宮廷魔術師の息子の真相
今回は胸糞描写があります
次に国王に指名された宮廷魔術師の息子さんは随分と蒼白でした。
「も…申し訳ございません……」
「おい、お前!お前が全部言い出したことだろう、責任を取れ!!」
第二王子が喚きますが、無視して生徒会長が話し掛けます。
「実は、馬鹿…コホン、第二王子の不当な断罪は事前に分かっていた」
言い直す生徒会長ですが、遠隔外交中の王妃から『馬鹿で構いませんよ』とナイスなアシストを受けています。
「匿名希望の投書が何度も投函されていたのでね。
『第二王子殿下は聖女デイジー様をレイジー・フロム侯爵令嬢と誤解している』『レイジー・フロム侯爵令嬢を断罪して辱しめるつもりだ』、と。何度も。
――匿名希望の要望を破って申し訳ない。…これを書いたのは、君だね」
宮廷魔術師の息子さんはガタガタ震えて、顔が真っ白です。
生徒会長の問いかけに、彼は震える肩をさらに震わせています。
(ふむ、彼には可哀そうなことをしましたね、これは‥‥‥)
私はこっそり、とあるお方にアイコンタクトで合図しました。
その顔は蒼白を通り越して土気色で、額には脂汗が滲んでいる。彼はゆっくりと顔を上げたが、その瞳は恐怖で揺れていた。
「わ、私が……確かに……書きました……」
絞り出すような小さな声だった。
「なぜだ? 君も彼らと同じように聖女デイジー殿を蔑ろにしていたのではないのか?」
生徒会長の問いは容赦がない。
エリオットと呼ばれた少年は首を激しく横に振った。
「ちが……! 私は……ずっと……」
彼はそこで一度言葉を詰まらせた。
「でも……でも……!!」
すっ…、と。
ヴァイオレット商会の元締めであるバーンベルク侯爵が手を挙げました。
この方、私と同じ聖女でもあります。
あ、多いんですよ、聖女。老若男女問わずで。
一応500人の聖女って括り何ですけど、実際は2倍に近付いています。
元々記者や細工師、娼婦や死刑囚。一般職?から覚醒しているので、従来の神に祈りを捧げる聖女とはだいぶ異なりますね。
「エリオット・マグス子爵令息からは何の悪意も感じぬ。だが、何者かの悪意によって真相を潰され、真実を打ち明けられぬようだ」
こちらの聖女でもあらせられる侯爵様の悪意や善意を察知する能力は桁違いです。偽証は通じません。
「王よ。マグス子爵家に不当な裁きを下さぬように、ここで宣言して貰いたい」
「うむ。承知した。王家はマグス子爵令息の証言を不当に扱わぬ」
エリオットが涙目でバーンベルク侯爵を見つめました。
侯爵は微笑みます。
「エリオット殿、安心なさい。家族や領民の安全は私が保証する」
「うちの元締めはこういう時、腰が軽くて安心できるんですわ」
「ですよね」
隣に立つ商会長、ヒース・バーン・ドラコが、微笑みながら言います。
「どうだ、解析出来るか?」
「問題無いですよー」
勇気を出すなら、彼の一助となりましょうか。
「さて、話を続けようか。エリオット殿」
バーンベルク侯爵が再び声をかけると、エリオットは大きく深呼吸をした。先ほどまでの怯えは消え、僅かながらも表情に生気が戻ったようだ。
「…私は知っていました。聖女様が……デイジー様がレイジー侯爵令嬢ではないことも……。
第二王子殿下の企みが全て間違いであることも……最初からわかっていました!」
何度も進言したそうですが、全然聞いてくれなかったそうです。
「シャルル殿下は……『お前の父上の宮廷魔術師の職を取り消す。お前の家は終わりだ』と……何度も……!」
彼の声は徐々に大きくなり、涙がぽろぽろと頬を伝い始めた。
「もし従わなければ……私の家族だけでなく、領地の人々も路頭に迷うと……!」
「それに……!」
彼は一度俯き、拳を握りしめた。
「騎士団長のご子息……ダミアン様や、他の取り巻きの方々からも……!」
エリオットは意を決したように、震える手でシャツのボタンをいくつか外し、胸元を露わにした。
そこには、青黒く変色した打撲痕や、赤黒い擦り傷が生々しく刻まれていた。服の下に隠されていたためか、まだ治りきっていない痛々しさが見て取れる。
「暴力も……受けました……。逆らえばもっと酷い目に遭うと……脅されて……!」
彼の告白と共に、その場の空気が凍りつくのを感じた。
特に、騎士団長の表情は一瞬で青ざめ、そして怒りに歪んだ。息子の行動を放置していたことへの罪悪感と羞恥心が見て取れた。
父である宮廷魔術師は、我が子の変わり果てた姿を見て絶句した。その場で崩れ落ちそうになるのを必死で堪え、エリオット殿に駆け寄る。
「違う、出鱈目だ!!転んだのを私に擦り付けているんだ!!」
「じゃあ、その悪意の映像を再現しますね」
バーンベルク侯爵のGOサインも出ましたので、かまします。
侯爵は彼に纏わりつく数種類の悪意を特定。私へ魔道具を介して中継して、鏡の加護で悪意ある過去の映像を再現しました。
取り巻きに拘束されて、騎士団長の息子ダミアンに殴られるエリオット令息と、その姿を嘲笑う第二王子。
あっ、馬鹿王子も殴っていますね、へなちょこですが。
「……すまなかった……!エリオット‥‥‥!
