第61話:悲しくないのに涙が出てしまった。
子爵の計らいで邸宅の湯殿を貸して頂けることになった。
というのも、山間の寒い外で長いこと泣いてしまった私に付き合って、みんなが凍えてしまったから。
子爵に、ミランダの件でお礼を言いに行ったところで。
全員が唇を紫にして震えていたので、子爵が大慌てで用意してくれたのよ。
優しい子爵だけど、最後に…
「候は凄いんだか凄くないんだかわからない人ですね」と言われてしまったわ。
私としては凄くない方に一票よ…
「スフィアって着痩せするのね、どことは言わないけど」
フェリシティがそんなことを言う。
(どことは言わなけどで止められちゃうと、まるで私が太ってるみたいじゃない!)
「と、と、途中でその評価は止めないで!」
高級な大理石が床と壁に使われ、床に埋め込まれた浴槽は四人で入ってもまだ何人も入れそうな広さをしている。
湯煙の中、アーチ状の窓からは山々の夜景が見えている。
時折チカチカ瞬いている光は飛行場なのだろう。
みんなで湯船に入りながら外を眺める。
「私、一緒に入っていいのかしら?」
ミランダそんなことを気にする。
「それでしたら、私も同じですね…」
ミレニアまで言い出す。
「貴方たちは私にとって掛け替えない親友であり家族よ、出るなら私も出るし、怒られるなら一緒に怒られるわ」
「貴方方がスフィアの親友なら、私の親友でもあるわ。親友、戦友は地位やお金では手に入らないのよ。私も同じ気持ちだわ」
フェリシティそう言って微笑み。「それに、侯爵代理や、公爵令嬢の私たちに意見できる人は少ないわ」と続けていた。
「ミランダ様、本当にゴメ…」
ミランダに口を塞がれた…
「確かに、スフィア様を恨んでもいました」
私は口を塞がれたまま頷く。
「切っ掛けは私自身のせいですが…家まで潰され、両親とも離れ、別の貴族の下で市井のメイドと共に働くことになってしまって…」
ミランダの言葉が途切れ
お湯が湧き出るザーと言う音だけになる。
「今日、スフィア様にお会いするまで、自責とスフィア様への恨み、ソニアリシル嬢への怒りが渦巻いていたようです」
私の口を押さえていたミランダの手が離れる。
「でも、スフィア様のことは恨めません。良くわかりました」
ミランダの頬を涙が伝う。
私はそんなミランダに肩を寄せる。
「必ず、ミランダの名誉は回復させます。私は、誓います」
「スフィア様は、強いんだか弱いんだか相変わらずわからない人ですね」
「スフィアは、今や悪魔とか悪魔とか女神とか悪魔とか悪魔とか戦場で呼ばれていますわ」
(悪魔が多くないですか?)
「フェリシティ様そうなのですか?」
「ウィンザー公爵、サウザント…父上も、たぶんノーザン公爵も一目置いていますわ」
「まあ、一年も経たないうちにそのようなご評価を?」
「あ、あ、不本意なのですが…」
「スフィア様は、その能力が相応に評価されただけです」
ミレニアが何故か胸を張る。
「ミランダ嬢のことは私も働きかけてみるようにいたしますわ」
「ありがとうございます。フェリシティ様。
ですが、今の状況少し良い所がありまして…」
「なんですの?」
「勝手にどこかの貴族と婚約させられる責務から解放されました」
「「あ」」
私とフェリシティは同時に唸った。
婚約で人生を狂わされた私たちにはなんとも魅力的な話しだった。
顔が知らずと下へとさがっていく。
「あ、あの、どうされました?
ああ、フェリシティ様まで」
「ミランダ様、その話はお二方にたいしてはとても神経を使う内容になっています…」
「え、え、え。そうなの?ごめんなさい!」
その夜は、女の子四人同じ寝室で色んな事を話した。
楽しかった頃を思い出せる夜だった。
***
翌朝
楽しかった一夜を過ごした私たちは、戦場に戻ることになる。
「ほんとうに宜しいのですか?」
リッツ子爵は、ミランダの処遇を私に委ねる提案をしてくれた。
ミランダはリッツ子爵への多年奉公という契約がなされていた。
「ミランダ様と一緒にいたいのは山々ですが…」
「私はここで学び、いつか自分で歩みたいと思っています」
ミランダは力強く、子爵にそう言った。
「そうなのですか?」
子爵はそういいつつ私に視線を移す。
「ですが一応こうしておきますね」
リッツ子爵は笑いながら、一枚の紙を取り出すと破り捨てた。
「そちらは?」
私はなんだろうと質問する。
「彼女の契約書です」
「え」
「好きな時に出て行ってくださっても、ずっといて下さっても構いません。どうぞ自由にしてください」
「子爵…」
私とミランダは同時に…
「「ありがとうございます」」
お礼を告げた。
フェリシティもミランダも一緒に喜んでくれている。
「私と、スフィア、ミランダの共通の敵はソニアリシルですわね、ギャフンと言わせてやりますわ」
フェリシティが私とミランダの手を取ってそういう。
「フェリシティ様。スフィア様を泣かせる人は私にとっても敵ですよ」
ミレニアもそういって、みんなの手に合わせた。
なんだろう、悲しくないのに涙が出てしまった。
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