第36話:感謝
「ウィンザー公から、依頼が届いているよ」
私が落ち着くのを待ってジュリアンが話し始めた。
「ウィンザー公ですか?」
「騎士団を率いて、近くで掃討戦をしているらしい。そこで、今日の午後にでも領都の人々に向かって、戦勝と解放の発表を行って欲しいそうだ」
「今日ですか?まだアルマリンは全て解放された訳では…」
「こういう事は、拙速でも迅速に行う必要があるし、何より雰囲気や勢いが大事とのことで…
領民に、現状を理解してもらい、安心と誰のお陰かを伝えてくれとのことだ」
(それは…思惑が透けて見える話では?)
「まあ、思惑が透けて見える話だよね」
(ジュリアンも気づいてる?)
「とはいえ、今は突っぱねられる立場でもないから質が悪い…」
「…うん…」
(現状を理解してもらい、領民へ安心を伝えるのは確かに早い方が良いと思う)
「でも…」
「そう、音頭をとれる君がこの状況だと難しいよね…」
「…」
「その場合、ウィンザー公自身がここで演説しそうな雰囲気なんだよ…」
(それこそ何を言われるかわからない…)
「車椅子でも良い、出られないかな」
「ジュリアン様、今、スフィア様が無理をされると神経に障害が残る可能性があります」
「だよね…」
***
午後二時、昼間とはいえ、一月の寒さが肌に刺さる中…
領都の海に面した商業区の広場に、領都の民が集められていた。
既に王軍の姿は街になく、人々の顔は明るいが戸惑いの中にいるようで様々なところから不安の声があがっている。
広場の海を見渡せる位置に一段高い舞台のようなものが設けられていた。
このために来たウィンザー公爵が舞台に立ち、私やジュリアン、ビンセント、ミスティがその後ろに並んでいる。
私はドクターやミレニアの制止を振り切って参加していた。ただし、車椅子に乗りミレニアに押して貰っての参加。
ミレニアは怒ってしまい、段差で「痛いー」と言っても相手にしてくれない…
「アルマリン領民の者たちよ。
私はウィンザー。公爵だ」
「こ、公爵?」
この広場に集まった者たちが一斉に、頭を垂れる。
「王国の横暴ににより、虐げられた者に同情を感じている」
ウィンザー公爵は、一同を見渡す。
「この度、王国の横暴に対して、王国を憂い、心同じくする者たちとともに、私は立ち上がった」
誰もが聞き耳をたて、聞き逃さないようにしている。
「窮していたアルマリン令嬢に力を貸し、昨日の王国への攻勢にてアルマリンを解放することが叶った」
「おおおお!」
「君たちは自由だ」
「おおおお!」
(流石だ、領民はウィンザー公の話に魅了されている)
だけど…このままだと、アルマリンはウィンザー公の属領になってしまう。
ただ、享受され、助けられるだけの状態で終わっては、アルマリンに未来はない…
今回の感謝に関しては、私はビンセントと相談の結果。技術供与で済ませる方向で話を進めてもらっている。
領民にも、アルマリンの意思を背負ってもらう必要がある。
私はコルセットを外すと車椅子から立ち上がった。
(ガガガ、いだい…!)
飛び上がりそうな、首が落ちそうな痛みが襲うが、歯を食いしばる。
「ス、スフィア様!」
ミレニアがそれに気づく。
「スフィア!」
ジュリアンが差し伸べた手を優しく振り払い、ウィンザー公爵の横に歩み出る。
「公爵、お話の途中で申し訳ありません。
私も領民に声を掛けたくなりました」
「アルマリンのみなさん。
スフィアルィーゼ・アルマリンです」
「アルマリンの姫様か?」
「スフィア様ね」
「でも、姫様は王国の王子と婚約して城にいったんじゃあ…」
「敵じゃねえか!」
「王国の臣民でもあるアルマリンに対して、
王国軍による無慈悲な奇襲を受けました。
街は焼かれ、隣人を、家族を失った方もいらっしゃると思います」
「王国に嫁いだ女が何を言う!」
「娘を、家を帰して!」
「私も、父であるアルマリン侯が戦いに出て行方不明です」
「領主様が…」
「私は、王子の婚約者として、王都にいながら何も知らされず、この奇襲の前には婚約を破棄されました」
「婚約破棄だと」
「スフィア様は請われて行ったはずだぞ」
「何が起こっているんだ」
「王都にいながら何もできなかったこと、心より謝罪いたします」
私は貴族にも係わらず頭を垂れた。
頭を首が支えられない…意識が飛びそう。
汗が滴り落ちる。
「謝ったって家族は帰ってこない!」
「そ、そうだ、そうだ」
「王国は他領にも、そして他国にも攻め込もうとしています」
「そんなこと知ったこちゃねえ!」
「このままでは、他国の反攻によってアルマリンも支配される可能性があります」
(たぶん新国王、そしてソニアリシルは勝てない。そして、そこまで考えが及んでいない)
「何だと!」
他国からの支配を受ければ、奴隷にされる可能性すらある。免れても植民地など搾取されるだけになってしまう。
私は一拍置く…
「その前に、王国の現体制に退いて貰い戦乱を避ける必要があります!」
「そんなことできるわけがない!」
「自分たちの権利は、自分たちで守らなければ、人に搾取されるだけの存在になってしまいます。どうかみなさん力を貸して下さい。
本当の自由を、笑い合えるアルマリンを守るためお願いします!」
遠くから一人拍手が起こる。
左手側からも、一人、二人と…
右手側、中央…
「俺はこの領で生まれ、アルマリン卿にも助けてもらったことがある」
「自分の手で守らないで、胸を張って生きられるか」
「ここは俺たちの生活の場だ、誰にも奪われたくない!」
少しずつ、僅かずつだが拍手が増えていく。
「失ったものは戻らない。なら失わないようにしなければ」
「アルマリンが祖国だ。俺たちの祖国だ」
みんなではない、みんなではないが多くの人が拍手をしてくれている。
私は、首の痛みを気にせず、深く深く頭を下げた。
涙も止め処なく出てしまうが、拭うこともせず深く深く感謝した。
フランツ様…いえ、ソニアリシル嬢は
まるで、政治や戦争を知らない。
人の心をわかろうとしない。
とても異質な存在なんだ
顔を上げると海に浮かぶ巨大な船、翔鶴が目に入る。
異質な存在…
ソニアリシル…
船と人だが同じ異質感を覚える…
あなたは何者なの?
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