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鼻いぼ姫  作者: チャロ吉
12/19

12 マクラウドのクラン

王子様のお爺さまのお屋敷。

これはお屋敷? 石を積み上げただけの無骨な壁に木を組んだだけの屋根。

すごく大きいけれど、お城とは呼べない。堅固な砦のようだ。


ここはオルダーウィン国とは文化が違うと、ハッキリ分る。

周りには羊が放し飼いになって、遠くでは変わった角を持つ大きな牛が草を食んでいる。

子ども達が真っ黒くなった手でどろんこをこねている。

「君達、何して遊んでいるの?」

しゃがんで、同じ目線になって話しかける。

「おいらたちは遊んでいない!」

「泥炭を固めて運んでいるんだ。仕事だぞ」

子ども達はこの”泥炭”について、一生懸命教えてくれる。

ここでは地面に泥炭層が口を開いていて、たくさん採れるんだそうだ。

燃料が簡単に手に入ると聞き、私は驚いた。

「これを固めて乾燥させれば、燃えるんだ」

子ども達は、ねとっとした土を手に取って見せてくれた。

土の香りと腐葉土が混じったような臭いがする。

簡単な屋根がついた小屋まで運んで、そこで水分が抜けるまで乾かすのだという。

ここは五百人が住む村だった。クランの中では大きな部類だと教えられた。

「今男たちは出かけているんでね。中に入って休んでな」

赤毛の長い髪を三つ編みにして、後ろにだらりと下ろした二十歳くらいの女性だ。毛織物の重そうなドレスを着ている。

ここにいる女性は、皆すごく背が高くて骨太そうだ。

胸も大きくて、私は思わず自分の胸と見比べてしまった。


王子と従者の私は屋敷の中に入って待つことになったが、一緒に来た傭兵たちは別の場所に案内されていった。

私には山羊のホットミルク、王子にはアルコール度数が高そうな酒が出された。

どちらも小さな樽のようなコップに入れられている。

「腹は減ってないかい。もうすぐ子羊を潰して丸焼きにする。それまで待てるかい?」

「はい」

「あはは、緊張してるね。ほら、スコーンだ。これでもつまんでな」

「ロット、食べておきなさい。夕餉にはまだ時間がある」

王子に言われてスコーンを手に取り二つに割ると、ほかほかとした湯気が立ち上り、素朴な小麦の臭いが鼻をくすぐった。

頬張ると、やや硬いけどほろほろと崩れ、塩味が効いて美味しい。

ニコニコして、幸せ気分に浸っていると、

二つに割った残りを王子は私の手からそっと取り上げ、自分の口に入れた。

――お腹が減っていた? まずい! 自分だけ先に食べてしまった。

思わず王子を見ると、目がとろんとしている。

どうやら強い酒を飲んで酔っ払ってしまったようだ。

「ロット……」

「は、はい?」

そう言ったまま王子は、椅子から転げ落ちてごろんと床に落ちてしまった。

こんな大きな男の人を私一人で介抱できない。

数人のクランの女性が笑いながら奥から駆け寄ってきた。

そして、どうにか持ち上げようとしていた私を手伝ってくれた。

「まだまだ、若いねクランの若様は」

「十九歳だもの、よく堪えた方さね」

「ちょいといたずらしただけなんだ。悪かったね、坊」

口々にそう言って、だらりと寝てしまった王子を二階まで運んで行ってしまった。

この日私は、あまりにも驚きすぎて、口をあんぐり開けっぱなしだった。

「王子様、三十歳じゃなくって十九歳……だった」


落ち着いた物腰、高貴なしゃべり方、そして大きな身体。

とてもでは無いが三十歳以下だとは考えられない。

ぼんやり考えながら私は、ベッドの横で酔っ払って寝ている王子を見ていた。

傍には水差しも用意して貰った。起き出して、喉の渇きを訴えるかも知れないから。

暗くなり、下の階が騒がしくなった。

男たちの野太い声がこの部屋にもかすかに届く。

「オルダーウィンから若が来てくれたと?」

「おお、やっと来たか……なに……寝ていると申すか。何とだらしのない……」

多分この声は王子のお爺さまではないだろうか。

どしどしと二階へ上がってくる足音がする。私は扉の前へ急ぎ、控えていた。

バタン、という豪快な音と共に扉が開かれた。

「ヘンリー! 起きろ、今宵は祝いじゃ。其方の嫁を攫ってきたぞ」


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