10 もみくちゃ
王子はその日から「真っ直ぐ練兵場へ行きなさい」と言って、私は執務室へは行かなくてよくなった。
あまりにも不甲斐ない私に呆れてしまったのかも知れない。
だから今日から頑張ることにした。
王子の端を引っ張らないように、自分の身は自分で守る。
「何としても、二刀剣の使い手になってみせるわ」
傷だらけになりながら王子の部屋に帰る日が続いた。
領兵たちは容赦なかった。
「鼻いぼ! もっと速く走れ」
「鼻いぼ、飛べ」
「打ち込みがなっていないぞ、鼻いぼ」
こういう日々が数ヶ月続いて、私は強くなった……気がする。
そして私の細い身体にも筋肉がついた。ちょっぴりだけど。
ある日、王子自ら訓練を見てくれることになった。
「どれくらいの成果が出ているか見ないと、遠征には連れていけない」
――遠征……。
このところ、王子の親戚である部族が窮地に立たされていると、周りが騒いでいた。
助けに行くのかも知れない。
北の部族連合は緩い取り決めで纏っているが、血の気の多い部族はいつも諍いが絶えないそうだ。
そのまとめ役だった王子のお爺さまが、助けて欲しいと言ってきたのだろう。
「北へ行けば、何があるか分からない。精霊の加護を持つ部族長も多くいるから」
王子はそう言って北の方をぼんやりと見ていた。
王子と私は練兵場の中央で対峙した。
「どこからでも打ち込んで構わない」
王子がそう言った。強い王子は、私の打ち込みなんて屁でもないだろう。
思い切って踏み込みサッと横に踏み込みの足をずらし、王子の横腹に「えいっ」と軽く当て、すぐに距離を取る。
所謂、ヒットアンドウェイだ。
領兵に何度も反復された動きだった。
王子はその動きを読んでいて、私の攻撃をことごとくはじき返す。
慣れた動作に身体が滑らかに動くのが心地いい。
王子も長い間の鍛錬で、考えるより先に身体が防御の行動を取っている。
私の攻撃を軽くいなして、最小の動きをしている。
「これは仕方がない。こうなることは織り込み済み。でも……これはどう?」
そして私が王子の隙を見て、とっておきの一撃を加える。
横に行くと見せかけて、下から突き上げるように打ち込んだ。
背の低い私の必殺技だ。
王子は予想とは違う私の動きに慌てて、つい力を込めて私を突き飛ばしたのだろう。
肩に強い衝撃を喰らった直後、大きく後ろに飛ばされて、地面にゴツンと強か頭を打った。目の前にチラチラとお星様が見えて、光が暗く萎んでいく――
――乱暴に頬を叩かれ気が付いた。
どれくらい伸びていたんだろう。あの後の記憶が途切れている。
「鼻いぼ、よくやった。王子を本気にさせたぞ、お前」
負けたのに、領兵に褒められた。
私は必殺の一撃も通らなかったことに落ち込む。でも王子はこう言った。
「一週間後遠征に出る。準備をしておきなさい」
その場に呆然と座り込んでいる私を、領兵たちが担ぎ上げ、高く高く胴上げをした。
「わっしょい、わっしょい。よかった、よかった」
「鼻いぼー。おめでとう!」
「ひぃーーっ!や、やめてぇーー!」
《こ、怖いよう……》
モンモも私にしがみつく。こんな乱暴な祝い方は勘弁して欲しかった。
落ちたら死ぬから――戦闘でなくても、普通に死んじゃうからぁ!
*****
ロットは思っていたより格段に強くなっていた。素質があったとしか思えない。
この私を慌てさせるくらいには……。
九官鳥の加護は、強力だ。口から氷の刃を出して、敵を切り刻めるそうだし。
ロットは、連れていっても大丈夫だろう。
しかし、遠征ともなれば、狭いテントに二人きりになる。
このところの私はおかしい……。
ロットが近くにいると身体が熱くなるのだ。
……私は、若しかすると、本当に――御小姓趣味なのだろうか……。
*****
あら、まあ。




