第79話:ミレニア。ゴメン。ありがとう
引き摺るスカートの端をミレニアに膝まで捲し上げてもらい端と端を腰で結んでもらった。
「見た目は悪いですが…」
「背に腹は代えられません」
切れるものなら膝丈で切りたいくらいだったが、切ろうと思っても切れるものでもなかった。
ティテたちの起こす風って、一歩間違えば私の足ごと切られてたんじゃあ…
「ここを曲がります」
武官は、曲がり角ごとに曲がる感じでジグザグに街を抜けていく。たぶん追跡回避のためなのだろう。
でも、先回りされる可能性が高くなる気もする…
武官の一人が壁に張り付いて、闇夜に紛れる橋を覗き見る。
誰も居ないことを確認すると、手で合図して別の武官が橋に続く通りに出て身を隠しつつ橋へと向かう。
静だ、物音一つしない…
私たちは今、視線と手だけで全ての行動を行っている。
橋の中ほどまで進んだ武官が手を振る。
私たちは、通りに出て橋へと向かい始める
姿勢は低くして、極力音を立てずに足早に。
「ンッ!」
先頭を進んでいた武官が、くぐもった呻きを漏らし倒れる。
タァーーン
銃声が今聞こえる。
「フェリシティお嬢様!ステファン卿!狙撃です元の道まで戻って!頭を低くして急いで!」
武官が叫ぶ。
「でも、倒れた武官が…!」
私の上げた声は「お嬢様急いで!」というミレニアの声にかき消される。
ミレニアは私に覆いかぶさるように私の手を引いて走る。
チュイィィィィィン
近くに跳弾の音。
タァーーン
響く銃声の中、私たちはなんとか元の路地に逃げ込んだ。
「撃たれた武官さんと、橋の中ほどに行った武官さんは?」
私の問いは武官の振った首で理解するしかなかった。
「この橋も使えません」
「取り敢えず移動しましょう、でないと囲まれますわ」
「そうですね」
これで二個目の橋だった。
「橋はもう無理かもしれません、既にこちらの動きが読まれています」
走りながら会話が続く。
「ランツァウの兵舎にいけませんの?」
「それも川向うです」
「気づいて来てくれることは?」
「王国に橋を押さえられていると難しいですね。情報が伝わらない可能性が有ります」
「なんで川向うに領事館を造らなかったんですのですの!」
「そういわれましても…」
武官が困った声を上げる。
「川を渡らずこちら側に何かありませんか?」
私が質問を投げかける。
「ノース公の領事館くらいでしょうか…」
「ノースは王国側ですわ!」
ピューリッツで、ウィンザー公とノース公は不戦が成ったが、基本的にノース公は王国側のままだ。
「一旦領都からの脱出を図られては?」
「私が死んだと流されては拙い、ランツァウが良いようにされかねない」
ステファン様が唸る。
「襲ってきている王国兵はどれくらいいると思いますか?」
私はステファン様に聞いてみる。
「そんなに多くはないはずだ、ランツァウの許可なく軍人をそんなには常駐させられない」
「正規のでない方々もいると思います」
「そうなると100くらいいてもおかしくないか…」
そう…ですよね。
なにか打開策が欲しい。
T字路の角を曲がって。
ガガガガガガッ
多くの火線が飛ぶ。
「王国兵だ!戻って!」武官の悲鳴。
ザザザザザザザ
ダカダカダカ
後ろからも軍靴の音。
「だめだ、囲まれた!」
「動くな!」
T字路右手に10人、後ろから同じく10人程度の兵がこちらに銃口を向けている。
私たちは顔を見合わせる。
フェリシティは悔しげに唇を噛んでいた。
ごめんなさい…
ステファン様も態々注意しに来てくれたためにこんな目に。
ごめんなさい…
ミレニア…怒りと悔恨の顔。
ごめんなさい…
「武器を置いて手を頭に!」
王国兵の指示に、私は銃口を相手側にゆっくりと地面に置いた。
手を頭の後ろにつける。
「ステファン・ド・ランツァウ卿と
スフィアルィーゼ・アルマリン候だな。
確実に殺すように命令を受けている。
こんな暗殺のような真似は断腸の思いだが…すまない許してくれ」
「私は構いません。ですが他の者は助けてください。どうか、どうか、お願いします」
「お嬢様!」
「スフィア!」
「スフィア嬢何をいっている!」
こと、ここに至って私を心配してくれた人たちには助かって欲しい…
「お前がアルマリン候か。
ここに至ってそれが許される状況ではないことはわかるだろう。
騎士としてこのような暗殺紛いは断腸の思いだが、このような内戦で悲しみが増えるのは間違っている。
残念だが、全員死んでもらう。
それがこの戦争を早期に終わらせられる方法だと聞いている」
「それは、貴方たち…いえ現国王が間違いを犯しているからですわ」
「王国騎士よ、盲目になるな、自分で考えるんだ。お前たちの忠誠は前国王に対するものではないのか!」
「何であれ、前国王は戦いを望まれる人ではなかった!」
自らを騎士といった男の手が上がった。
銃口は違わず頭と心臓に狙いつけられる。
私は良い。だけどみんなは…
私は、下に置いた九四式拳銃の側面をブーツの踵で思いっきり踏みつけた。
パアァァァン
暗闇の中での発射音。
ミレニアが最初に渡してくれたときの注意点。この銃の欠陥。側面の衝撃に対する暴発の危険性。
「銃声!何事だ?」
騎士の動揺。
兵士たちの銃口が泳ぎ、後方に向けられる。
私は咄嗟に騎士に向かって、飛びかかった。
「みんな、逃げて!
ステファン様を守って!」
「スフィア!」
「撃て逃がすな」
「お嬢様!」
ステファン様、フェリシティ、ミレニアにも動揺が走る。
「最後のチャンスなの!無駄にしないで!」
「クッソーーーー!スフィアーーー!」
ステファン様は二人の武官に引かれ、フェリシティは私を振り返りつつ走り出した。
ミレニアは…
私の下に残った…
笑顔で。
騎士に振り払われた私は頭に銃口を突きつけられた。
ミレニアも同じように銃口を突きつけられている。
「ミレニア。ゴメン。ありがとう」
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