5 フォグリッチ公爵領
オルダーウィン国の北の守りの要だというフォグリッジ公爵領は、ジェファーソン・フォークナーという公爵様が治めているそうだ。
この国の最北には北方民族がいて、南と度々衝突してきた過去があった。
北の部族は身体が大きく、好戦的で野蛮だそうだ。
聞くところによると、身の丈二メートル。赤い髪に赤い顔で、目はぎろりと大きく、緑色をしている。
オルダーウィン国では金髪で碧眼、小柄で痩せ型が多い。
私もご多分に漏れない見た目で、この国では平均的な背丈だ。
ただ、十数年前に北との交渉で和平が成った。
国王の第四王妃は、北の蛮族から迎えたという噂だった。
だから、その妃が産んだ第五王子は、蛮族の特徴を色濃く受け継いでいるという。
「なんだか、怖そうな王子様……」
《北には火の精霊が御座す。精霊の加護も強大じゃ》
《南には水の精霊様がいらっしゃる。だから仲が悪かったのかな》
モンモとジイが会話している。微笑ましい一瞬だ。
いつもは滅多にこうして会話できない。傍に人がいれば、モンモは隠れてしまうし、ジイには「口を開くな」と言ってあるから。
旅も終盤に差し掛かった。
一ヶ月近くも歩いてやっとフォグリッジ公爵領の端に着いた。
ここから二、三日歩けば領都に着くはず。
周りの景色が寒々としてきて、岩がむき出しになった草原が広がるようになった。厳しい自然環境が肌で感じられる。
この地に住む人々も、王都付近とは違っている。
まるで、違う世界に迷い込んだような心細さが押し寄せて、自分は独りぼっちなんだとジワジワと身に浸みてくる。
「公爵のお母様は、会ってくださるかしら」
《大丈夫。会ってくれるよ。お手紙あるんだから》
「そうよね」
《……》
「ジイ、誰もいないから喋ってもいいのよ」
《……寝ておった……》
領都はいかめしい石造りの街だった。
所々に木でできた大きな倉庫もある。
倉庫の側を通ると変な匂いがぷーんと漂ってくる。
鼻をしかめて通り過ぎようとしたら、傍にいたお兄さんが「あはは」と笑いながら教えてくれた。
「ここは肉を加工しているんだ。皮の加工場はもっと酷い匂いだぞ。坊主、余所から来たんだろう?」
「う……ん。王都から歩いてきた。御領主さまに手紙を持ってきたんだ。会えるかな……」
「坊主一人で? そりゃ大冒険だったな。ただな、お前が行っても門番に追い払われるぞ」
「そうなんだ……」
公爵夫人に会える手立てがなくなった。
――困ったわ。何かいい手はないものかしら。
腐ったような匂いのする建物の前で考え込んでいると、立派な馬車が走り抜けていった。
「なんて立派な馬車……」
「ああ、あれは王子様が乗っている馬車だ」
「王子様?」
「王家との取り決めで、ここの次代となられるお方だ。例の、赤鬼王子様さ」
匂いに辟易して、そこから立ち去ろうとすると、さっきのお兄さんが大声で私を呼び止める。
「おーい。坊主。いいことを教えてやる。今公爵家ではお前くらいのフットマンを募集しているぞ。お前、結構いい服着ているから、どこかの坊っちゃんだったんだろう?」
フットマンって、確か従者見習いのことよね。私に務まるかしら。
入り込めれば、元公爵夫人に会えそうだけど。
「誰にお願いすればいいの?」
「おいらのギルドで紹介状を書いてもらえ」
「ギルド……」
「傭兵や護衛を扱っているギルドだ。心配ない。ちゃんとしたところさ」
お兄さんの後をついて石造りの大きな建物の中へ入る。
扉には『傭兵組合フォグリッジ支部』と書いてあった。
ここにはたくさんの男たちがいた。
金髪の男や茶髪の男、赤い髪の男とカラフルだった。
女性も数人いたが、どうやら事務か受付係のようだ。
「どうしたの、サム。その子……」
「例のフットマンの募集、まだしているだろう」
「ええ、あと一人だけ枠が空いているはず。その子が?」
