6 ヘンリー王子の悲哀
私の見た目のせいで、女性には怖がられるようだ。
「母上の部族では普通の見目形」だと乳母からは言われて育ったため、今まで気にしたことがなかったが……。
こうして妻を娶る年齢にさしかかると、どうも嫌われているようだと自覚せざるを得なくなった。
王子は私の上に四人いるが、すべて妻を娶っていた。
王には姫がいないため、私はいまのところ一番下の子供だ。
すぐ上の兄上でもすでに三十歳になる。私は年が離れているためか滅多に交流はない。オルダーウィン国では家族の繋がりが薄い。
離宮で隔絶した生活を送る母と自分だった。
北の守りのためにフォグリッジ公爵領の跡継ぎを任せられる。
その話が持ち上がって、母の部族とも近づけると内心喜んでいた。
しかし、妻が決まらなければ、ここの領地の跡継ぎを設けることはできない。
「辞退した方がよかったのか……」
王宮にいれば、第五王子など、居てもいなくても良い存在だ。
従者も数人付けられるが、友達とは言える間柄にはなれない。
ときおり、母の出自を見下すような物言いをされる。
乳母には「家臣に甘い顔をするからです。距離を置くように」
そう言われる。同じ年頃の青年たちとの交流もできない……。
だが、ここ公爵領では私を歓迎してくれた。日々の鬱屈した生活が嘘のように、目の前が明るく輝きだしたのだ。
しかし、伴侶となる女性から怖がられてしまっては、ここにいることは、もはや叶わないのではないか。
自分の居場所はここにもないのかと、この頃は落ち込みがちだった。
ついこの間、鼻に大きないぼのある従者を手に入れ、何となく慰められる自分がいた。
「ロット、其方何歳になる」
「えーと。あっ十四歳に今日なりました」
十四歳か、って、今日が誕生日ではないか。
「では何かお祝いでもしてやろう。何か欲しいものはあるか?」
「……自分の……」
「ん?」
「自分だけの部屋が、あれば良いかなって……」
従者は私の寝室のすぐ傍に個室があるはずだ。自分だけの部屋……どう言う意味だろう。
「其方は私の部屋にいるはずではないのか?」
「え、ここにいていいんですか? 今まで走って行ったり来たりしていました」
ここに来て一週間もここまで通っていたのか。
「多分、そこの扉が従者の部屋だ。今までいた従者は王都に置いてきたので、其方一人で使えばよい」
「あ、ありがとうございます!」
ん? これは褒美と言えるのか……まあ、従者を甘やかしすぎるなと乳母からも言われていた。これでいいのだろう。
ロットには着替えが全くなかった。
急遽、側仕えの服を、数着新調させる。
靴もボロボロだった。
「従者なのだ。しっかりした靴を履いてもらわねばなるまい」
執事に不満顔をされたが押し通す。
蔭で私の事を「御小姓狙い」と噂が立っているようだが、私にはそんな気は無いので、気にはならないが……ロットは困るだろうか。
ある朝目覚めると、従者の部屋からゴソゴソと話し声がする。
高貴な者は側仕えが来るまでじっとしていなければならないと、乳母にも言われて育った。
私はじっと寝床に横たわり、従者が起こしに来るのを待つ。
だが、気になってしょうがない。一体誰と話をしている?
横目で従者のドアを睨んでいると……ピカッとした! 扉の隙間から漏れ出て……光った。
「ぬおっ! 何だ、何が起きた!」
「あ、王子様、済みません。今オマルを浄化したんで、あれ……言ってませんでいたか? 私の加護が浄化を使えるんです」
何と。精霊からの加護持ちだったとは。私も同じだ。
精霊の加護は、一概には幸運とはいえない。
この国では褒めそやされるが、精霊によっては呪いとなることがある。
北ではその事がよく知られていた。
南はそこが少し違っていて、皆ありがたがっているようだ。
「其方、どのような加護か、詳しく話してくれぬか」
ロットは上目遣いでもじもじしながら「んーん」と悩んでいる。
悩まなければならないほどの呪いのような加護なのだろう。あわれな……
「まあ、よい。話せるようになったら話してくれ。着替えを」
「……はい」
ふと私は自分の加護をロットに話してやろうと思い付く。
「ロット、私も加護持ちだ。私の加護は火の魔法が使える印がある」
そう言ってへその下にある印を見せようと、腹をめくり上げると、ロットは、脱兎の如く走って逃げて行ってしまった。
足下にはロットの飼っている九官鳥が転がっている。プスプスと煙を上げて。
私の加護の火魔法が勝手に反応したのだ。急いで助け起こしたが、気絶しているだけのようで安心する。――だが、
「なぜだ?」
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まあねぇ、年頃のお嬢さんには目の毒だったでしょう。
ジイも、姫を守ろうとして過剰に攻撃してしまって、逆に反撃されてしまったようです。
王子の魔法は、本物の加護でしょう。鼻いぼ姫とは違って……ね。
でもねぇ、鼻いぼ姫様。従者のお仕事ですよ。お着替えをして差し上げるのは。
困った姫です。ふふふ。




