16 王子の憂い
これはどういった状況なのだ。
ロットが、女性だと? 私にどこまでも付き従い、危険も顧みずに北までついてきてくれた従者。
女だと知っていれば、こんな場所には連れてこなかった。
あのような訓練など強いることもなかった。
そもそもの話、従者などに取り立てることもなかったのだ。
男に扮していたのには、彼女の加護が大いに関係しているのだろう。
女性がいぼなど顔にあれば、哀れみやからかいの対象になったはずだ。
私は、ロットのこれまでの生きてきた道のりを想像して、悔やんだ。
「なぜもっと分かってやれなかったのだ」
あれは、呪いと言ってもいいものだ。
女性に、あのような加護を与えるとは……。
なんと意地の悪い、根性のねじくれた精霊なのだ。
だがもう一方で私の心は、なぜか晴れている。
「ロットは女の子だった。私は、御小姓好きではなかった……」
今まで自分の事が信じられず、悶々とする日々が続いていた。
なぜ、ロットから目が離せなかったのか。
なぜ、いつも目で追ってしまうのか。可愛い、守りたいと思ってしまったのかが、今答えを見つけたのだ。
「だけど、ロットには嫌われ、愛想を尽かされてしまっただろう」
あの時ロットに、女と知り合う機会を与え、私から離そうと考えて起こした行動だった。
鼻いぼがあれば、女性と親しくなる機会も、妻を娶る機会もないだろうと思ったのだ。
そして……私の邪な感情にもけりがつくと思った。
無邪気な少年に私の魔の手が及ぶ前に――
ロットに幸せになってもらおうとしたのだ。
「お爺さま、ロットは……私の従者はどこにいますか。どこにもいないようですが」
いつもは身の回りの世話をしていたロットがいない。すぐに機嫌を直して戻ってくると考えていたのだが。
「三日前に公爵領へ返したぞ。我が奥方様の差配だ。側室とばれてしまったのだ。お前も、体裁が悪かろう」
「……帰った? 私をここに残して」
私の腹の底に、ぶすぶすと火がくすぶるのを感じた。
心の奥底で、見捨てられた……そう感じる幼い心が芽を出したのだ。
「お爺さま、和平がなったのです。私は公爵領へ戻ります」
「いや、お前にはここを継いでもらいたいのだ」
ここの次代は数年前の部族の抗争で亡くなっていた。
だが、親族はたくさん残っているではないか。
私がここに残ったとしても何も変わらない。
返って、オルダーウィン国との中が壊れる恐れもあるではないか。
「クランの和平がせっかく叶ったのに、今度はオルダーウィン国との中が崩れるではないか。断じて私は、ここの次代とはなりません! では」
傭兵たちを引き連れ、フォグリッジ公爵領を目指す。
「やっと帰れた!」
自室に駆け込み、従者の部屋のドアを開けたが、そこにロットはいない。
執事に問うと、
「大奥様と王都へ出かけられました」
「王都……なにをしにいった?」
「さあ、急のお出かけでした。一年ほどかかると、大奥様は仰られました」
程なく、フォグリッチ公爵が、執務室で満面の笑みを浮かべて言った」
「王子の婚約者が見つかりました。子爵ですが、領地持ちの女領主ですぞ」




