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令嬢戦記~断罪された侯爵令嬢、妖精戦闘機で天翔けて逆転する~  作者: 奏楽雅


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第66話:戦が変わりすぎた

ビリビリビリ


一瞬浮くような落ちるような、操縦桿を持っていかれそうな感覚。

遠くの爆発が機体を震わせた。


リリスラー領都の高射砲と対空砲による攻撃が始まった。


「うちの諜報員によると…リリスラー子爵領の領都守備隊兵力は、約1300名程度と報告を受けていますわ」

フェリシティが伝えてくる。


「私もその報告書を見ました。治安維持、司令部警備を担う騎士や兵士が 約200名。

補給、整備、医療を担う後方兵站部隊が300。

前線への予備兵力や訓練兵などの居残りが 約800」

ミレニアの確認を込めた無線。


「結構な規模よね…」

子爵領の残存兵力としては少なくない。むしろ多い気がする。


「騎士以外は、殆んどが老兵、後方部隊、訓練中の新兵のはずですわ。

怖いのは、防空戦力だけ。

八八式七糎野戦高射砲六門、九八式二十粍高射機関砲十二門。

空駆ける者には脅威になりますわ」


「まあ、直ぐに沈黙するだろうけど」

とルーシャン。


「そうね」


既に第一波攻撃で半数の対空火器は潰せたはず。


同時に降下させた320名の降下兵が行動を開始している。


地上部隊がいなければ、占領が出来ない。

飛行機だけだと破壊しか出来ず戦いを終わらせられない。


だけど、地上部隊を移動させるには時間がかかるし、相手もそれに備えてしまう。


ならば、空から運んでしまうというのは合理的だった。


(先にやったのは、ソニアリシルだけど…)

ピューリッツ領で、王国が傭兵を使って行った戦法を軍事作戦として大規模に取り入れた。


暫くすると、対空砲が沈黙した。


空から見ていると、砲座陣地にウィンザーとサウザントの紋章旗が上がり始めた。


領都、領主館前の戦いは無理に進軍させず、戦闘機による威嚇行動を密にしている。


「敵の戦意を挫ければいいけれど」


「訓練中の新兵や後方支援なら可能性は高いけど、騎士と兵士はどうかなってところだね」


「あとはリリスラー子爵の人となり次第です。戦は兵士の逃亡で瓦解しますから。命を掛けられる人がどれだけいるか…」


「リリスラー子爵はあまり良い噂を聞きませんわ。

税率が高かったり、自領の娘に手を付けてるとも…」

ミレニアの呟きに似た言葉にフェリシティが続けた。


「領主代理としては耳が痛いわ」

税率や娘の話ではなく領民がどう思ってくれているかは。心配になる。


「エリオット様」


「スフィア候。わかっているよ」

名前を呼ぶと直ぐに声が返ってきた。


「ではここは宜しくお願いします」


「任せてくれ」


この地は、現状維持をお願いして、私とフェリシティ、ミレニア、ルーシャンの四人はリリスラーの飛行場方面に進路をとった。


「そろそろ領境の攻勢に対する迎撃、地上支援で、リリスラー側の戦闘機は出撃し終わった頃かしら」


「頃合い的にそんな感じかしら。

今から領都の報を聞いて引き返すには、後ろを晒すことになるから判断できないでしょうね」


(そう、最初から此方に向かう機体でなければ)

そこに気づき、それを行える権限のある人でもない限り。


◇◇◇


リリスラーから迎撃で上がった、王国軍戦闘機隊は66機。


キ43-II一式戦隼、キ44-I二式戦鍾馗、キ61–II三式戦飛燕の混成、スクランブル可能な機体全てであった。


鍾馗というティテと同じ機体名でありながら一廻りシルエットの小さな44-IIに編隊長は搭乗していた。

「膠着した前線に何を。くそっ!公爵同士で同盟が成ったからって」

そう毒づいた。


日の出前にサイレンが鳴り響いたときには、既に起床していた。

丁度、哨戒ルートのブリーフィングが始まったときだった。


ウインザー公爵とサウザント公爵の同盟が軍内で流れたときから一応覚悟はしていた。前線からの報告はそれが現実になっただけだと受け取った。

「お前ら出るぞ!」

「「「「了解!」」」」


だから不思議と驚きはなかった。


前線までの距離は飛行機からなら目と鼻の先だ。

飛び立つと、直ぐに状況がわかってきた。


朝日に照らされた輝く点と、黒い影が前線の空を埋め尽くしていた。

敵機は100機以上、いや王国軍戦闘機隊の二倍はいる。


会敵までに高度優位を取れるのは、キ44-II二式戦くらいだろう。

キ61–II三式戦は思うほど上昇力は良くない。


隊長はそう思った。とはいえ、高度をとろうとして遠回りをして向かえば地上部隊を見捨てるのと同じだ。


「隊長、一旦引いて飛行場で迎え撃ちますか?」


副官からの無線。

高度不利、機数不利を考慮した地上部隊を捨てる現実的な提案だった。


だが、こちらが目視出来る以上、相手も見えている。

既にこちらに鎌首を向けた機体も見える。

下手に背を向けられない。


「隊長。地上はリリスラー軍だけです。王軍の我ら戦闘機隊は、戦力維持が責務と考えます」


「確かにそうだが…」

空では迷いは死だ。

瞬時に決断しなければいけない。


「二式戦だけついて来い、他は副隊長とともに反転飛行場で迎撃体制を敷け」


「隊…了解!」


「俺等も一降りしたら戻るよ。空と陸だが轡を並べたんだ、義理は果たしたい」


「お待ち致します」


「おう!」


「…戦闘機隊に告げる。リリスラー領都にて敵襲有り。領都に向かわれられたし。繰り返す…」


「はあ?」


◇◇◇


同じくして領境のリリスラー地上軍にも同様の通信が届いていた。


「前線指揮官に告げる。リリスラー領都にて敵襲有り。領都に向かわれられたし。繰り返す…」


「ばかか?地上部隊に戻れと言って間に合うわけなかろう!」

それを聞いた将軍が呆れる。


「し、しかし本部命令です」

参謀長の言葉。


「どの道ここは棄てねばならんだろう…

制空権はない、敵の新兵器に抗する方法もない。

一旦、飛行場まで後退して再編成するしかない…」


「そこまで撤退できますかね」


「精鋭優先での撤退とする。遅れた部隊は各個判断で降伏するように通達しろ

戦が変わりすぎた、どうすることもできない!」


ダァアアアアン


戦況を示した地図の載った机が両手で思いっ切り叩かれた。

そこにいる全員の視線が集まる、ここにいる面々の気持ちは全て同じであった。


「直ぐに行動を起こせ!」


「はっ」


後方に待機し出撃を待っていた騎士団から撤退が始まった。


その後ろには車両を持つ部隊と兵士が続く。


撤退は迅速だが速度任せの撤退は縦に長い行列となっていく。



お読みいただき有難う御座います。

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