第70話:戦争で天変地異を起こされては、人など何も出来ません
ドッ
ヴゥワァア
バラバラバラバラ
土煙が土砂が舞う
バキィィン!
ガギリギリギリギリ
ギュラ ギャラララララララ
九七式中戦車「チハ」の履帯がリリスラー軍の仕掛けた爆弾により切断された。
「お前ら…いったい幾つ仕掛けたんだ?」
リリスラーの砲兵隊、銃士隊は既に武器を捨てて降伏していた。
だが、仕掛けた爆弾というか…
青銅砲の黒色火薬が積まった榴弾。その導火線の穴に、マスケット銃の弾を込めるためのラムロッドを火薬部まで刺して信管とした簡易対戦車地雷がそこら辺中に埋められていた。
単なる嫌がらせとしか思えないが。
戦車隊の足を止めることに成功していた。
「これを考えたのは誰だ?」
「俺だ、どんな処断でも受ける覚悟はしている」と銃士隊隊長がいうが。
「私です隊長は何も知りませんでした」ニックが隊長を庇うように手を上げた。
サウザントの戦車隊隊長は。ニックの顔と銃士隊隊長の顔を覗き込むと「そうか憶えておこう」とだけいって戦車に戻って行った。
戦車隊が埋められた砲弾を避けて通ることは難しい。
現場判断として戦車隊はここで西進し迂回することになった。
騎士や歩兵隊は砲弾の隙間を慎重に進み、当初の計画通り飛行場へと向かって進軍を開始した。
◇◇◇
飛行場に戻った王国軍戦闘機隊は飛行場の防衛にリソースを割いていた。
ウィンザーとサウザントの飛行隊は決して深追いしてこなかった。
そのため今のところは損害ゼロだった。
隊長は自らは上空に残り、部隊の三分の一ずつローテーションで休むように指示した。
同じく車両で本隊より一足先に飛行場に到着したリリスラー軍将軍は、順次撤退していたリッツ子爵領境方面の部隊も含め、全軍の再編成を指示した。
「領都は陥落するだろう、ここもそうは持たない。
軍の体裁をとれるように再編し、交渉でリリスラー子爵とご一家。兵士の助命を願うしかなかろうな」
将軍は小声で参謀に伝えた。
「こと、ここに至ってはそれしかないでしょう…」
「ノース公爵軍が敗北したという情報が入った時点で理解しておくべきだったな…」
「王国軍の飛行隊には何時伝えますか?」
参謀は将軍の言葉に頷き、王国軍のことを聞く。
「そうだな…もう話しておこう。
此方の都合につきあわせられないからな…」
ドォォン
ドドォン
ドドォン
「何の音だ?」
ドォォン ドドォン
ドドォン
ドォォン
ビリビリビリ
こまかな振動も伝わってくる。
「将軍!報告致します」
「何が起こっている」
「シャダル山が煙を吹いてます」
「何だと!」
急いで参謀とともに外へ出る。
カルデラ湖をたたえる山。シャダル山が白い煙を吹いていた。
「噴火か!」
ドォォン ドドォン
ドドォン ドォォン
ドォォン
山頂を中心に、尾根や中腹麓にも煙が見える。
「ち、違います…
あ、あれは砲撃です!」
「ばかな、どんな大砲だって、今朝の鉄の塊だって無理だろう。だいたい何処から撃っているっていうんだ!」
「将軍!上空の王国軍機からです」
「言え!」
「50キロ先、上空5000にて…飛行する物体を確認。発砲煙らしきものと弾道軌跡が見えるとのことです…」
「50キロだと…どうしろっていうんだ!」
「それもそうですが…何を狙っているんでしょうか?」
参謀の問は恐ろしい想像を掻き立てた。
◇◇◇
王国軍戦闘機隊隊長は上空でそれを見ていた。
敵の上空に巨大な何かが浮かんでいるのは見えていた。船だろうとは思ったがあんな巨大なものは見たことがなかった。
調査に向かうべきか判断が鈍る。
すると、その物体から煙が上がった。
八つの航跡が音速を越えて自分の下を過ぎていった。
「なんだ?」
シャダル山の中腹、尾根や谷が削れ煙が立つ。
「なんだ?」
次の軌跡。
中腹や山頂付近に煙が上がる。
「なんだ?」
今度は全て山頂付近に集中している。
「なんだ?」
ドドォン
ドォォン ドドォン
山が白煙に隠れていく。
「隊長!リリスラー軍に報告を!」
「あ、あ、ああ、そうだな」
部下の声に正気を取り戻すが。
自分の常識が壊れていくのを感じていた。
◇◇◇
「50口径三年式20cm砲E3型4基8門。
一分に三発打てる連装砲、その最大射程は29キロです。ですがそれは海上で発射した場合です。
高度5000ではその射程は50キロに及びます」
ミレニアの呟き。
「だけど…射程が伸びても、観測できない場所を正確に狙うことは出来ない」
とルーシャン。
「右20メートル、上に40メートル修正」
「そこは私たちが弾着観測、弾着修正を行なえば問題ないですわ」
「てい(弾着)てい」
私は、必死に利根に向かって通信を送る。
最初はバラけていた攻撃がわずかな時間で、指示通りの場所に集まり始めた。
(優秀だわ、どれだけ練習したのかしら)
カルデラ湖をいただく外輪山を利根の攻撃で、崩していく。
環境破壊の問題から一度は捨てたアイデアだけど、飛行場を破壊せず、もっとも人的被害の少ない方法として採用した。
(山の兎さん熊さんごめんなさい)
外輪山に亀裂が入り、雪解けの豊潤な水を蓄えた湖が轟音とともに決壊する。
ゴォォォォォオオオン
バリバリバリバリ
上空でも聞こえる大音響であった。
流れ出た水は山の木々を薙ぎ倒し、津波のように谷を伝い川を伝い、川の水を生活用水としている飛行場周辺へと勢い良く流れ出していく。
◇◇◇
飛行場施設へ。
飛行場に駐機した戦闘機へ。
再編中の部隊へ。
飛行場へ向かっていた撤退中の部隊へ。
それらを膝上の高さの水が流れ、広がっていく。
武器弾薬食料など蓄えられた物は水で洗われ。
戦闘機は隣接する戦闘機とぶつかり。
再編中の部隊は足を掬われ。
撤退中の部隊は足を止めるしか無かった。
一箇所に集まったリリスラー軍は泥濘んだ足元に軍事行動は不可能になり、飛行場も離陸も着陸も出来ない状況となった。
「万策尽きた」
将軍はそう漏らした。
「戦争で天変地異を起こされては、人など何も出来ませんよ…」
「通信兵はいるか!」
「ハッ」
「上空にいる王国軍に伝えてくれ。
リリスラー軍は降伏する。
王国航空隊は王国に逃げろと」
「ハ…イ」
通信兵は涙を溢していた。
スフィアも王国軍もお互いを見留めても、攻撃をすることはなかった。
程なくして領都のリリスラー子爵も降伏を受け入れた。
リリスラー子爵領は、ウインザー、サウザントの版図となった。
僅かに攻撃開始から半日の出来事であった。
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