父が……愚かな父が気づいてやれなかったばかりに……!」
宮廷魔術師は膝をついてエリオットの両肩を掴み、強く抱きしめた。彼の声は震え、抑えきれない嗚咽が漏れている。
「辛かったろう……本当に……すまない……!」
「ごめんなさい、父上……!魔法の才能がないからせめて…臣下になる事も出来ませんでした‥‥‥っ」
「あんなものの部下になど!ならなくて良い!!
お前が笑顔で過ごせるなら、宮廷魔術師を返上して田舎で過ごしても十分価値がある!!」
エリオットも父の肩に顔を埋め、堰を切ったように泣き出した。
その温かい親子の抱擁は、この修羅場において唯一と言っていい程の救いの光景でしょう。
しかし同時に、それは第二王子側の人間たちへの決定的な打撃となりました。
特に騎士団長とその息子であるダミアンの顔からは完全に血の気が失せ、呆然自失といった状態です。
否、騎士団長は我に返るとダミアンの頬を拳で穿った。
「――貴様らの罪が全て白日の下になり次第、お前を廃嫡し前線に向かわせる」
「父上……僕はただ……」
ダミアンは泣き言を漏らすが騎士団長の眉が跳ねた。
「言い訳をするな、ダミアン。お前の行為は騎士道精神の欠片もない。恥を知れ」
その声には深い失望と怒りが込められている。
『いやー、前線に出られても、そんな弱い者いじめするクズな戦士は要らないなぁ。
見目は良いから、娼館なら空いていますよ?
――侯爵令嬢の断罪で、娼館行きのプランだったようですし?』
その言葉にフロム侯爵家一同が殺意をむき出しにしました。
「その方面でお願い致します、アーチバルド王子殿下」
『了解』
私はその一連のやり取りをどこか他人事のように眺めながら、タンシチューを平らげてしまったお皿をテーブルに戻しました。
そして、ふぅ、と小さく息を吐き出す。
「なるほど。宮廷魔術師の息子さんも被害者だったと」
ふむ、これだけはアドバイスしておきましょう。
「――エリオットさん。貴方の魔力は私よりも高いです。
貴方より魔力の低い私が、どうして先の大戦で戦略の殆どを担う存在で居られたと思いますか?」
「えっ…!?精霊の加護があるから…。あ、それでも。
――失礼かと存じますが、精霊の加護が在っても力量は自分と変わらない、かと」
「ふむ」と私は軽く咳払いを一つ。
少し驚いた顔をしているエリオットに向き直りました。
「ご謙遜を。分析力があるのに落第なんて不思議です」
彼は俯き、消え入りそうな声で答えました。
「……魔法を使うと、いつも周りが期待するほど上手くいかなくて。
魔力は高いと言われるのに、操作が下手で……『才能はあるのに宝の持ち腐れだ』とよく言われました」
父親である宮廷魔術師が口を開きかけましたが、手で制しました。
「私、先の大戦での戦場になった神の山脈。あそこに若い頃から登山していました」
一見、魔法とは関係の無い話にエリオットは面食らう。
「私の加護の発動条件は行った場所であること。
まあ、加護に目覚める前から、山脈そのものが世界終焉の魔王なら、目覚めたら何をするか考えながら踏破したものです。怖くはありません。
沸き立つのは好奇心と、どう強大な相手に一泡吹かせるか、です」
「それで、『どう応用していくか挑戦すること』が大事なのでしょうか」
「半分正解です。応用するのも勿論重要。しかし一番大事なのは『楽しむ』こと」
「楽しむ……ですか?戦場を……?」
「ええ。『楽しむ』んです。魔法は人生の彩り。それを制限してしまっては宝の持ち腐れですよ?」
エリオットは戸惑った様子でしたが、真剣に耳を傾けていました。
「例えば、火球呪文を唱えるとするじゃないですか」
私は掌に小さな炎を灯しました。まあ、焚き火に灯を付ける程度の火ですけど。
「普通は敵を焼くための武器。でも、私は違います」
指をくるくる回すと、炎は分裂し蝶の形になって私の周りを舞い踊りました。会場のあちこちで小さな歓声があがります。
「遊び心を持ちましょう。魔法は命令されるものじゃなくて、発想し創造するものですよ」
蝶は空中でくるくる旋回すると、突然七色に変化し花火のように弾けて消えました。
「こんな風に魔法を楽しみます。挑戦するのは新しい使い方を探すこと。
楽しい魔法を作るんです。魔法をかける過程を楽しんでいれば、結果だってついてくる」
「挑戦……」
「デイジーの場合は行動力の権化だけどね。あの山脈を雪山登山したんだよ、呆れる」
「あらあら、魔法を過信して遭難した方に言われたくないですよ、魔塔の魔術師のクロヌスさん?」
「ぐっ」
エリオットは肩の力が抜けたように、小さく息を吐きました。初めて見せた自然な表情でした。
「ずっと魔法を重荷に感じていました。けれど……少し、やってみたいと思いました。『楽しむ』ことを」
父親が息子の背中に優しく手を添えます。
「ならばこれからは魔力を活かして人を楽しませる道を極めるのだ。お前ならきっと出来る。…私も魔法は楽しいと、初心に戻ろう」
エリオットは顔を上げました。瞳の奥に微かな光が宿っています。
「私……これからの目標が決まりました。魔法を楽しむために努力します」
「おめでとう。若さの特権はいくらでもトライ&エラーして良いところですから。失敗も化けますからね。
そこからも学びがあるものですよっ!!」
私は拍手を送りました。生徒会メンバーも続き、周囲の生徒も拍手を送っています。
エリオットの顔に浮かんだ表情は今まで見たどんな表情よりも生き生きとしていました。
「さて、次はどなたでしたかねぇ?」
あ、タンシチュー美味しすぎたので、全部食べてしまいました。
頃合いを見てお代わり貰いましょう。
次回、デイジーは胸部測定で涙します。




