第32話:開戦
涙で霞む目の中で、敵機が遠ざかって行くのが見える。
(撃たないと、翼でも、尾翼でも良いから…)
そんな場面を見たこともないのに、私が撃った弾で操縦席が真っ赤になったり。エンジンが火を吹いて爆発する映像が浮かんでしまう。
(なんで!)
『スフィア…無理しないで』
パニックを起こしているうちに敵機が見えなくなってしまった…
「お嬢様、どうなりましたか?」
「ご、ごめんなさい、撃てませんでした」
吐きそうな気分だったが、なんとかそれだけ言うことが出来た。
「仕方ありません、敵機を見つけた時点で手遅れです。無線電信で既にアルマリン駐留の王国司令部に連絡されています」
「そう…なの?」
『無線通信…モールス信号なら1000キロは届くわ』
「これで、敵機も上がってきます。空戦になりますよ」
「スフィア様?大丈夫ですか?」
ミレニアが聞いてきた。
「うん、大丈夫…なんでもないわ。逃がしちゃってごめんなさい」
「無理しないで下さいね」
「うん、ありがとう。編隊に戻りましょう」
私は機首を、アルマリンに向けた。
「アルマリンまであと300キロ程。
40分程度の距離だが、敵機は全て上がっていることだろう。
スフィア要注意だ」
「わかったわ。ジュリアン」
操縦桿を握る手が、額の汗が拭っても拭っても浮いてくる。
大丈夫、私は旗頭になることを選択したの。こんなところで挫折なんかできない。
そう思えば思うほど、息が苦しくなった。
「全機に通達。敵機が上がっていることを想定、可能な限り高度を上げるように」
***
敵機は約90機が空に上ってる。
高度もほぼ変わりない状況だ。
「領都以外の飛行場からも上がってくる筈よ、時間とともにもっと増えてくるわよ」
ミスティの声も緊張していた。
実践はここにいる殆どの人が、初めてなのだ。
「スフィアルィーゼ・アルマリンです。敵機が上がっていますがこの戦場では、こちらが二倍の戦力です。
恐れず、二機で一機を相手にするように戦って下さい」
『なんで?』
「その方が有利かなって思って…」
「お嬢様正しい指示ですよ」
ミスティが褒めてくれた。
戦端が開かれた、王国側はほぼキ43-II隼。
反体制軍はA6M2とA6M5の混成、性能差は腕の差、経験の差でどうとでも転ぶ差しかない。
私は、変わらずトリガーを引けない。
みんなが命を賭けて戦っているのに…
(自分が口惜しく、苦しい)
遠くで見ると緩やかな旋回戦に見えるが、実際は数百キロの速度での空中戦である。
背後をとり、切り返されて、相手に背後をとられる。旋回はより小さな旋回で敵機を射線に入れる。最小の旋回をした機体は速度を失い、他の機体の餌食となる。
感覚でそれではダメ!と叫ぶが、黎明期の戦闘機の格闘戦だ。
経験は似たようなもの。才能と運、なによりセンスが物を言うようだ。
戦場を俯瞰していると、真っ黒に塗られた機体が目に入った。
その機体は、高空から降ると反体制軍の戦闘機を纏めて二機づつ落としていた。
落とされた機体は、撃たれた場所が消失したかのようだった。
「な、何あれ!」
『キ87…』
降っては昇ってを繰り返すだけで、どんどん味方が落とされ、消えていく」
『あの機体は30ミリの機銃弾をばら撒くわ』
「ああ、また…」
『一発当たれば、助からないそういう弾よ!』
私が見てる僅かな時間だけでも八機が落とされた。
手が震えてる、でも…
私が行かないと、あの機体に抗える機体がない…
「お嬢様。お気づきですか?
あれは不味いです。
ミレニア。お嬢様を頼みます」
「え、ミスティ…」
「じゃあ私もお供しますよ」
「ジュリアン!」
ミスティとジュリアンが機体を傾け加速して、あの機体へと向かっていく…
「ダメーーーーーー!」
私は、力の限り叫ぶ。
「スフィア様!王国軍の増援です!」
左方向を向くと、敵の編隊が迫ってきていた。
『キ61-I 丁だわ!』
「また新型?なんで王国はアルマリンに!」
「ミスティ!ジュリアン!ミレニア!お願い新手に対応して!」
「ですが!このままこの機体は放っておけません!」
「黒いのは私が何とかします!」
『スフィア!』
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