「ああ、こいつ、きっと文字だって書けるはずだ。な、そうだろう?(そうだって言え)」
お兄さんが目配せしてきた。文字は書けるから――だから、頷いた。
「まああぁ、よかった。やっと揃うわ!」
私はギルド長という人のところへ連れて行かれて、第一次面接というのを受けさせられた。
「お前、名前は?」
「シャ……じゃなくって――ロット・レイクシャーです」
「ロットか。よし、ここに自分の名前を書いてみろ」
サラサラと名前を書く。難しい言葉はまだ書けないけど、名前は大丈夫だ。
エリー先生が元気だったなら、もっと色々教えていただけたのに……今となってはそれも叶わない。
これからは、平民として生きていかなければならないだろう。
「まあ、名前が書けるんなら、何とかなるな。文字は読めるんだろうな」
「はい、難しくなければ、なんとか」
「よし! 一次面接は合格だ。あとは公爵家へ連れて行って、執事に見てもらう」
優しいお兄さんサムが、バチリとウインクして親指を上に向ける。
私も笑って、サムズアップで返した。
次の日にまたここへ来いと言われたので、宿を紹介してもらう。
この建物の隣にある宿だった。
《明日、公爵に会ったらどうするんじゃ?》
「私……このままフットマンでいいかなって考えている。どうせ、男爵の地位には戻れないし。結婚もできそうにないしね」
私がそう言うと、モンモがしゅんとしてしまった。
《ボクが、引っ込み思案だから……》
「いいのよ。モンモがいてくれるだけで幸せなんだから。それより髪の毛、少し伸びてきた。切った方がいいかな」
《ここの男たちは髪が長いぞ、気にしなくっても良さそうじゃゾ》
そう言えば、みんな髪を伸ばして後ろで結わえていた。ここではそれが普通なのかも知れない。
ちょっと伸びた毛を後ろで結わえてみる。
さっぱりした印象になった。これならきちんとして見えるかな。
「明日、頑張ろうっと!」
次の日。ギルドへ顔を出すと、ギルド長が付き添いとしてついて行くと言われて、驚いた。
ここの男たちは身体が大きくて怖そうなのに、本当に面倒見がいい。
王都の近くよりも、大柄な人が多かった。
ここでは北との混血が進んでいると聞いた。
髪色も赤っぽい茶色や金色や、様々だった。
でも、北の種族はもっと大きいと言われている。
「そんな種族と何百年も戦ってきたんだ……」
「お、よく分かっているじゃネェか。坊主」
公爵様のお城は大きな建物で、この領都の中では特に目立つ大きさだ。
要塞のような構造で、灰色の石を組み上げて作ったものだった。
狭間も、道がくねくね続く造りも、すべて戦いを想定された造り。
一気に攻め込まれないように考えられていると、ギルド長が道々説明してくれる。
「それだけ危険な場所、と言うことでしょうね」
「坊主。そう言えばお前何歳だっけ。聞くの忘れていた」
「え、十三歳です」
「十三歳? それにしちゃちっせぇな。まあいいだろうなんとかねじ込んでみせる。安心しな」
結論から言うと、私は見事雇ってもらえた。
執事が王都出身で、私を気に入ってくれたお陰だった。
「ここいらの野蛮な連中には見ない上品な顔立ち」
だそうだ。執事は私の鼻いぼを見ないようにして言った。
私は、従者の住む部屋へ案内され、そこの仲間たちに紹介される。
従者は五人一部屋に押し込められているようだった。
――困ったな。これじゃあモンモが私の鼻から出てこられなくって窮屈そうだ。
一人で自由になれる時間を探さなくちゃ。
ここにいる従者は今回雇われた新人ばかりだった。
「おい、名前は?」
「ロット」
「ロット、お前が一番の下っ端だからな、だから、朝一番に起きて掃除と便所の係だ」
「……はい」
――ふへー、オマルの処理かぁ。
「おい、お前のその鳥、おいらに寄こせ!」
「ダメだよ。これは妖精なんだ。僕の加護だから、君には絶対に懐かない。諦めて」
