第40話:なんのことでしょう?
「勝手に決めてしまってごめんなさい…」
私は、ビンセントとミレニアに謝った。
先程までは、ウィンザー公とヴァディス伯にも「何故勝手に」と怒られ何度も頭を下げて、許して貰ったところで、「貴族がそんなに頭を下げてはいかん」と怒られてきたばかり。
(最初の段階で言ってくれれば、一回の怒られで済んだのかしら…?)
「私共は、お嬢様のお考えに賛同し、ついて行くだけですよ」
そう言って、ビンセントとミレニアは頷いてくれた。
(優しい…)
「ありがとう」
ここからは、時間の勝負。
G4M2でアルマリンまで戻らないことにして、B6Nを待って、演習中だった翔鶴と瑞鶴に直接合流することになった。
「スフィア様」
今はまだかと蒼い空に目を凝らしていると、ミレニアの呼ぶ声に振り返る。
「アルマリン候スフィアルィーゼ殿」
(アルマリン候?)
私を呼んだのは、ブロンズの髪を横に流した長身の男性だった。年齢的には同年代に見える。
「はい」
「失礼、ウィンザー公が次男、ルーシャンと申します。今回は父より、アルマリン候のお手伝いをするように申しつかりました」
そう言うとルーシャンは私の手の甲に口をつけた。
(え?聞いてないけど)
「何かのお間違いでは?」
「こちらが父からの書状になります。
お美しい方の下で働けること嬉しく思います」
朗らかにそう言うルーシャンに微笑み返すと、書状に目を落とす。
確かにその様に書かれていた。
なんか、息子自慢と、お買い得みたいな書かれ方をしていたのが気になるが…
(…はて?)
「わかりました、ですが、私はこれから直接翔鶴に乗艦し現地に向かうつもりですが…」
「わかっております、私も自分の機体で随伴させていただきます」
彼の背後、格納庫の鈍い照明の下に、一機の巨大な影が横たわっていた。
それは見慣れたA6M5の流麗なラインを持ちながら、そのサイズは艦上攻撃機のB6Nを思わせるほどに分厚く、力強い。
まるで、A6M5とB6Nを足して二で割ったような……そんな、初めて見る機体だった。
「……あれは、何という名前なの?」
「A7M2です、アルマリン候」
「強そうですね。あ、ルーシャン様。私のことはスフィアとお呼び下さい」
ルーシャンは頷いて私の名を呼んだ。
「では、スフィア殿。幾久しく宜しくお願いいたします」
「え、あ、はあ、宜しくお願いします」
(ん?なんかミレニアが複雑な顔をしているような…なんで?)
背筋に冷たいものが走り、また怒られる予感がした。
***
「お帰り、スフィア。行き成り出撃になるとは驚いたよ」
「ただいま、ジュリアンごめんなさい」
翔鶴に着艦すると、ジュリアンが出迎えてくれた。
私は足早に、ビンセントとミレニアを連れだってアイランドに入る。
「何か情報は入ってる?」
「ノース公爵が王と組んだという事と、北から軍勢が迫ってるということだけだ……それよりスフィア。彼は誰だい?」
ルーシャンが、バッグを片手に背負いながら後ろからついてきていた。私が見ると片手を上げた。
「ジュリアン様のライバルです」
ミレニアがぼそりとジュリアンになにか耳打ちをしている?
「あの方はウィンザー公の次男、ルーシャン様です。お手伝いに来られました」
「そ、そうなのか…へー」
ジュリアンは、ルーシャンに向き直ると。
「初めまして、ルーシャン・ウィンザー殿、私はスフィアと“幼馴染”の、ジュリアン・ヴァディスと申します。ジュリアンとお呼びください」
(なんで幼馴染を強調?)
「こちらこそ、宜しくルーシャンと呼んでくれていい」
(なんか、二人とも顔が引きつってない?なんで)
「ジュリアン、瑞鶴の方はどう?」
「翔鶴のスタッフの半分が向こうに行ったからね、翔鶴も瑞鶴も半分が新兵になるから、多少ぎごちないけど何度か演習を行えたんで良い感じだと思うよ」
「司令官、艦長入ります」
艦橋への当直士官が扉を開けてくれる。
ビンセントは艦長席に、私は司令官席に身を埋める。
私の周りにはミレニア、ジュリアン、ルーシャンが並んで立つ。
「凄いねここは…」
ルーシャンが声に出す。
「飛鷹も変わらないと思いますけど…」
「僕はまだ乗ってないんだ」
「そうなんですか…」
「見た目もこっちの方が私は好きだな、飛鷹は遠目に見たけど艦橋と煙突が一体だし、なんか無骨な感じがするよ。此方の方が君に似てエレガントだ」
「あ、ありがとうございます」
(なんかジュリアンが憮然として、ミレニアが笑いを堪えている気がするんだけど…)
そんなことを思いながら私はマイクを取る。
通信士が目で私を確認する。
「スフィアルィーゼです。翔鶴、瑞鶴の乗組員の皆さん、日々の訓練お疲れ様です」
艦内に私の声が木霊する。
「私たちアルマリンは。領地を取り戻して頂いた御恩を返す時が来ました」
作業している者たちが手を止めて聞き入ってくれる。
「目的地は、クルルシェル平原を南下する、ノース公の軍勢です。
現在、陸上戦力だけが確認されています」
この声は僚艦の瑞鶴内にも流れている。
「私たちは、ウィンザー公の反体制連合の同志、ピューリッツ子爵領を支援し、ウィンザー公の支援部隊が到着するまで戦線を維持することを旨と致します」
私は、一回息をつく。
「皆さん、アルマリンは受けた恩は忘れない民だと知ってもらいましょう!」
静かになっていた艦内が、私のこの言葉がみんなに届くと、一斉に動き出した。
「みんな行くぞー」
「アルマリンの心意気見せてやれ!」
「受けた恩は、三倍返しだ!」
私はマイクを置くと席に沈み込んだ。
「なるほど…」
「ルーシャン様?どうしました?」
「君が戦姫であること、父の君を見る目。納得したよ」
(なんのことでしょう?)
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