15 大奥様の涙」
「大奥様、ヘンリー王子の従者が使いとして参っております」
「あら、ヘンリー王子の……?」
扉の外でそのやりとりを聞いていた。
おかしいと思っているでしょうね、大奥様は。ここへ王子からの使いが来るなんて、普通ではないもの。
でも、「シャーロット」と言っても、会ってはくれないだろう。
王子には申し訳ないが、従者の立場を最後に使わせてもらおう。
家政婦が、その場からいなくなり私は手紙を握りしめて、大奥様の前に立っていた。
「あなたは、いつぞや音楽室にきた従者ね」
「はい、その節は、お邪魔してしまい申し訳ありませんでした」
「いいのよ、それで、王子からのしらせを持ってきたと言うけど、北で問題でも起きたのかしら」
ここで思い切って話した方が良さそうだ。いつまでも隠しては話が進まない。
「ごめんなさい。王子様からの伝言は無いのです。私が、奥様に直接お会いしたくて、嘘を言ってしまいました……」
私は手紙を差し出してこう打ち明けた。
「この手紙は、私の家庭教師、エリー先生からの最後のお願いがしたためられています。でも、ここに書かれていることは、もう私には必要ありません。ただ、大奥様とエリー先生はお友達だと聞きました。先生の最後に書かれた文字です。どうぞ」
大奥様は、立ち上がり、小刻みに震える手で、手紙を受取った。
その後椅子に腰を下ろし、手紙を読み始めた。
大奥様は、一時間ほど掛けて、何度も何度も手紙を読み返していた。
目には涙を浮かべ、黄ばんだ手紙を優しく撫でて……。
――本当に、親しく思っていたお友達だったのね。
その後私に座るように言って、家政婦を呼び、お茶を持ってこさせた。
「あなたが、シャルロット・レイクシャーなのね」
「はい、両親が相次いでなくなり親戚が領地を継ぐ事になりました。暫くはエリー先生と、マナーハウスに住んでいましたが、先生も亡くなってしまいました。私はこの見た目です。男の姿に変えて、この公爵領で働くことにしました」
「そう……」
「私は、王子を謀って今まで従者をしておりましたので、罰が下るのでしょうか」
「王子はその様なことはなさ雷肩です。安心なさい。でも、これからあなたはどうするの?」
「王都へ行ってメイドか何か、仕事を探そうと考えております」
少し考えて、大奥様は、今のレイクシャーが大変な事になっていると教えてくれた。
「作物が取れなくなって、領民が逃げ出しているそうですよ。今の男爵様は、方々にお金を借りて回っている。その内返せなくなるでしょうね」
私はピンと来た。
泉の精霊の呪いだと。お父様は欠かさず泉にお祈りをしていたのに。
変な叔父様はそんなことはしなかったはず。
だから、作物が育たなかったのだ。
王都へ行く前に、男爵領へ言って泉の精霊にお祈りをすれば、意地悪な精霊は機嫌を直してくれるだろうか?
「シャルロット、あなたは行方不明となっていますよ。今名乗り出れば男爵の借金を負わせられるかも知れませんね。今の男爵は、自分は領地を預かっているだけだと言っています。男爵の地位も返還したいと……」
これは、大変な事になった。
大奥様は私に年齢をお聞きになった。「十五歳になります」と答えると、
「そうなのね。だったら、何とかなるかも知れないわ。シャルロット、私と一緒に王都へ行きましょう」




