第37話:姉妹艦
「誤算だが、私の目に狂いは無かったようだ」
ウィンザー公は車椅子に座った私を見下ろしながらそういった。
「何、がでしょう…か…」
首が痛くて声を出すのも辛い…
「アルマリン領より君が味方であったことが、価値が高いということさ」
「あり、がとうございま…す、お役に立って…みせます」
「ハハハ、先ずは首を早く直しなさい」
「恐縮です…」
「どうだ、私の娘にならないか?養女でも、息子の嫁でも良い」
「あ、りがたいお申し出ですが…婚約、結婚は、しば、らくはコリゴリです」
「ハハハハ、なるほど納得できる理由だ、じゃあまたにするよ」
そう言って、ウィンザー公はアルマリン内の前線に戻って行った。
***
街は、赤い夕日に照らされ、石造りの家々を赤く染める頃。
昼間の戦勝、解放の演説の熱気冷めやらぬまま、王国の駐留していた施設の物資を供出し、戦勝の宴が催されていた。
捕虜になっていた騎士団も解放され、街の広場を中心に大いに賑わっているようだ。
喜びの声が僅かに聞こえてくる。
私は、奇跡的に半壊から免れた。城の自室に寝かされていた。
緊張も解けると同時に、痛みが駆け抜け、起き上がることも動くことも一切できなくなってしまった。
「自業自得です!」
ミレニアは怒ったままだし…
「ウーウー」
喋ることも侭ならない。
(これ治るのかしら…)
痛すぎてどんどん不安になってくる。
「まったく」
ミレニアはそう言いつつも、冷ましたスープをスプーンで掬っては口に運んでくれている。
「何ニコニコしてるんですか」
私もミレニアも笑みを浮かべていた。
***
そんな状態が一週間も続き、やっと車椅子でなら動けるようになった。
アルマリン内の戦況はほぼ収束し、王国軍の陸上部隊は投降し、航空戦力は王都に向けて撤退していった。
「陸上部隊はアルマリンが飛び石状態の占領地だったため、撤退もままならなかったようです」
ミスティの報告を聞きながら私は、ビンセントとミスティに案内され山間の湖に連れてこられた。
澄んだ湖で、殆ど波もなく穏やかな湖面は景色を鏡のように上下に反転させ映し出していた。
「綺麗な場所ね。ここに何が?」
「アルマリンの戦力です」
車椅子を押してくれているのは、もちろんミレニアだ。
「この湖は氷河湖で、東岸が山間に隠れている形状になっています」
ビンセントが、説明してくれる。
「こちらのボートに乗って下さい」
翔鶴の積載艇?ミレニアに車椅子ごとボートに乗せられる。
ミレニアはエンジンを掛けると、澄んだ湖面に波紋を残し緩やかな速度で走らせた。
「翔鶴はこの先で発見されました」
「翔鶴が?」
山を回り込むように進むと、天蓋のように山の抉れた場所が現れた。黒い影しかまだ見えない。
近づくにつれ、中の様子も伺えるようになった。中は更に巨大な空間になっていた。
「なにこれ…痛った!」
天蓋を仰ぎ見ようとして、首を動かしてしまった。
ドッドッドッドッ………(ド…ド…ド…ド…)
ボートのエンジン音の反響音が遥か遠くで聞こえる、どれだけ広いのだろうか…
中を進むと…
「な、なんですかこれ…」
「ここに眠っていた船たちです、この中に翔鶴が居ました」
「アルマリンの地にこんな、こんな物が…」
(確かに飛行機もこういう形で発見されるらしいとは聞いたけど…)
巨大な船が連なるように数多く漂っていた。
「こんなに沢山…でも」
だけど翔鶴と違い、死んだように閑散といていて…まるで幽霊船のように見える。
「妖精のいる船は少ないようです…」
ボートは船と船の間を通り抜けていく、巨大な船が多く自分が虫か何かにでもなった気分になってくる。
「ですが、翔鶴以後に妖精のいる船も少しづつ増えてきていています」
進んだ先に三隻の船が見えた。
(あの船たちは生きている?妖精を感じるわ)
「航空母艦瑞鶴、改装空母飛鷹、重巡洋艦利根です」
「瑞鶴は翔鶴に瓜二つね」
「姉妹艦というそうです」
「これらも王国に?」
「はい、全て伝えていました…」
「ソニアリシル嬢は、妖精を飛行機に閉じ込める方法を知っているらしいの…」
「なんですと…」
「フランツ王子…新国王は、ソニアリシル嬢とこれらを使って他国に攻め込むつもりだったのかもしれない…」
「……危険な話しですね」
(王子に渡らなくて良かった…)
「お嬢様。私は飛鷹と運用技術をウィンザー公に供与しようと思います…」
「残りの二隻をアルマリンで運用するため…ですか?」
「はい、独占すると今度はウィンザー公やその他の貴族から攻められる可能性が…」
「ウィンザー公を、信じたいけど…」
(先日の演説でもわかるように、ウィンザー公はどこまでも貴族なのだと思う…
お父様が居てくれれば…)
領都を取り戻して以来、お父様の捜索も続けられているが、今だに消息が掴めていない…
「わかりました、その形で交渉を進めて下さい」
「畏まりました」
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