9 非日常
何となく距離ができてしまった私と王子様だったが、王子は気にしていないようだった。
その日は執務室へは行かず、領都兵の訓練に付き合うと言って練兵場へついていく。
王子は簡易鎧を身につけ、大きな模擬剣を私に持たせた。
「ロット、この頃なんだかよそよそしいが、私が何か気に障ることをしたか?」
「い。いえ! 滅相もござらんでござる!!」
「……そうか……?」
《言葉が変だぞ、どうかしたカァ?》
ジイが突っ込んでくるけど、余裕がない私にはどこがおかしいか分からない。
ただビクビクして王子のあとをコソコソついていった。
練兵場は初めて来たけど、変な匂いがする。
汗臭さと男臭さと鉄臭さが入り交じり、居心地が悪かった。
王子が兵を前にして、何やら講義している。
兵達は熱心に聞き入り、一言も聞き漏らすまいとしている様だ。
「王子の兵法、北の部族譲りなのかな……」
私も貴族としての心得は教えてもらったけど、戦い方は習わない。
女だからそれは当たり前なのだけど、考えて見れば王子だって似たようなものでは無いのか?
王都では騎兵隊はいたけど王族は滅多に戦いにはでで来なかったようだし、多分、北の部族の教えなのではなかろうか。
王子が二人一組になって組み手と、剣術をするようにうながして、自分はそれを険しい顔で見ているだけだ。
しばらくそうしていると、振り向きざまに、こう言った。
「ロットは何が得意だ?」
「ヘ、お裁縫です」
「……いや、得物は何が良いかと聞いている」
私はただ、首を振るばかりだ。剣なんて生れてこの方持ったこともないのだから。
「従者になったからには、戦場へも着いてくることになる。今のうちに鍛えなければ。もう十四歳にもなるのだろう?」
「……はい」
王子に言われて小さな剣を持たされ素振りをやらされた。
王子は私の剣の持ち方を逐一直す。
傍に来られる度にびくつく私は、恐ろしげな緑の目で睨まれてしまう。
「真面目にやらないと、死ぬぞ!」
「は、はいーっ!」
叱られてしまった……。
その日は、日が暮れるまで、剣を振っていた。
部屋へ帰れば王子の世をもしなければならない。くたくただった。
仕事を終え自分の部屋へ下がろうとした私に王子は「少しここにいなさい」と言う。
――とうとう来た……。
王子は、多分今日私を手込めにする。そうなれば女だとバレて、ここから追い出されるだろう。
肩を落し、小さくなって、先に打ち明けようかどうしようか悩んでいると、王子か話し出した。
「私は蛮族の母親と王の子だ。だが、五番目に生れた王子など価値はない。だから母についてきた蛮族の護衛から剣を習った。私の生きる道はこれしかないと思ったし、周りからも言われていたからね」
「……!」
「私はこの地を守っていかねばならない。其方が私の従者を続けるのなら、鍛えてもらわねばならぬのだ」
「はい……」
「其方は、年の割には小さいし、筋力もない。何がいいか考えたのだが。小さめの剣を二本持つはどうかと考える」
「剣術は、知らないんです。ごめんなさい」
「いや、自分を守る戦い方を学ぶだけでいいのだ。其方には加護もある。きっと少しの訓練でものになるはずだ」
「はい、頑張ります!」
王子は御小姓なんか狙っていないと、今ハッキリした。私は何て馬鹿だったのか。こんなに考えてくれている人を誤解して。
その夜は久々にぐっすり眠れた。
*****
ロットは何となくおかしい。
どこがどうとは言えないが、男なのに小さすぎるし、身体がふにゃふにゃしている。
私が従者に取り立ててしまって、返って危険に晒してしまった。
男なのに、いい匂いがする……いや! そこではない!
この頃の私はなんだか変だ。
もう寝むろう……。
*****
うふふ……。