「よ、妖精……。お前、加護持ちだったのか……」
《そうじゃ、お主のようなやからに、儂は絶対に懐かん!》
「お、喋った! お前、喋る妖精の加護があるのか。すげぇ……」
従者たちはジイを囲んでワイワイがやがやし始めた。
羨ましいとか、滅多に加護持ちにはお目にかかれないとか言いだした。
「ここには加護持ちはいないの?」
「いるけど、たまーにしか見ない。そういうヤツらは神殿か、王都へ行ってしまうからな」
「そうなんだ……」
その夜は、従者たちがそれぞれ小さなベッドに潜り込んで眠りについた。
薄い毛布を身体に巻いて、モンモが変化している鼻いぼを触り、ジイが私の肩口に寄り添って、その日はいつの間にか眠っていた。
朝、誰よりも早く目覚めて、すぐにご不浄へ直行した。
この従者部屋のご不浄は仕切られていて、半畳くらいの四角い空間にオマルがポツンと置いてある。
「モンモ、お願いできる?」
《まっかせてぇー。それ、それ、それれーっ!》
モンモの得意な浄化でたちまちご不浄もオマルの中身もピカピカになった。
その足で、中庭に駆け下り、昨日目を付けていた奥まった木陰に辿り着いた。
ここは大きな木が立ち並んで、屋敷から見えないようになっている。
恥ずかしがり屋のモンモを自由にさせておける、唯一の場所かも知れない。
《ロット、僕のせいでごめんね》
「ううん、モンモがオマルを綺麗にしてくれたお陰で、いっぱい時間が余ったのよ。ここでゆっくりしよう、ね」
《まったく面倒な性分じゃのう。少しくらい我慢できんのカァ、モンモ》
《ボクには、無理だよ。妖精界の落ちこぼれだもの……》
私は、この時初めてモンモが落ちこぼれだったと知った。
――あの泉の精霊って、やっぱり意地悪ばあさんだったのかしら。
でも、私はモンモがいてくれてよかったと思う。意地悪された結果だったとしても、それは幸運なすれ違いだった。
ぷにぷにしたモンモの薄皮を触り、ジイの悪態を聞きながら、一時間。
穏やかな時間を過ごして、また従者の部屋へ戻っていった。
私が任された従者としての仕事は、
オマルの処理から始まり従者部屋の掃除、各部屋のゴミ集めだった。
ゴミを集め終われば、それが終われば先輩従者について回る。
今後の私の役目である伝令――要するに使いっ走りをさせられる、街の中の主要な店やギルドへ連れて行かれた。
「お前は当分、あちこち走り回る仕事だ」
ベテラン従者になれば、主人の護衛なんかもあるらしい。
「従者って、大変な仕事だったのね」
男爵の一人娘だったときは、従者を気軽に使っていた。
だけど、こうして経験してみると、過去の自分の我が儘っぷりが思い出された。
そうやって、足が棒のようになりながら走り回り、従者の仕事をこなしながら一ヶ月ほど過ぎた頃、「公爵様が王都からお帰りになった」と執事から教えられた。
「え、今までここにいなかったの?」
「王子様と王都へ行っていたんだ。知らなかったのか? これから忙しくなる」
「うっそ、これ以上忙しくなるの?」
私は毎日朝の一時間しか自由が利かない。
一体どれほど大変になるのか、ぜんぜん想像がつかない。
「公爵様、お帰りなさいまし。ヘンリー王子、ようこそお出でなさいました」
執事と家政婦がお辞儀をしながら挨拶をした。
屋敷の使用人一同が屋敷の表玄関前に並び、一斉にお辞儀する。
私は末端の末端なので後ろに並んで、公爵も王子様も見えなかった。
顔を上げて見ようとしたら、すでに公爵様は屋敷の中に消えたあとだ。
「がっかり。そう言えば、元公爵夫人はどこにお住まいなのかしら」
本当は、エリーに託された手紙を持って、元公爵夫人に会うはずだったけど、途中で気が変わった私だ。今更会いに行けたとしても、どうにもならない。
