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令嬢戦記~断罪された侯爵令嬢、妖精戦闘機で天翔けて逆転する~  作者: 奏楽雅


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第52話:20メートルは逸れる

私とシルヴィが、急激に真っ直ぐ突っ込んで来たせいで、キ61は降ることも出来ずに迷ったようだった。

あたふたと散開して上昇を開始する。


さすがのシルヴィも、ここまで昇ると息継ぎ。

水平に戻しても加速が追いつかない。

上昇を開始したキ61は、太陽に向かって空に軌跡をのこして姿を消そうとしていた。


「良かった、逃げてくれた…」


『スフィア!』

私が安堵すると、シルヴィに呼ばれる。

「な、なに、どうしたの?」


『最後に一回撃ちなさい!』

シルヴィは真剣で少し冷たいようにそう言った。


「なんで?逃げてるのよ!」

(意味が解らない)


『今後貴方のいる戦場で、少しでも貴方の仲間を死なせないためよ』

シルヴィは口調を崩さない。


「ど、どういうこと?それにもう随分離れてしまったわ」


『集中して!スフィアならできるから』


「で………わかったわ…シルヴィを信じるわ」


私は、一つ頷くと、涙を拭った。


(距離は1000メートルは離れていそう…)


『周囲の警戒は私がするわ。スフィアはガンサイトに集中して』


「うん、がんばるね」


照準器を望みこむ、敵機はもう殆ど見えていなかった。

私は、目を凝らし遠くの敵に意識を飛ばす…


まただ、青い空が後方から白に染まる。

照準器にはもう、キ61は針の穴のように小さくなっていた。

だけど――

  だけど――

    だけど――

わかる。

照準器の中に光が灯って私に教えてくれる…


ああ、これは――


これは、閉じ込められた妖精の光なのね…


泣いてるの?


  帰りたいの?


    戻りたいのね!


ドシュ!!


一瞬、身体が前に投げ出され、キャノピーが淡い煙に包まれる。


前は見えないのに…


光点が瞬きつつ地へと吸い込まれていくのが見えた。


私はそれを追いかける。


垂直尾翼が無くなり、尾部を振りながら降下するキ61に追いつく。


私を見て驚いている操縦者の姿が見える。


暫く並走すると、操縦者はキャノピーを開けて脱出してくれた。


既にスロットルは絞られていたのか、キ61はそのまま暫く飛んでいたが、機体が暴れ出し分解していった。まるで殻を脱ぎ捨てるように…


『スフィア…角度が1度ズレれば、弾は20メートルは逸れる。そういう射撃だったわ…

この射撃は伝説になるの。貴方を見れば逃げる人も出てくれるかもしれない』


「それが、仲間を死なせないため?」


シルヴィは答えてくれなかったが、その通りよという気持ちは伝わって来た。


「…ありがとう」


『…どういたしまして』


***


深い緑の絨毯を眼下に、飛んでいると行き成り森が開けた。


森を切り開いて造られた、野戦飛行場だ。


今回、シルヴィーで飛べたのは、ここに着陸する予定になっていたから。


置いていくことにティテは怒ったが、シルヴィが可哀想だからというと直ぐに譲ってくれた。


『ティテは良い子よ』

(…どちらが年上なのかしら?)


順次、A6M5が着陸していく。


今回、私の浅はかな指示のせいで皆を危険に晒してしまった。

でも、一人も失うことなく、目的地に着くことが出来た。


「シルヴィ。今日は本当にありがとう」


『既に感謝は受けたわよ?貴方は私のバディなんだから。私は当然のことをしただけ』

(あれ、顔が赤面してそうなシルヴィが見えた気がする)


「ありがとう」


『もう!』


飛行場に着くと、先ずは挨拶だ。ミレニアを伴って管制棟に向かう。


「スフィア様、何度も言いますが…心臓に悪いので。無茶は辞めて下さい」


「ミレニアごめんなさい」

(でも、これからも心配させちゃうと思う)


「スフィア様。反省してませんね」

睨まれた。


***


「失礼します」


当直士官に扉を開けて貰い、指令室の中に通された。


「よく来てくれました、アルマリンの悪魔様」

(あぁ、ここでもその呼び名?)

私は肩を落した。


「冗談ですよ、本当によ来てくれたよ。

私はここの領主、リッツ・ブランシェだ、子爵位を頂いています。

侯爵殿」


「スフィアルィーゼ・アルマリンです。

スフィアとお呼びください」

今日はドレスを着ていないが、カーテシーで挨拶する。


「どうぞ、お座りください」


「早速で悪いのですが、現状を聞かせて頂けますか?」


お読みいただき有難う御座います。

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