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令嬢戦記~断罪された侯爵令嬢、妖精戦闘機で天翔けて逆転する~  作者: 奏楽雅


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第69話:心臓が締め付けられた

シルヴィは先に降りた黒い機体を追いかけるような体制に入った。微妙に角度をつけて旋回しつつ上下に機体を振られてしまい、以前やった長距離攻撃も叶わない。


だがティテのときと違って追いつくことができる。距離が縮まっている。


『あ、だめ!右に逃げて!』


「え?なんで?」

と思いつつシルヴィに従う。


黒い機体は、機首を上げてアーチを描くように向きを変えてきた。


私は上昇しつつ距離をおこうと遠回りに旋回を行った。


黒い機体が機首をこちらに向けて来る。


すれ違い。


右翼同士を天に向けて交差する。


上を向くと相手パイロットが目に入る。


飛行帽と白いマフラーで口元を隠していて顔はわからなかった。


そのまま、水平に戻して私は左斜め上にループ。

黒い機体は右斜め上にループ再度交差したあと左回転の螺旋状に相手を上に見た状態でクルクルと何度も位置を入れ替える。


「うう首が辛い」


お互いを前に出そうとする機動、我慢比べ。


「なんかあのパイロット…笑ってない?」


『うん、笑ってるわね』


「むー」


『それよりこのままでは不味いわよ。私たちが先に失速するわ』


「そ、そうね」


でも、どうすればいいというの…


『下端で水平になったときに、水平に機体を滑らせて』


「そ、そんな器用なこと出来ないわよ」


『既にお尻が滑り始めているの気づいてるでしょ』


確かに大出力の重いエンジンだから、下端では右に持ってかれている気はする。


機首が黒い機体を向くはずよ、その時を狙って。


私はシルヴィの言葉を反芻しイメージを頭に描く。

「…わかった、やってみる」


水平儀と相手を見ながら頃合いを図る。


私がこれだけ辛いんだ、相手だって辛いはず。


(えーいっ!)


操縦桿を右に、ラダーも右に踏み込む。


お尻がズルッと右斜め下に落ちるような感覚を受ける。


「あ、あれ?下?」想像したイメージと違う。


『スフィア撃って!』


黒い機体はあっという間に離れていく、シルヴィは速度をかなり失っていた。


照準、翼端を狙う、というかそこしか狙えなかった。


ドォン

  ドォン


何かが散った破片が見える。


「やった?」


『浅いわ、速度増速急いで』


「わかった」

スロットルを押し込む。


黒い機体は大きく旋回して増速してくる。


私は兎に角速度を上げるため真っ直ぐに高度も下げつつ離れようとするしか無かった。


黒い機体が背後に迫まるのがわかる。


肌がピリつく…


シルヴィが固唾をのむ。


右にロールして引き起こす。


急旋回を行う。


相手からは格好の的だわ…


黒い機体のシルヴィと同口径である30ミリ機関砲がシルヴィを掠める。


掠める!


掠める!


バン


機体が大きく揺れた。


『ツゥゥ!』


「シルヴィ!」


『大丈夫!』


黒い機体が迫る。


「ここ!」


私は左側の真新しいトグルスイッチを下げた。


背後で閃光。


マグネシウム発光。


当然シルヴィにも装備している。


こんな戦い形になるとは思っていなかったけど。


黒い機体は撃つのを止めて真っ直ぐに加速して行く。


(状況判断が早い)


私はそれを追おうと操縦桿をそちらに向けようとした。


『スフィア、ゴメン』


「シルヴィ?」


『飛ぶのがやっとかも…』


機体を目視すると右の垂直尾翼が半分無かった。


私は汗が吹き出し心臓が締め付けられた。


「シ、シルヴィ」


『大丈夫、飛ぶことは可能よ。伊達に二枚も垂直尾翼を持ってないわ』

シルヴィ。J7W1は二枚の大きな垂直尾翼をもつ機体だった。


「ゴメン。ゴメンなさい」


『黒い機体も逃げてくれたみたい。良かった』


「みんなの下に向かうわね」

私は窓枠をさすりながら、機首を黒い機体からフェリシティたちの方向に向けた。


***


「スフィアお嬢様!」


「スフィア!撃たれたの!」


「スフィア殿!大丈夫ですか!」


「ごめんなさい、黒い機体には逃げられてしまいました」


「それより…」


東南方向に視線を向ける。もう一つの戦線。


「今は作戦よ、目的地に向かいます」


「わか…りましたわ」


そうはいったものの…

速度は360キロが限界だった。シルヴィだと失速しそうな速度だけど、それ以上出すと機体が揺れて制御できなかった。


『ゴメンね』


「シルヴィのせいじゃないわ」


最後の締めが残っている。


「シルヴィもう少し頑張ってね…」


『わかってるわ』



お読みいただき有難う御座います。

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