第53話:ほんとだってば!
私は促されるまま席に着いた。
ミレニアは私の後ろに直立している。
(ミレニアも隊長格なんだから座ればいいのにと思うんだけど…)
テーブルに地図を広げられると。
副官?の手により家門の駒が置かれていく。
川がYのように描かれ、それが領境になっているみたい…上が王国、左下が子爵領、右下がサウザント公爵。
地上戦力は、領境全てに配置されている。
「現状では、どこも敵として備えるしかないのですね…」
「残念なことに…」
私のつぶやきに、子爵は応える。
「王国はアルマリンから撤退させた航空戦力をここに振って来たみたいです」
「ここに向かう途中で、王国の新型機と遭遇してしまい。交戦になりました」
「三式戦飛燕でしょうか?良くご無事で」
子爵は驚きを隠せない、それほどの相手だったのね。
「高高度性に優れた機体のようでした」
「高高度からの攻撃、格闘戦までこなしてきます。
ここに配備のA6M2やA6M5では歯が立ちませんでした」
(あの高さではどうしようもないわ)
「サウザント公爵の、戦力はどんな感じですか?」
「サウザントも基本的に一式戦を主軸とする戦力です、こちらと似たようなものかと…」
「陸上はどのように?」
「浅瀬の川を挟んで睨み合いです。制空権の確保がないと攻められませんし、微妙な三竦みも影響しています」
「サウザント公爵との同盟を成すことが重要ですね」
ため息交じりに、思ったことが言葉になってしまった。
「そうなってくれれば、一気に勢力図が変わると思っています」
私は笑顔で頷く。
ここではサウザント公爵との同盟が成すまでの防衛戦が主体となることが理解できた。
(そうなって、降伏か撤退してくれれば嬉しいわ)
「明日から、哨戒迎撃任務に就きます。
後詰でアルマリンの局地戦闘機も来る予定になっています」
「ありがとうございます。宜しく頼みます」
私は子爵と握手を交わし部屋を後にした。
空はすっかり闇に包まれ、満天の星が瞬いていた。
「スフィア様、サウザント公爵に勝手に会いに行かないでくださいね」
「え?」
「……」
「そ、そんなことしないわ。ほんとよ。考えてもいなかったわ」
「……」
「ほんとだってば!」
(なんで信じてくれないのよー)
***
翌朝
ウウウウウゥウゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
ウウウゥウゥウゥウゥゥゥゥゥゥゥゥ
静まり返っていた、野戦飛行場にサイレンが鳴り響いた。
アルマリンの操縦者たちは軽い朝食の後、自分の機体のチェックを行っているところだった。
整備は子爵の整備員が見てくれているが、命を預ける機体なので満足するまで自分でも確認する。
私もシルヴィの脚から各部をチェックしているときだった。
「な、何?」
整備員が慌ただしく駆け回り始める。森に機体を運ぼうとする者、対空砲座に向かう者、塹壕に逃げるもの。
「ごめんなさい、何事なの?」
私は、近くを通る整備員を捕まえる。
「極低空で戦闘機が接近中、離陸できない場合はバンカーか塹壕に隠れて下さい」
「ありがとう」
私は整備員を放すと周りを見る。
(ミレニアは…)
「スフィア様。こっちです」
ミレニアと、ジュリアンが駆けて来てくれた。
「で、でもシルヴィを置きっぱなしには出来ない!」
『私はいいから逃げて』
「でも!」
「何している、早く退避を!」
エリオット様も来られてしまった。
「ごめんなさい、上がります!」
私はシルヴィを見上げる。
「スフィア様!」
「こういうときは、決断しない時間の方が惜しいわ!上がると決めました」
「…っ」
私はタラップを駆け登る。
ミレニアが私を追いかけてタラップを登ろうとするが、エリオット様が制する。
「この機体なら間に合う可能性がある、スフィア候に任せよう」
「みんな離れて」
シルヴィのプロペラは巨大だ、下手な距離だと巻き込んでしまう。
「だけど一機だけ出ても…」
ミレニアのその呟きと共に…
ウゥ…
サイレンが途切れた。
「何?」
「――迎撃禁止、迎撃禁止!」
拡声器より、迎撃禁止が発報される。
飛行場の全員が戸惑っている。
私も、操縦席で立ち上がる。
『ビックリ!キ64だわ』
シルヴィが驚いたような声を出した。
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