第41話:ご挨拶
「ティテー疲れましたー」
慌ただしかった一日が、夜の帷とともに終わりを迎えるとき、私はティテの下を訪れた。
はしたなくも操縦席に座ると大きく伸びをする。
『お疲れ様。首はどうなの?』
「気にしなければ痛くない、気にすると痛い感じ…」
『何それ…早く治ってくれないと、いつまでも翔べないよ…』
「ゴメンなさい」
『あっちの娘も、嘆いて煩いんだからね』
あっちといわれたティテの隣には、J7W1、シルヴィが格納庫内で異彩を放ちまくっていた。
なんというか、ドレスを来て農場で鍬を持っているような…
『なんか…彼女目線が高いよね…』
シルヴィは足がとても長く、操縦席が格納庫の天井ギリギリだ…
整備員さんには「なんてもん連れてくるんですか…」と握る手の力が抜けてスパナを落としていた。
流石に、空母での運用は不可能と匙を投げられて。
発艦は良いけど、陸上施設に降りて、クレーンで引き上げをするという変速運用になるらしい。
シルヴィは今、眠ってるみたいで静かだが、起きるとぶちぶちそのことについて言ってくる。
黒い戦闘機と本気でやり合うなら彼女の力が必要かもしれない。
「ティテ、また悲しい空になると思う…助けてね、お願い」
『…もちろん。一緒に翔けましょう…』
***
翔鶴は瑞鶴と共にピューリッツ子爵領南端に到達。第3種配備(巡航態勢)から第2種配備(準戦闘態勢)に入る。
「偵察機からの連絡によると、ノース公爵連合軍は領境から約30キロ迄迫っている模様です」
「約一日の距離ですね」
ビンセントの報告にルーシャンがわかりやすく教えてくれる。
「翔鶴、瑞鶴でA6M5を20機、B6N天山を10機爆装で出そうと思いますが、如何ですか?」
ビンセントが提案してくる。
「交代を密に、できるだけ現場で威嚇行動を継続する感じでお願いします。領境を越えないうちは攻撃しないことを厳命してください」
私がそう言うと、ビンセントを始めみんなが頷いてくれた。
ミスティは現在、瑞鶴の艦長に就いて貰ったためここにはいない。
「第一陣の指揮は私が執ろう」
ジュリアンが手を上げた。
「お願いします、本当は私が行くべきなのですが…
ピューリッツ子爵にご挨拶に行って来ます」
(気は進まないけど…)
「みなさん、ご武運を」
***
「ピューリッツ管制、こちらスフィアルイーゼ・アルマリン。着陸許可を願います」
「こちらピューリッツ管制。着陸を……あ、いえ……え?」
(管制官が誰かと話しているのか通信が一時途切れた……はて?)
「失礼、当所ではなく北西のブランリッツ飛行場へ進路変更をお願いします」
(ええ? 地図を広げると結構な距離だ……何故?)
「ピューリッツ子爵にご挨拶できれば良いだけなのですが?」
「申し訳ありません、閣下はそちらにいらっしゃるそうです」
「スフィア様、何かが妙です」
随伴してくれているミレニアから通信が入る。
「でも、勝手に軍事行動するわけにもいかないし……」
「アルマリン候。どうされましたか?」
「ピューリッツ管制、了解。指定ポイントへ向かいます」
「感謝します。ブランリッツへは申し送りしておきます」
そこで通信を切った。
今はティテに乗った私と、N1K3-Aのミレニアとのロッテで子爵領の空を飛んでいる。
「時間ないのに、なんで……」
「仕方ありませんね。私が先導します、ついてきてください」
ミレニアはそう言うと、バンクさせて旋回に入った。
ピューリッツ子爵領は、北東に広大な平野と森林、湿地をと大きな湖を抱く地形だ、領都であるピューリッツを離れ、指定された北西のブランリッツ飛行場へ向かうと結構かかりそう。
「翔鶴の方には、報告しておきました」
ミレニアが必要なことをそつなく済ませてくれるので助かる。
「スフィア様、この予定外の移動…単なる手違いではなく、何かの罠かもしれません」
「そんな、まさか…ピューリッツ子爵領は一部ウィンザー公の所領とも接しているのよ」
「…すみません、差し出がましいことを言いました」
「ううん、ミレニアは心配してくれているだけだもの」
(私だって、不安がないわけではない…)
『スフィア。私もミレニアもついてるわ、そんなに不安がらないで』
「二人ともありがとう」
***
「アルマリン機へ、着陸を許可します。南よりアプローチ下さい」
「管制官。了解。南よりアプローチに入ります」
「現在上空クリアです」
「了解。ありがとう」
私とミレニアは一旦、上空を旋回し滑走路を確認すると、南よりランディングアプローチに入った。
普通の滑走路に降りる分には、大分上手くなったのではと思う。
『イレギュラーな降り方ばかりして、経験積んだものね』
ティテが人の心を読んだかのように言ってくる。
「そうね」
『毎回のように入院か、スカート無いかだけどね』
(ム、スカートは誰のせい?)
ドッ…
バルンバルン…
『うん、綺麗な着陸だったわよ』
「ありがとう」
ティテに褒められ気分を良くした私は、誘導員に従って機体を駐機場に止めた。
エンジンをカットしたところでミレニアが横に入って来た。
だけど…
『スフィア!』
ティテの叫びに驚く。
(な、何?)
あっという間だった。
私たちは、格納庫や他の機体に隠れていた兵士に周りを囲まれ、銃口を向けられてしまった。
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