第33話:黒い機体Vs蒼銀の機体
先ずは黒い機体の上にいかないと話にならない。
『スフィア、本当に大丈夫なの?』
「大丈夫、誰も傷つけさせやしないわ」
『そうじゃない、そうじゃないよ』
「大丈夫、ティテも傷つけたりしないわ」
『違うけど、それってスフィアも傷つかないと思っていいのね』
私はコクリと微笑む。
(そう、撃たなくったって傷つけさせやしない)
「ティテとだったらできる筈よ。力を貸して」
陽が昇って間もない蒼天に向かって機首を向ける。
シルヴィと違う、強引な力で重力から引き上げられるような感覚。
なんか以前より速くなっていない?
『そうみたい、なんか私の意思が機体を巡っているような感覚もするわ』
左手で操縦席の内壁を触ると、人肌のような暖かさを感じた。
黒い飛行機が頂点まで昇ると、少し背面気味に機体を傾けると捻りを加えて一瞬で機首を下に向けた。
(何あの挙動)
私もやってみる!
操縦桿を引き機体が少しだけ起きた状態で、操縦桿を右に倒し、右のラダー力いっぱい踏ん張る、私の機体も一瞬で下を向くことが出来た。
そのまま、黒い機体を追いかける。
ガンサイトを覗く、撃つつもりはない、トリガーにも指は掛けない。だけど呼吸は速くなり手が震える。
意識を集中させる。
ただあの黒い機体に追いつくことを考える。
翼が小さく、コンパクトなティテは降下速度は速い、黒い機体がどんどん近づいてくる。
私の呼吸もそれにつれて荒くなる。
「はぁはぁはぁ…」
「スフィア…」
黒い機体が、味方のA6M5に狙いを付けたところで此方に気づいたみたいだ。
ロールして私の下側に向かって更に降下していく。
私もロールして追いかける。
高度計の針が飛んでいきそうな猛烈な勢いで回転する。
「落下速度で勝ってる?」
『こちらの方が速いわスフィア』
整備員さんの補強がどこまでされているか聞いておけばよかった。
ゥォォォォォーンッ!というティテの音にキィィィィィィーーーーンという黒い機体の音が混じってくる。
「頑張れー一年分のアルマリン領予算!」
『え?何それ』
黒い機体が上昇に転じる。
此方もそれに続き、後ろを取り続ける。そうしなければいけない。
「ここ迄高度が下がると、空気抵抗で減じたエネルギーは全てが速度にはならない筈。
最新の物理学の本を間違えて読んだときそう書いてあった」
『なんでそんな本間違えて読むの?』
「表紙が綺麗だったのよ」
『ねえ、スフィア。後ろについていても。いつまで経っても撃たないと不自然に思われないかな…』
考えていなかった…
「そ、そうね…」
そう思った瞬間、手が震え、眼がかすむ…呼吸が上がり、吐き気が襲ってきた…
黒い機体が、二機にも三機にも見える。
「威嚇射撃…たまに威嚇射撃しないと…」
『ス…』
黒い機体は、左右に機体を振って振り切ろうとしている。
私は安全扇を解除してトリガーに指を掛け。
「うっ…」
猛烈な吐き気が襲った。
『スフィア!』
身体と指も硬直する。
でも、父上の顔、街の人たちの顔を思い浮かべる。
ドドドッ
明後日の方向だが、光を纏った弾が空を駆けた。
唇から鉄の味がする、思いっ切り嚙み締めた。
吐き気が止まらない。
黒い機体は、直ぐにロールして大きな大きな旋回上昇に入った。
眩暈のする頭を叩き、動かない足や手を動かない手で叩いて、私もそれに続く。
空に軌跡を残しての大きな旋回。
高度9000メートル。
《スフィア、これは機体性能の限界を競う旋回よ。
力比べ耐久力比べ。昇れなくなった方、失速した方が負けのそういう我慢比べ》
この高度だと、戦っている機体は、私と黒い機体しかいない。
この前シルヴィーと見た世界。
とても不思議で綺麗だった。
「今度は、ティテと見れたわ…」
『どういう意味?』
「内緒」
外が静かだ、黒い機体は一キロくらい先を飛んでいる。
だんだん翼が空気を掴めなくなってきた。
とても外が静かな気がしている。
「向こうはまだ余裕かしら?」
『どうかな、余裕では無いと思うけど…』
「どうしたの?」
『あの機体の名前。キ87試作高々度戦闘機っていうの』
「それは困ったわね」
『困ったね』
戦闘中とは思えない余裕が出てしまう、そんな不思議な旋回戦。
「黒い機体の操縦者は何を思っているかしらね」
『しっつこいなーって、絶対に思ってるよ』
「絶対そうね…あぁっっっつ!!」
ティテがいきなり失速した高度12300メートル。
垂直に落ちる感覚。
身体が浮き上がる…
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