第67話:第一種戦闘全力よ
装備の重い砲兵隊、銃士隊は撤退不可能と判断され殿をつとめることになった。
救いは将軍から各個判断での降伏を容認されていたことだった。
「そうは言ってもなぁ…」
砲兵隊、銃士隊を任された銃士隊隊長は、今は兵士に合わせた速度で走行している、大砲を積んだ鉄の塊を見ながらぼやいた。
「降伏の意志を示す前に踏みつぶされるぞこれは…」
「ですよね…いっそもう降伏しますか?」
副官の言葉にゆっくりと首を振る。
「流石にそれは出来ないな。一秒でも長くここで堪えて一人でも多く飛行場まで撤退させるのが役目だ…給料貰ってたぶんは返さんとな」
「部下には無理はするなと伝えておきました…」
「ああ…それでいい。
ここで死ぬのは無駄死にだ。
リリスラー子爵がつく相手を間違えたんだ」
隊長は副官にそう言って笑った。
「隊長進言宜しいでしょうか」
士気の下がった兵士たちの中で笑っていると、背後から声が掛かった。
「どうした?」の
砲兵の一人が敬礼していた。
「敬礼はいい。話したいことがあれば話せ」
「はい、第二砲兵部隊のニックです。あの鉄の塊に対して試したいことがあり進言します」
「ほう、いってみろ」
「戦況を変える話ではないのですが、敵の追撃を遅らせることが出来るかもしれません。
内容は…」
「自信があるなら説明はいい。時間が無いからな。必要な人数と時間をいってみろ…
いや…好きに人を使え、使っていい時間はあの鉄の塊がここに来るまでだ」
ニックの顔が隊長の言葉で紅潮する。
「はい、お任せください」
「副長!奴について行って取り計らってやれ」
「はっ」
「何を思いついたか知らんが、一矢報えれば儲けものだ」
隊長はそういって迫る鉄の塊の動きを見て、砲口の高さまで掘った穴に入れた十二サンチの青銅砲砲兵隊に準備を促した。
「これで打てる手は打った、あとは…」
「隊長!」
「何事だ?」
兵士の叫びに今度は何だと隊長は思った。
「あれを。あれを見て下さい!」
「あれ?」
隊長は兵士の指で示した先を見る。
空に、空に伸ばした手の小指の先くらいの“何か”が浮いていた。
「はあ?なんだあれは!」
太陽の光を受けて反射している。
船か…でかいな。
貿易や航海で妖精を使った船舶が飛ぶようになって10年…
だが大きい…
「か、観測兵!観測兵いないか!」
「こ、ここに」
「あれの大きさを教えろ」
「正確にはわかりません。
わかりませんが、あの物体を横切る戦闘機の大きさを考えると。
高度3000メートルなら120メートル
高度5000メートルなら200メートル
高度7000メートルなら280メートル
と推察されます」
「280メートルだと!ふ、ふ、ふざけ…ろ」
隊長の耳には、小さい重低音でゴンゴンゴンゴンという音が聞こえていた。
重巡洋艦利根の全長は約201.6メートル。高度は約5000メートルを航行。
直掩を引き連れ、時間までに作戦目的地へと向かっていた。
◇◇◇
領都を離れた私たちは、リリスラーの飛行場を目指していた。
この作戦の最大の肝であり、この成否によって全てが決まる。
失敗すれば、領都の奇襲は飛び地と化し鎮圧され。
領境の戦いも泥沼化してしまう。
それは避けたい。
『スフィア!上空!』
シルヴィの声が私を戦場に戻す。
「みんな!二時方向敵機群8!高度11000!」
「敵機?気付かれたの?早すぎますわ」
「スフィアお嬢様!先頭は黒い機体です!」
黒い機体。敵のエース。
ミレニアの通信に緊張が走る。
「高度をもっと上げておけばよかった」
『スフィア後悔は後』
「みんな計画通りに」
「わかりましたわ」
「スフィア気をつけて」
「みんなも」
『スフィア。第一種戦闘全力よ』
シルヴィの声に呼応して、スロットルレバーの最前線横にある戦闘全力と書かれたレバーを封印ワイヤーごと押し切った。
吸気圧計がレッドゾーンを越えて限界値まで跳ねあがる。
直径が3.4メートルもあるシルヴィのプロペラが音速を超えて
バガバガバガバガバガバガバガバガッ!
という聞いたこともない音を発し始める。
身体がシートに張り付けられる。顔の皮膚が引っ張られるような感覚を覚える。
シルヴィは、上昇にも関わらず加速を続けた。
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