「まあ、従者の仕事にも慣れたし、このままでも十分よ。修道院に入れられていたら、もっと自由がなかっただろうし……」
*****
可哀想な鼻いぼ姫。意地悪な精霊のせいで、お嫁さんにもなれないようですしね……。
せっかく王子様がいらっしゃるのに、夢も希望も無いみたいですよ。
どれどれ、王子様はどんな方でしょうね。ちょっとだけ覗いちゃいましょうかねぇ。
*****
「養女として受入れた侯爵家の第五女が断りの手紙を寄こした……だと?」
「……は、公爵様が王都へいらっしゃる間のことでして……」
「……」
ここ、フォグリッジ公爵家には子供がいない。「種なし公爵」と、蔭では揶揄されていた。
公爵家は王家の流れを汲む由緒正しき血筋だ。
今回、第五王子をここへ迎え入れるため、養女を迎え入れようと画策していたが、候補が逃げてしまったようだ。
「赤鬼」と噂される王子を恐れた結果であろう。
「私の見た目……ですかね。こうも恐れられてしまうのは」
「あ……いや。その様にいわれますな。王子は何も悪くないのだ。少しだけ大きく、ちょっとだけ……赤いだけだ。ウン、問題ない」
公爵様の取りなしにも気持ちが上がらない王子様。ガクンと項垂れ、とぼとぼと執務室をあとにする。
”気は優しくて力持ち”と言う言葉は、この王子のためにある。
少しだけ気弱なところはあるが、北の精霊の加護まで授かっている。
戦いには率先して出向き、成果を上げてきた。この公爵領にはどうしても必要な人材だった。
公爵は一計を案じた。
つまり、自分の母親に相談を持ちかけることにしたのだ。
公爵の母親は七十歳になるが、前公爵亡き後この公爵領を女手一つで差配した女傑であった。
今は隠居して公爵に実権を明け渡したが、何かある度、こうして相談を持ち込まれている。
「まったく。あなたという子は! 子は出来ぬは、自分で物事を決められぬでは公爵の地位が泣きますよ」
「母上……しかし、女子が寄りつかぬのは困りものです。どこかに心当たりは御座いますまいか?」
「無い事もないのですが……伯爵家の子がおります」
「おおー、この際、男爵でも子爵でも身分は問わぬ」
「ですけど、問題があります。その子はまだ五歳。この先十年は待つことになります」
貴族の間では年の差はさほど問題ではない。
ただ、王子は今、気落ちしているようだ。公爵の母親は、優しく頼りがいのある王子をすこぶる気に入っていた。
「何とか伝手を辿ってさしあげましょうか。そう言えば、エリーはどうしているかしら……」
元公爵夫人は、王子にもう少し年の近い嫁を探してあげたいと思い始めていた。
羊皮紙を取り出し、羽根ペンにインクを付け、古い友人に向けて手紙をしたためたのであった。
*****
ここへ来て半年、従者の仕事は完璧にこなしている。
この頃、私の呼び名が変わった。
「おい、鼻いぼ。これを商業ギルドへ持って行け」
「はい」
面と向かって、鼻いぼと呼ばれるようになった。
女性を辞め、男として生きていく決心をしたのだから、これでいいのかも知れない。
男性の間では、女性に対するような気遣いはないと言うことなのだろう。
でも私は気にしない。
鼻いぼと呼ばれるたびにモンモがピクリとするのは、ご愛敬だ。
私の鼻の下で、ぷるぷるしている。
鼻いぼと呼ばれるときに――私は一人じゃない。
そう感じる瞬間でもあるんだもの。
この街の商業ギルドは、傭兵ギルドの近くにある。
だから帰りにはサムがいるか覗いていく。
彼がいれば近況を話し、まずいビールをおごってもらう。
「ずいぶんこなれてきたな。ビールもちゃんと飲めるようになったしな」
バンバンと肩を叩かれ、チョット痛いけど、この街にも知り合いが出来た事に充実感がわいてくる。
ここは、私の街になりつつある。
今日も同じだ。ビールを飲んで、ちょっとふらつきながら、領主館を目指す。
すると、カーン、カン、カンと半鐘が鳴った。
