第30話:飛翔
私たちは、翔鶴に戻ってきた。
ドレス姿から、乗馬服に着替えて艦内を進む。
明日、戦いが始まることが、乗組員にはもう伝わっているようで、みんなが忙しなく作業を始めていた。
小走りにすれ違う人が、私に手を額に持ってくる敬礼をして立ち止まり。
(意味をやっとミレニアから教えて貰った)
私も同じように、敬礼しながら通り過ぎると、また小走りに走っていく。
(挨拶がないのは寂しいが、効率優先は仕方がない)
私は、格納庫に向かっていた、ティテの様子が知りたかった。
私の友達で相棒?
ティテがいて私は初めて戦えるのだから。
ティテが居た、骨組みだけの恥ずかしい姿ではなく、外装が元に戻っている。
色が、白銀から、蒼銀に変わっている。
翼と胴体のにはアルマリンの紋章が金縁で描かれていた。
(高度一万メートルで見た地上と空の境目に差し掛かる空のような蒼…)
とても綺麗な色だ。
「お嬢様」
「ありがとう、とても綺麗」
私は整備員さんの手を取ってブンブン振った。
「塗粧だけではないですよ、縦通材全てにミスリルを這わせ、円環フレームにはテンションロッドを入れて機体剛性を上げました。これにより目的の着艦フックが取り付けられました。また、副産物として妖精の妖精力の伝達も上がっているはずです、重量増による速度低下も抑えられるはずです」
整備員さんは興奮して捲し立てた。
「良くわからないけど凄いわ!」
「ただし…」
「?」
「すみません」
「なんですか?痛くしちゃいました?」
「そうではなくって…」
とても言いにくそう。
「何か問題でも…?」
「翔鶴の全戦闘機併せた金額よりも、この一機にかけた金額のほうが高くなってしまいました!」
「えーーーー!」
整備員さんが今にも死にそうな顔で私を見つめている。
(そ、そんな顔しないで…)
「だだだだだ大丈夫、私がどんなに怒られても責任は持つわ!」
「大丈夫ですよ、お嬢様。奥様より許可はとっています」
「ミ、ミスティ…さん。お久しぶりです」
メイド長であり、子供時代の教育係。乗っていらっしゃるとは聞いていたけれど…
「今やお嬢様は、お嬢様一人の身体ではありません。アルマリンいえブランドル王国全ての希望です」
「……」
「どんな事があっても死んではなりません。
そのためならば…な、なんですか?」
整備員さんが、ミスティさんに紙を渡している。
一瞬でミスティさんが真っ青になった。
「……と、と、とにかく。
生きて帰ってきて下さい。
お、お願いします。
出来れば機体も被弾しないようにお願いします」
ミスティさんはそう言い残すと頭を抱えフラフラと行ってしまった。
私にとってミスティさんには、小さい頃に厳しく躾けられたため。凄く怖い存在だ。
…あんなミスティさんを見たことがない…
(……)
先程の紙が下に落ちている…落としていったのねと私は拾い上げた。
「き、きゃーーーーーーーーっ!」
***
『どうしたの?騒がしかったけど…』
操縦席に入るとティテが聞いてきた。
「な、なんでもないわ…ど、どう調子は?」
『凄く良いわ、なんか生まれ変わったみたい』
とても明るい声で喜んでくれている。良かったわ。
「なんかスフィアは顔色悪くない?」
「そ、そんなことないわ」
私は紙を丸めてベルトに挟んだ。
『あれ?』
「何?」
『ん〜クンクン、クンクン』
「…どうしたの?」
『私以外の女の子の匂いがする!』
「え?」
『ま、まさか浮気!』
「ええーーーっ!」
(なにそれ、なに?シルヴィのこと言ってるの?)
