第31話:忘れていた
上空は既に朝日が差していた。
ヴァディスからも続々と、戦闘機が舞い上がっている。
今作戦のウィンザー公爵派の反体制軍の動員機数は300機に届く予定だ。
私たちはアルマリンの南から攻めることになるが、北と東からも飛びたっている筈だ。
地上戦力はその北と東がメインになっている。
『スフィア、お友達だよ』
ティテがそう言うと。
私を頂点に、◇形になって飛ぶ三機の機体があった。
「A6M5に似てるけど…初めてみる形ね」
『斜め後ろの機体は、N1K3-A、試製紫電改二ね。
真後ろはA6M8、零式艦上戦闘機六四型よ』
ティテがN1K3-Aと言った機体にはアルマリンの紋章が、A6M8はヴァディスの紋章が描かれているのが見える。
(きっとミレニアとミスティにジュリアンね)
「あの機体は強いの?」
『A6M5を進化させたとても良い機体よ』
最初に飛び立った機体が編隊を組み上昇を続けていた。
朝日を受けて光を反射して輝いている。
周りを見渡すと、まるで空覆うような数の戦闘機だ、左右何処を見ても隙間なく四機か五機で編隊を組んで飛んでいる。
勇壮で心強いが、怖くも思えた…
(ううん、今はこの力が必要なの、アルマリンを取り戻すのよ)
私たちは先頭を追いかけた。
「お嬢様。先頭になったら速度を合わせて下さい」
ミスティのかすかな声がどこからか聞こえる。
『スフィア。ヘッドセットよ!』
「ヘッドセット?」
『スフィアそろそろ色々憶えたほうが良いよ。拡声器の演説カッコ良かったのに…』
「こ、これねヘッドセット」
『うん、咽喉マイクもつけてね』
(ティテが残念なものを見るように呆れてる気がするんだけど…)
「これ、どうやって返事するの?」
『スロットルレバーに付いてるボタンを押して』
私はボタンを押しながら話しかける。
「ミスティ聞こえる?」
「お嬢様、何故すぐに返事しないんですか!」
いきなり怒られた。
「だって…通信なんて初めて…」
「教育が必要のようですね」
「ひっ」
「フフフハハハ」
ジュリアンに笑われた。
「現在の王国のアルマリン駐留軍には、レーダーがないと思われます」
「はい」
「50キロ〜80キロに近づいても気付かれない筈です、迎撃も遅れるはずです。そこが好機です」
「はい」
「敵が迎撃に出られないようなら、徹底的に飛行場を攻撃します」
「そうね」
「但し、その場合は、私たちは攻撃する味方機の援護に入りますよ」
「わかったわ」
「直上、敵偵察機!」
何処かからか通信が入り、上を見ると確かに黒い点が見える。
「行きます」
私はスロットルを押すと、機首を上げた。
「先走らないで、私たちも行きます」
私たちの高度が5000メートル、敵は少なくとも8000メートル以上を飛んでいるようだ。
上昇は私が一番早く、次いでN1K3-A、A6M8と続いているが、割と置き去りにしてしまった。
『キ46-III乙+丙、新司偵ね。速い偵察機よ。でも、速度で少し劣っても加速はこっちが上よ。私たちからは逃げられないわ』
私たちは、後ろからグングン王国偵察機に接近する。
ガンサイトを覗き込む。
偵察機の機銃は何故か上前方を向いており、後ろから近づくものには無防備に見える。
私はトリガーに指を掛ける。
『今よ、撃って!』
私は指を掛けたトリガーに力を込める。
……
『ど、どうしたの!』
私の手が震え、呼吸が侭ならない。
「はあ、はあ、はあ」
『どうしたの、逃げちゃうよ。
このままじゃ追いつけなくなるよ』
操縦桿を握る腕が震える。
忘れていた、アルマリンでの戦いで、親子を狙っている戦闘機を撃ち落とし、操縦者が脱出できなかったのを。
その後、撃てなくなったことを…
(忘れていた。いえ、無かったことにしようとしていた)
多分それは心を守る防衛本能。でも思い出してしまった。
『やだ!どうしちゃったのよ!』
呼吸が荒い。苦しい。
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