第38話:ウィンザー反体制連合
首がやっと回るようになった頃。
ウィンザー反体制連合で、各領主を集めて会議が開かれることになった。
私の首が治るのを待ってくれていたのではないかというタイミングだった。
「今後、王都へ進軍するのか、前線を維持するのか、各貴族の布陣をどうするのかが決められる予定です」
ビンセントの話を聞きながら、G4M2の機窓からウィンザーの景色を眺めていた。
ウィンザー公領は、アルマリン領の北方に位置している。
肥沃な土地を有し、農耕、畜産はおろか、工業も発展している。
王国内でもとりわけ裕福な領として知られていた。
それに比べ、アルマリンは港を中心とした領だが、山河もあり、領地的には広いが東西に長く起伏のある土地なので、見渡すような農耕地は羨ましかった。
***
「こちらで、お待ち下さい」
侯爵の居館に着き、案内された部屋も豪華であった。
「スフィア様、今のうちにお召し替えなさいますか」
ミレニアが、尋ねてきた。
「そうね…」
戦闘機も爆撃機も、クリノリンを装着したドレスで乗ることは出来なかった。
ドレッシング・ルームを借りなければならない。
「ですが、本当にこのドレスで出席なさるのですか?」
ミレニアは不安そうにそういった。
***
「スフィアルィーゼ嬢、もう首の方は良いのかな」
「公爵閣下」
私はカーテシーで優雅に微笑む。
「はい、先日は不調法をいたしましたこと、お許しくださいませ」
「それは良かった」
朗らかに笑われた。
既に貴族当主たちは会議室内。
ウィンザー公と旗振りの私は最後の入場となっている、今はその扉の前でウィンザー公に声を掛けられた。
「……さて、私個人としても、そしてこの連合の長としても、改めて礼を言わせてほしい。アルマリンより融通された『飛鷹』……あれは実に素晴らしい『贈り物』だった」
ウィンザー公は窓の外、遠くの空に浮かぶ巨躯を想起するように目を細めた。
「今後、攻勢に出るにあたり中核となる存在が必要だった。祥鳳だけでなく、飛鷹の甲板があることでそれが叶う。貴家の英断が、連合の命数を決めたのだ」
私の肩に手を置いてそう言ってくれた。
(重畳だ。空母一隻の価値を理解してくれたようだ)
私は胸を撫で下ろす。
「過分なお言葉、光栄に存じます。飛鷹は、皆の笑顔のため、王国が間違った道に進まないようにどうかお役立て下さい。」
家令が会議室の巨大な両開き扉に手をかけた。
中には、疑念や期待を抱いた諸侯が待ち構えている。
「準備はいいか?
戦姫よ。味方とは言えここも戦場だ」
「はい、覚悟しております」
「その覚悟が、そのドレスなのかな?」
ウィンザー公が差し出した腕に、私はそっと指先を添える。
重厚な扉が開くと
ザザザッと室内から参加者の起立する音が響き渡った。
数百の視線が、並び立つ「権威」と「象徴」へ注がれる。
「なんだ、あのドレスの色は漆黒だと、喪服のつもりか!」
そう、私のドレスは私に相対するものを拒絶する、敵対する者への死神の黒…
「死神にでもなったつもりか!」
「あれが、戦姫か小娘だな」
「この戦いの火種の元か…」
「貴族令嬢ならどうとでも取り込めよう」
不躾な視線と、言葉が降り注ぐ中、私は長い長いテーブルの脇を、ウィンザー公と並び、上座へと進む。
「…!」
「…なんだ、あのドレスは背中側、後ろから見ると純白だと…」
そして、穢れを知らぬ天使をイメージするような輝く純白。後に続く味方を導く希望の光。
前面と背面の場違いなコントラスト。私の背にいる味方を、民を守る決意。それを私の意思として今日はこのドレスを着用することにした…
ウィンザー公の右隣に立って胸を張る。
(ささやかとか言わないでね)
あくまでも優雅に振る舞う。絶対に気後れしてはいけない。
少しでも気を許せば、つけ込まれるそういう場だ。
「同志よ座ってくれ」
ウィンザー公は参加者の顔を確かめるとそう言った。
三十人ほどの貴族が集まっていた。
中にはヴァディス伯の姿も見える、目が合ったので視線でご挨拶をした。
「さて、西部の各領地から王国軍を排除すことが出来た。先ずはそれを喜びたいと思う」
頷くもの、隣の者と話すもの。張りつめていた場が一瞬緩む。
「だが、ここで終われないこと、皆もわかっていると思う」
同調する顔のものと、渋い顔するもの半々だ。
「侯爵閣下」手をあげたものがいる。
まだ、二十台と思える長髪の若い貴族。私を睨んでいる気がする…
「何か?」
「お話し中失礼いたします、何故助けられた者が閣下の横に座っておられるのですか?
我らは血を流して救った身。座る位置が違いませんか?」
覚悟していたけれど、開始そうそう言い出されるとは思わなかった。
「子爵風情が、言葉が過ぎるぞ。
アルマリンは心同じくする同胞であり、公爵家であるぞ!」
横合いから援護してくれる貴族の方がいらした。
「子爵とは言え、私は頭首だ。侯爵家とは言え令嬢とは身分が格が違おう」
「私が暫定で、スフィア嬢を頭首代理と認めるとしたらどうだ?」
ウィンザー公が組んだ手の上に顎を乗せて突然言い出した…
私は、驚いてウィンザー公の顔を見る。
「な、な、な…何故!公爵閣下…」
子爵だけではない、会場にどよめきが起こった。
「何を不思議がる?アルマリンは現在頭首が不在だ、嫡女であるスフィアルイーゼ嬢が代理になるのは筋であろう?ましてやこの連合の象徴となってもらうのだ何か問題でもあるのか?」
「ぐ、しかし、我が領民も戦いで血を流しております…」
「それは、これからの働きで恩を返させてください」
私は凛とそう言い放つ。
「アルマリンの領民も同じ気持ちです。助けて頂いたことは感謝に堪えません。
ですが、これから私たちはそれを、ここに列席されている方々にも、ここにいない虐げられている方々にもお返しさせていただきます」
「そういう問題ではない…」
と呟くも、子爵は押し黙った。
不満は残るだろう、得られるものは得たいだろう。それが人の上に立つものだろうから。でも私も同じだ唯々諾々と毟り取られるわけにいかない。
「閣下!会議中失礼いたします」
「何事だ?」
その時、家令がウィンザー公に近づき耳打ちした。
「みんな…聞いてくれ」
ウィンザー公のお顔の色がすぐれない?
「北方のノース公爵家、それに連なる貴族連合が、王家側についたとの報告だ…」
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