第71話:貴女もしかして流されやすいんじゃなくて
「初めまして、アルマリン侯爵家頭首代理のスフィアルィーゼ・アルマリンです」
私は淡いブルーのドレス姿で挨拶をした、横には同じようにドレス姿のフェリシティが真紅のドレスを摘まみ膝を曲げた。
「サウザント公爵家令嬢。フェリシティ・ド・サウザントです」
リリスラーとの戦いも、多くの捕虜の問題が出てしまった。
ノース公爵の時とは違い、そのまま所領ごと占領してしまったので捕虜交換や金銭での解決もできないし、賠償請求もできない…
(そこまでは考えてなかった…)
ついでにいうと、王国兵士の捕虜もいるんだけど、王国は交渉に応じなかった。
「リッセル・リリスラー子爵だ」
会議室に入ってきた青白い顔をした痩躯の男性が名乗った。
他に子爵夫人と思える女性。私と年齢の変わらなさそうな令嬢とその兄と弟と思われる青年が並んだ。
「どうぞお掛け下さい」
私は頷くと席を勧めた。
「この館は私たちの家よ、偉そうにしないで」
令嬢がプリプリと怒りながら席につく。
「貴族としての待遇を要求する」
私が話し始める前に、子爵が口を開いた。
驚きにフェリシティと目を合わせる。
「いや、それ以前に私の所領に対する不当な占領をやめたまえ」
私たちを睨みながら怒りを露わにする。
「不当ではありません。お互い死力を尽くした結果ですから」
私は優しくそう伝えた。
「貴様らは王国の反逆者。対等な立場ではない。王国貴族たる私を害する権利などない」
「そうよ、早く館を返して出ていってよ」
「現在の国王が、前陛下を排したことから始まった問題です。私たちは王国を裏切ったつもりはありません」
私は、静かに一旦目を閉じると話し始めた。
「王冠を戴いているのは現国王だ。お前たちはどう抗弁しようが反逆者だ」
「そうだ。
アルマリン卿は一人娘と聞く、私が婿入してあげよう」
弟?と思える青年が突然そんなことを言い出した。
(は?)
なんでそんな話になるの?
「そうすれば父から陛下に反逆者の汚名は取り下げてもらえるようにいってもらえるよ」
(意味がわからない)
「あら、それはいい話ね。是非そうしましょう」
夫人が手を合わせて頷いた。
(ええ?何それ)
「まあ、じゃあ貴方は私の妹になるのね。お姉さまと呼んでいいわよ」
(な、なんなのこの家族)
「お巫山戯になるのもいい加減になさいまし!」
フェリシティが額に青筋を立てて怒鳴る。
「スフィア!」
「は、はい!」
「貴方もなにボーッとしてるのシャキッとしなさい」
「は、はい!」
「反逆者云々は意見の相違ですわ」
そういって、フェリシティがリリスラー子爵たちを睨みつける。
「リ、リリスラー子爵。
ウインザー公爵、サウザント公爵の言葉をお伝え致します」
私はそういって書簡を取り出す。
リリスラー家族に動揺が走る。
「1.リリスラー子爵領に関して、王国との問題が解決するまで、ウインザー及びサウザントで管理するものとする。
2.リッセル・リリスラー子爵に関しては、その間サウザント領内にて逗留いただく。
3.王国との問題解決の後に関しては、その時に身柄について決めるものとする。
以上です」
子爵夫人、令嬢、子息は顔面蒼白になった。
リリスラー子爵の顔色が青から赤に変わった。
「巫山戯るな小娘が。所領を賜る領主に対しその物言い、その態度何様か!」
リリスラー子爵が机を乗り越え拳を振り上げて、私に殴りかかろうとする。
子爵という爵位に敬意を払い、拘束するようなことはしていなかった。
それが仇になった感じだ。
だけど、子爵の拳は私に届かなかった。
子爵の後ろに立っていた男が子爵の腕を掴んでいた。
男の名は、グレン・グレイグ銃士隊隊長。
「貴様、グレイグ銃士隊長?な、何をしている放さんか!」
「リリスラー卿。申し訳ございません。
私の仕える方への暴力は見逃すわけにはいきません」
「仕えるだと?お前の主人は私だろう」
「リリスラー領は現在倒産したようなものです。私たちはスフィアルィーゼ様に雇用して頂きました」
「はあ?バカなことをいうな!」
「家族を養わなければなりませんので…」
そう。
捕虜対策として、私はリリスラー軍の方々に対し、意志を尊重する形で雇い入れることにした。
頑なに拒否される人もいたが。殆んどの人が誘いに乗って下さった。
特にこの隊長は、サウザントの戦車隊隊長が推してくれた人だった。
将軍など、戦略指揮官も勧誘したかったのだけど、固辞されてしまった。
「この老いぼれに新しい戦いは無理だ。それに主を変えるのは好かん」とのことだった。
私は、そういう人が好きみたい。
「また勧誘させてください」とお願いしてきた。
そうそう、将軍は、私の顔を見てしきりにため息をついていた気がする。
「ああ、この娘が」「ああ、歳をとったな」とか…
「うちの孫にどうかな」とかも。
フェリシティは、「昨日まで殴り合った人たちをよく信用できますわね」と呆れていた。
「小娘覚えてろよ!」
「触らないで頂戴」
「私のドレスは持って行って良いのよね」
「なんで、僕の者にならないんだこの女は!」
衛士に連れられて会議室を出て行く、悪態をつくリリスラー子爵家の面々。
(ん?)
ただ一人、兄と思しき者だけが最後にお辞儀していた。そういえば彼は一言も声を発していなかった気がする…
「リリスラー卿は、重税と横暴。奥方とお嬢様は豪遊。弟は女癖…もうここに戻ることは無いかもしれませんね」
とグレン隊長は私にいう。
「そうですか…」
(あれ?兄は?)
「スフィア!」
「え?何?」
何やらフェリシティがムスッとしていた。
「貴女もしかして流されやすいんじゃなくて!?」
…え、え、え、そうなの?
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