「えっ? 何の合図……?」
走っていると、傭兵たちが、バラバラと駆けて私を追い越し、領主館へ走って行く。
私も走った。領主館につくと傭兵たちが、領主兵と一緒に整列していた。
公爵が台に立って大声で話し出す。
「西北に動きがあった。北の部族の抗争らしい、こちらに流れてくる恐れがある。守りを固めよ!」
「「「おおーー!」」」
公爵の後ろから、馬に跨がった赤い髪の大柄な男が、ぬっと現れ兵達を率いて走り抜けていく。
周りから「赤鬼だ!」「赤鬼王子だ!」と、喝采を浴びていた。
「あれが、王子様……」
フルフェイスの甲冑を身に纏った姿は、まるで鬼人のように禍々しい。
あまりにも大きくて、私は思わずブルリと震えた。
「鼻いぼ、なにをしている! 俺たちも行くぞ!」
「え、ええーー! なんで!?」
「馬鹿か、お前は。後方支援だ。荷物を積んだ荷車に乗れ。早くしろ」
従者は、戦場にも着いていくと初めて知った瞬間だった。
荷車に乗せられ、今後の役割を従者の先輩に口早に指示された。
「お前はまだ子どもだから、前線へは出なくていい。だが、荷物の管理を任せる」
簡単につまめる食べ物や水、替えの剣などの管理を任せられた。
オロオロしながらも、先輩の助言をしっかりと頭に刻み込む。
――戦場……初めてなんだけど。
私は小刻みに震えているのに、周りを見まわせば、男たちの顔は高揚して目が爛々とかがやいている。
男の人って……。
街から離れた基地で、遠くの北の部族同士が戦う様子を皆が覗っていた。
「総勢二百の部族です。間もなく戦場が移りつつあります」
斥候が報告に来た。
馬に乗って戦っているようで、戦場が刻々と移動しているようだ。
「弓兵、前へ!」
盾持ちも一緒に前に出て構える。
「鼻いぼ。お前も盾に隠れろ。流れ矢が飛んでくるかも知れないからな」
伸び上がって見ていた私を引っ張り、同じ下っ端従者がそう言った。
「でも、何でこっちへ来る? 関係ない部族の抗争でしょう?」
「俺たち目がけて逃げてくるはずだ。負けそうな方がな。そうすれば、矢が飛んでくるんだ」
「何でこっちに逃げてくるの。勝手にあちこち逃げればいいのに……」
「ここは基地がある。ここに逃げ込めば助かると思っているんだ。でも王子はそれを許さない。いつも同じ手に乗って、巻き込まれてきたのを、変えようとしている」
と言うことは……逃げてきた人を撃ち殺そうというの?
私は、馬に乗り腕を組んで遠くを見ている鬼人を、恐る恐る見つめた。
この日、抗争はお互い痛み分けの形で終わったようだ。
生き残った部族たちはちりぢりにばらけ、北や東へ逃げていった。
従者から、色んな話を聞き、頭が混乱しっぱなしだった。
予想していた危険は去り、皆がゆったりとした足取りで領都まで戻ったのだった。
領都の門を抜けるとき、従者が私に大声で「鼻いぼ、鼻いぼ!」と呼ばわる。
呼ばれた私は振り向きざま、王子と目が合ってしまった。
王子は、甲冑から覗く目をぎろりとこちらに向け、じっと私の鼻いぼを見つめていた。
「其方、ちこう」
「へ?」
隣にいた従者が肘で「呼ばれた、いけ!」というふうにつついた。
仕方なくちょこちょこと走り、王子の馬の横腹に立った。
「其方、私の従者に取り立てよう。名は何と申す」
「ロット・レイクシャーです」
「ほほう、男爵の名だな。其方王都の男爵と繋がりがある、そうだな」
「……はい……」
その日から私は、王子の従者という地位に昇格した。
*****
王子は「鼻いぼ」と呼ばれている可哀想な男の子を従者に取り立てた。
自分も「赤鬼王子」と呼ばれ嫌な思いをしていた。子供でありながらけなげに走り回るその子を傍に置いて、匿ってやろうと思ったのだった。
でも、鼻いぼ姫は男の子のふりをしていますしねぇ。
混乱しなければいいですけど、赤鬼の王子様。




