11 ヘンリー王子
私たちの国オルダーウィンに対して北は、ノルドウィンと呼ばれている。
ただ、北の部族たちは、私たちの地域のことを低地と呼ぶ。
そして自分達の国のことは高地と呼んでいるのだ。
北には豊富な資源がある。その代わり農耕には適さない土地柄で、人口は少ない。
自分たちの部族のことをクランと呼び、二百人から五百人ほどの集まりで生活している。
オルダーウィンの常識から見れば小さな村程度だった。
だが部族内の結束は固く、同盟を結べば誠意を持って守り合う。
義理堅く、男は強く、女はそれを守って硬く結束している。
長く土地を廻ってオルダーウィン国と戦ってきたノルドウィンだが、今は大人しくなっている。
その代わり、部族同士の諍いは今も続いているという。
クランチーフであるジョージ・マクラドは、オルダーウィンと和解して娘を第四妃として差し出した。
そのお陰で高地の部族は、大きく二手に分かれてしまった。
マクラドのクラン派と、その他のクランに。
私ヘンリーはそのマクラドの祖父の血を引く。
祖父から助けて欲しいと手紙が届いたのは数ヶ月前だった。
すぐに行動に移せなかった自分は、臆病者だったのか。
だが、今任されている公爵領を置いて駆けつけることは難しかった。
傭兵を募り、何とか百人をかき集め、今回の遠征に漕ぎ着けたのだった。
「ロット、ここで野営だ」
「はい!」
ロットは元気に走り回って、ちょこまかと働き準備をしてくれる。
ここまで強行軍だった。馬に乗り高地の荒れた大地を走ってきたのだ。
「お爺さま、どうか、もちこたえてくれ」
自分が行って、どれほどの助けになるかは分からない。
フォグリッジ公爵には、きちんと詫びは済ませてきた。
「残念だ。助けになれなくて……」
公爵はそう言ったが、これは私個人のものにしなくてはいけない。
もし国が絡めば大事になってしまうだろう。
明日になれば、マクラドの地に着く。
「モンモ、少しここを綺麗にしてくれないかしら」
《まっかせてぇー》
テントの中では、ロットは加護と離れて何やらやっている。
小さな、モモンガの妖精だそうだが、私はまだ見たことがなかった。
気になり、こっそり覗いてみる。
そこには、可愛らしい十センチほどの妖精がいて、ぴかりと光る魔法を放っていた。浄化の魔法だ。
そしてロットは……可愛い……。
しばらく見とれていたが、慌ててテントから離れた。
――私は一体、何を考えているんだ。
*****
ここまで王子様に付いてきたけど、すごく大変な遠征だった。
慣れない馬に乗り、走り通しで、股が……痛い。
思わず痛いとこぼしたら、モンモが《まっかせてぇー》と言って治してくれた。
赤く腫れていた股が一瞬で治ってしまった。
ビックリだ。治癒まで使えたなんて。今まで知らなかった。
「モンモ、こんな力が有るのに、どうして黙っていたの?」
《妖精は、成長するんだよ……多分》
こてんと首をかしげて悩んでいる……かわいい!
《そうじゃ、儂の魔法も威力が増したゾ》
ジイは……まあいい、いつも通りだ。
そうだったんだ。モンモやジイは生まれたての妖精で、やっと役に立てるほど成長したという。
これからどれほど成長するのか楽しみになってきた。
明日は、王子様のお爺さまに会えるという。この土地は荒涼としていて小さな木しか生えていない。
もう春なのに、ここはまだ肌寒くって、遠くの山には雪が残っているのが見えた。