***
王国歴183年1月18日
05:00
夜明け前の暗い刻限。
翔鶴の灯火管制が解除され、飛行甲板は全照灯された、艦橋からの幾つもの大型の探照灯が飛行甲板を照らし、クレーンの照明、誘導灯、灯りという灯りが全て点灯された。
まるで太陽が地上に降りたような、目も眩む圧倒的な光に翔鶴は包まれた。
「翔鶴に乗船の1690人の乗組員の皆さん」
翔鶴の拡声器から私の声が、艦橋、艦内、飛行甲板に響き渡る。
「スフィアルィーゼです」
拡声器の届く全ての場所で、私の声以外の音が消えた。
「私たちが住む、笑顔絶えない街が、国が王国の手によって、蹂躙されました」
私は目を閉じる、あの時見た記憶が蘇る…
「王国の無慈悲な行為は、私たちの街を、家を、隣人を、家族を失いました。私の父。アルマリン侯爵も生死不明です」
静寂の艦内に嗚咽が交じる。
「今日、この時、ウィンザー公爵、ヴァディス伯爵そして心同じくする多くの貴族と共にアルマリへ向かいます」
目を開き息を一つく。
「みんなでアルマリンを取戻しましょう!」
あらん限りの思いを込めて私は叫んだ。
「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーー!」」」」」
静寂が破られ艦内に歓声が上がり、時間が動き出した。
全てが始まる時間の針が…
「戦闘部隊順次発艦開始してください!」
カン・カン・カン・カン・カン!という、非常にテンポの速い五連打のベルがなり始めた。
戦闘機体の一陣は既に甲板上で駐機している。搭乗員は走って自機に向かい、整備員とのやり取りの後、発進位置へと順次進んでいく。
一機、二機と留まることなくまだ暗い空へと舞い上がっていく。
「私も出ます…ビンセント。後はお願いします」
「ご武運を」
「ご武運を!」
私は、当直士官が開けてくれた扉から艦橋を出ると、ラッタルを駆け降りる。
ティテの待つ格納庫へと向かう。
艦内は、慌ただしく動き回る人でいっぱいだった、私に会うと、取り戻しましょう、王国を追い出しましょうと声を掛けてくれた。
格納庫への開け放たれた扉をくぐると、パイロット服に身を包んだ三人が待っていた。
「ジュリアン、ミレニア、ミスティさんまで…どうしたの」
「何呆けてらっしゃるんですか?」ミスティさん。
「出撃するにきまってるじゃないですか」ジュリアンが握りこぶしを見せる。
「スフィア様を一人にはできませんから」ミレニアが敬礼する。
「でも、ミレニアとミスティは操縦できるの?」
「何言ってるんですか、私もミレニアもアルマリンの戦技研究班ですよ」
「でもミスティは歳が…」
「失礼ですね、私28歳ですよ!」
(そうなの!?)
怖いことばかりが先に立って知らなかった…
「行きますよ」
私は頷いた。
「ティテ、行くわよ準備は良い?」
『もちろん!』
整備員の手によってティテがエレベーターに乗せられた。
私はシートベルトを締める。
上がり始めて十数秒で光の海のような飛行甲板にへと上げられる。空は白んできたがまだ暗い。
誘導員に従い私は機体を移動させる。
発艦位置を誘導員が示し停止を指示した。 前方の誘導員が旗を大きく振り、周囲の整備兵たちが一斉に機体から離れる。
重厚なブレーキペダルを両足で精一杯踏み込む。
「ティテ行くわよ、ランナップ!」
スロットルレバーを一気に押し込む。
ドロロロ……という唸りが、一瞬で
ギガガガガガガガガガガ!!という、空気を物理的に粉砕するような凄まじい爆音へと変わった。
誘導員の腕が前方へ力強く振り下ろされた。
私はブレーキを瞬時に解放する。
ドゥォォォォォーンッ!!
溜め込んだエネルギーが爆発した。 ティテは弓から放たれた矢のように、甲板を後に夜空へと飛翔した。
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