12 マクラウドのクラン
王子様のお爺さまのお屋敷。
これはお屋敷? 石を積み上げただけの無骨な壁に木を組んだだけの屋根。
すごく大きいけれど、お城とは呼べない。堅固な砦のようだ。
ここはオルダーウィン国とは文化が違うと、ハッキリ分る。
周りには羊が放し飼いになって、遠くでは変わった角を持つ大きな牛が草を食んでいる。
子ども達が真っ黒くなった手でどろんこをこねている。
「君達、何して遊んでいるの?」
しゃがんで、同じ目線になって話しかける。
「おいらたちは遊んでいない!」
「泥炭を固めて運んでいるんだ。仕事だぞ」
子ども達はこの”泥炭”について、一生懸命教えてくれる。
ここでは地面に泥炭層が口を開いていて、たくさん採れるんだそうだ。
燃料が簡単に手に入ると聞き、私は驚いた。
「これを固めて乾燥させれば、燃えるんだ」
子ども達は、ねとっとした土を手に取って見せてくれた。
土の香りと腐葉土が混じったような臭いがする。
簡単な屋根がついた小屋まで運んで、そこで水分が抜けるまで乾かすのだという。
ここは五百人が住む村だった。クランの中では大きな部類だと教えられた。
「今男たちは出かけているんでね。中に入って休んでな」
赤毛の長い髪を三つ編みにして、後ろにだらりと下ろした二十歳くらいの女性だ。毛織物の重そうなドレスを着ている。
ここにいる女性は、皆すごく背が高くて骨太そうだ。
胸も大きくて、私は思わず自分の胸と見比べてしまった。
王子と従者の私は屋敷の中に入って待つことになったが、一緒に来た傭兵たちは別の場所に案内されていった。
私には山羊のホットミルク、王子にはアルコール度数が高そうな酒が出された。
どちらも小さな樽のようなコップに入れられている。
「腹は減ってないかい。もうすぐ子羊を潰して丸焼きにする。それまで待てるかい?」
「はい」
「あはは、緊張してるね。ほら、スコーンだ。これでもつまんでな」
「ロット、食べておきなさい。夕餉にはまだ時間がある」
王子に言われてスコーンを手に取り二つに割ると、ほかほかとした湯気が立ち上り、素朴な小麦の臭いが鼻をくすぐった。
頬張ると、やや硬いけどほろほろと崩れ、塩味が効いて美味しい。
ニコニコして、幸せ気分に浸っていると、
二つに割った残りを王子は私の手からそっと取り上げ、自分の口に入れた。
――お腹が減っていた? まずい! 自分だけ先に食べてしまった。
思わず王子を見ると、目がとろんとしている。
どうやら強い酒を飲んで酔っ払ってしまったようだ。
「ロット……」
「は、はい?」
そう言ったまま王子は、椅子から転げ落ちてごろんと床に落ちてしまった。
こんな大きな男の人を私一人で介抱できない。
数人のクランの女性が笑いながら奥から駆け寄ってきた。
そして、どうにか持ち上げようとしていた私を手伝ってくれた。
「まだまだ、若いねクランの若様は」
「十九歳だもの、よく堪えた方さね」
「ちょいといたずらしただけなんだ。悪かったね、坊」
口々にそう言って、だらりと寝てしまった王子を二階まで運んで行ってしまった。
この日私は、あまりにも驚きすぎて、口をあんぐり開けっぱなしだった。
「王子様、三十歳じゃなくって十九歳……だった」
落ち着いた物腰、高貴なしゃべり方、そして大きな身体。
とてもでは無いが三十歳以下だとは考えられない。
ぼんやり考えながら私は、ベッドの横で酔っ払って寝ている王子を見ていた。
傍には水差しも用意して貰った。起き出して、喉の渇きを訴えるかも知れないから。
暗くなり、下の階が騒がしくなった。
男たちの野太い声がこの部屋にもかすかに届く。
「オルダーウィンから若が来てくれたと?」
「おお、やっと来たか……なに……寝ていると申すか。何とだらしのない……」
多分この声は王子のお爺さまではないだろうか。
どしどしと二階へ上がってくる足音がする。私は扉の前へ急ぎ、控えていた。
バタン、という豪快な音と共に扉が開かれた。
「ヘンリー! 起きろ、今宵は祝いじゃ。其方の嫁を攫ってきたぞ」




