優しい包容力に満ちた握手だった。
「さあ、君の罰は決まった。まずはこの場を離れなさい」
学園長が促すと、エリオットは頷き、一礼して会場の隅へと退いた。
彼の足取りはまだ重そうだったが、そこには微かな希望の色が見え隠れしていた。
暫くすると、クロヌスたちが戻ってきた。
「終わったよ」
その言葉を聞いた瞬間、会場の空気が張り詰めた。
すると別室から戻ってきた兵士たちがダミアンを引きずるように連れてきた。
彼は全身が汗だくで足取りもおぼつかない様子だった。どうやら本当に限界まで疲弊させられたらしい。
「見てわかる通りだ」
クロヌスが解説する。
「栄養失調による肋骨とコルセット着用時の骨折の再現をしたよ。
その状況の模擬戦を行わせた結果……こんなザマだよ」
生徒会長が報告する。
「結果は明白でした。肋骨三本を圧迫骨折させた状態で殴らせましたが……まったく傷一つ付けることはできませんでした」
「予想通りだな」
騎士団長が鼻を鳴らす。
「まあ当然よね」
ジュリアナ公爵令嬢が冷静に呟く。
「栄養不良で骨も脆くなっているのに、全力で殴れるわけがないじゃない。せいぜい擦り傷が精一杯でしょう」
ダミアンは床に崩れ落ちると嗚咽しながら泣き始めた。
「で……出来ないですぅ……こんなの……無理ですよぉ……」
その惨めな姿を見て一同から溜息が漏れる中。
「もういい」
騎士団長は厳しい口調で言い放つ。
「もう十分だ。これ以上の醜態は国家の品位に関わる。
お前は前線の娼館で奉仕しろ。侯爵令嬢にもそのような仕打ちを計画したのだ、出来ぬとは言わせん」
ダミアンはガタガタ震えています。
「うぇぇぇーん!!やめて!!怖い!!怖いよぉぉ!!」
「無能が騒ぐな」
「ひぃぃ!?」
騎士団長は腰に帯びた剣を抜き放ちました。
「お前は戦争を経験していない。だから前線の恐ろしさも。娼館の闇も。
ならば知る必要がある。誰かの代わりに身を捧げて得た知識など烏滸がましい」
ダミアンはその場に泣き崩れて失禁しました。
騎士団長は氷のように冷たい目で睥睨すると、剣を鞘に収めます。
「……前線の娼館で奉仕しろ。甘え癖を抜き去ってやる」
「今後は客に甘え癒す術を身につけるといい」
そう言うなり、騎士たちがダミアンを半ば引き摺るようにして退出していった。会場には重苦しい沈黙が訪れたが、その静寂を破ったのは意外にも第二王子シャルル自身だった。
「そいつだ!このイカレ聖女!!そいつが愛しのルルーを虐げたのだ!!」
私を指さして、なおもしつこいですね馬鹿王子。
おっ、トマトと生ハムのブルスケッタも美味いですねー。




