第45話:すまない
「九七式四輪正式貨車ですか?」
「馬の要らない馬車だ」
(それは馬車じゃないですよね)
ブランリッツ飛行場から、馬の要らない馬車、妖精車(妖精の力で動くので)の三台に私と指揮官、それに五十名の兵士さんが分乗して、領都に向かう。
ミレニアには、翔鶴に報告及び連携をお願いするために戻って貰っている。
勿論、私を残して戻れないと喧嘩のような言い合いになったので、翔鶴に帰ってからが怖い。
(ううう)
「どうした?」
妖精車に乗り込むと、指揮官が声を掛けてくる。
「なんでもないです」
私は勢いよく首を振ろうとして、痛みを思い出し思い留まった。
「し、指揮官さん、先ずは司令部にウソを言ってもらいます」
「指揮官でなく、エリオットと呼んでくれ」
「では、エリオット様。
私の身柄を拘束したら、バカな小娘のスフィアが、身柄の安全と交換に翔鶴を差し出したと言って下さい」
「自分でバカとかいうのか君は?」
「そこは、まあ、この際どうでも良いので…
そして、話を翔鶴を領都に向かわせたので受け取りを頼むと言ってくれれば良いです」
「そんな手に引っかかるのか?」
「エリオット様の演技次第ですし…
引っかからなくても、敵の行動に混乱や隙は出来ます。あんな大きなものが来たら…」
「ふむ、解った」
「ああ、そうですね。私は今も飛行場に拘束中で、泣いているとでも言っておいて下さい」
「まあ、良いけど」
私は走り出した妖精車の中から、ピューリッツの風景を眺める。
陽は既に傾き、空が茜に染まろうとしていた。
ガタガタ
「イタッ!この乗り物、お尻痛いです…」
◇◇◇
「この報告は本当だと思うか?」
ブランリッツ飛行場から、送られてきた報告のメモを見て。黒ずくめの男が他の黒ずくめに聞く。
「本当なら、特進ものの話ですが、まず罠でしょうね」
「お前もそう思うか」
ピューリッツ子爵領主館に不釣り合いな、武装をした黒ずくめたちが幅を利かせていた。
「侯爵令嬢という超お嬢様だ、泣いてるは本当でしょうね。真実を混ぜると本物っぽくなりますから」
「フッ」
黒ずくめは、領主館、司令部になっている飛行場を占拠し、導線も確保していた。
領主と一家を捕囚した黒ずくめは、領主館の食堂に陣取り、角に領主の家族、正妻、子息、令嬢の五人が縛られ。血だらけの子爵がその前に転がされていた。
ときたま家族の嗚咽が聞こえてくる。
「この、ままで、こ…のままで済むと思うなよ。お前たちは、こんな、領地の真ん中で逃げられるわけがない…」
血だらけの子爵は、まるで地獄から聞こえてくるような怨嗟の声でそう言った。
息はあるが、絶え絶えだ。
「王国・ノース連合軍が領境に入った瞬間に、ピューリッツ軍に対して降伏命令を出せば、逃げる必要もない」
「な…んだと。だが、アルマリンがスフィア嬢が…」
「制空権をとられようと、地上軍が降伏しては何もできまい?」
ピューリッツ子爵は血でわからないが顔を青ざめさせているのは間違いなかった。
スフィアの推察は不幸なことに的中していた。
領境の防衛のため兵員を移動したことで手薄になったピューリッツ領主館は奇襲を受けた。
しかも、領主館に直接だった。
領都まで30キロ、キ49-II(一〇〇式重爆撃機)に牽引された二機のク7(まなづる)は高度3000メートルで切り離され、グライダーのように滑空して、深夜に音もなく巨大な怪鳥を思わせる影で忍び寄った。
高度150メートルで領都上空に差し掛かったク7のカーゴから、総勢140名の降下部隊が種籾を撒くかのように降下した。
「しかし、生きた気がしませんでしたね」
「落下傘が絡まり、減速できなかった者。降下中に建物の壁などに衝突してしまった者。着地が上手くいかなかった者…何人も怪我や命を失ったからな…傭兵を使い潰す気満々の無謀な作戦だよ」
予想もしない時間、予想もしない場所、予想もしない人数が突如領主館に雪崩れ込み、一瞬のうちにピューリッツ子爵は拘束されてしまった。
「この作戦、新王の作戦ですよね。流石ですよね」
「…いや、この作戦はたぶん王妃ソニアリシルの作戦だろう」
「え?王妃ですよね」
「そうだ」
「こんな作戦、思いつくものですか?」
「…そんなことより、アルマリンの空母が来るかもしれない。
要注意だ。今一対応方法が思いつかない」
「来るのは明け方ですかね」
「もう日が沈んだ。そうなるだろうが警戒は必要だ」
「スフィアルィーゼ侯爵…すまない」
ピューリッツ子爵は涙を流した。
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