第68話:スフィアのお願い
私はシルヴィと共に第一種戦闘全力を使って上昇する。
第一種戦闘全力の使用可能時間は五分。
黒い機体のキ87試作高高度戦闘機が直上に来る前に、同位高度まで駆け上がることができた。
敵の編成は、キ87、1機とキ61–II三式戦飛燕、7機。
私は、キ87と相対する。
高度7000を飛ぶフェリシティたちにキ61-IIが向かう
早天の太陽が、雲一つない青空を全てを浮き上がらせる。
地平は弧を描き、白みがかった空の始まりから青から濃紺へと色を変えて星が瞬く。
こんな場所に来てまで人があらそうなんて…
王妃を目指していた頃には想像もしていなかった。
距離1200、ヘッドオンで接近する。
距離800で一斉射。
当てることを考えない斉射。
だけど、キ87はその前にバレルロール気味から機首を下げ一気に2000メートルほど高度を下げた。方向も90度ほど右に旋回したようだ。
『この高高度での格闘戦は出来ないと判断したのよ』
「そうね」
私は機首を上げてから機体を倒して降下する。
直上でもない1000や2000の高度差では結局降るのではなく追う形になってしまう。
ただシルヴィは後ろについての戦闘機動はフェリシティとの模擬戦で得意ではないことがわかった。
『そりゃそうでしょ。だって私はほぼ対B29専用機なんだから』
(へ?B29???なに?)
◇◇◇
ミレニアのN1K3-A試製紫電改二
ルーシャンのA7M2烈風一一型
フェリシティのキ64
キ61–II三式戦飛燕部隊の操縦者は、機種も紋章もバラバラのフェリシティたち三人を眼下に収めてほくそ笑む。
「どんな高性能機でも、上から降られては何もできまい」
降下性能では800キロ超という他に追随を許さない性能を誇るキ61–IIに絶対の信頼と自信をもっていた。
三機がブレイクした。
「思うツボだな」
指でサインを出し。
ブレイクした三機の一機ずつに二機、時間差をつけてダイブを開始する。
高度差は十分、雲もなく視界良好。ここまでの好条件は中々ない。
速度が乗って来る、距離が縮まる1000、800、600ぐんぐん迫る。
射撃開始距離は400メートルから200メートル、手に乗せたマッチ箱の大きさを基準にして開始する。
トリガーに指をかける。
「落ちろ!」
カッ
「なんだ!?」
敵機が光ったかと思うと網膜に光が残る。太陽を見続けたかのような状況。
空で視界の中央が見えない。敵機が見えない。
「な、何だこれは!」
射撃も機首上げも、こんな状態では出来ない。
「副隊長!前が見えない」
「なんだ、何が起こったんだ!」
バンバンバン
バリッベキ
物凄い衝撃と破砕音が後ろからする。
「撃たれた?」
操縦が効かない、垂直尾翼を飛ばされた?
後ろがふらつくダッチロールか!
「クソー!」
正面は見えないが、スロットルを絞り速度を落とし、ロールを抑え機種を少しでも上げる。
「ままならん!」
キャノピーを開け、脱出を試みる。
◇◇◇
上空から降ってくる、キ61–IIをフェリシティは仰ぎ見る。
「まったく、落とされたら恨みますわよスフィア」
フェリシティたちは、敵機が狙いやすいようにわざと速度を維持して回避行動も押さえていた。
上空を伺い、距離を図る。
1000、800、600ぐんぐん迫ってくる。
時間差の二機攻撃だ。
一機を避けても二機目に落とされる。
距離400。
「今です!」
新たにスロットル側に設けられたトグルボタンを下げる。
背後で猛烈な閃光を発する。コックピット内まで一瞬眩く照らし出された。
キ61–IIに撃たれることもなく、二機が下に通り過ぎていったのを確認すると、自身も機体を翻してその後を追う。
なんの回避行動もしないキ61–IIに対してフェリシティは、スフィアに倣って垂直尾翼を刈り取っていく。
「これで助からなければ、私は知りませんわよ」
フェリシティはそう呟くと、キ64の二重反転プロペラをブン回して、上空に残る一機に狙いを定めた。
上空からの一撃離脱に対してスフィアが考えた対抗策は、応接間に飾られた写真。
その写真を撮るときに使用されるマグネシウム発光だった。
一撃離脱を行うときは敵機を注視して行う、しかも狙いは機体上面である。操縦席の後方が猛烈な閃光を放てばどうなるか。
光を見た部分に残像が残る。
網膜に焼き付いた光は数秒で取れるものではない。
撃つことも回避することもできなくなるとスフィアは思い、味方全機にこの装備を装着させた。
これがスフィアのお願いであった。
「生きた心地はしませんでしたわ」
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