第28話:戦姫
私は急き立てるシルヴィと、外で慌てているみんなを見つつ考える。
(うん)
「ジュリアン、ミレニア。この子が飛びたがってるの。チョット行ってきます」
「スフィア何を言ってるんだ。戻ってくるんだ」
「スフィア様。お戻り下さい」
「ごめんなさい、大丈夫。心配しないで。みんな下がってて」
私は操縦席に掛かっていた、ラッタルを倒し、スライド風防をガコンと言うまで閉じる。
操縦桿を上下左右に動かして動作を確認する。
スロットルを少し前に押し出し、前進させ、ラダーを操作して離陸用の滑走路へと進める
「あ、でも今って後ろ向きじゃないの?」
『違うわこの機体はこれで正しいの。エンテ型といってエンジンが後ろについているのよ』
「なんか、それって危なくないの?」
私は少し尻込みをしてしまう。だってエンジンは前にあるのが普通じゃないの?
『大丈夫、この機体はとても速い筈なのよ』
「筈ってなに?」
『だって、飛んだ事無いのですもの』
私は血の気が引いた。
「本当に大丈夫なの?」
『大丈夫、大丈夫ですよ』
(……わかったわ)
私はシルヴィを信じて一気にスロットルを押し込んだ。
その瞬間物凄い加速が襲い、背中がシートに押し付けられた。
前方はプロペラが無いし、上を向いた角度でもないので、ティテと違ってとてもクリアに見える。
時速180キロ、私は操縦桿を引く。
機首横の小さな翼が持ち上がると、フワリと浮き上がるのがわかった。
そこからがティテよりも凄かった。グングン後ろから押されているような感覚で加速しながら上昇していく。速度計も高度計も勢い良く回っていく。
ティテと同じように操縦席は音も酸素、温度、気圧?もシルヴィが管理してくれている。
それでもキィィィィィィィンという甲高い音がいつまでもきこえる。
時速600キロで上昇を続け、高度10000メートルで巡航に移る。
時速は直ぐに700キロを刻んだ。
地上が丸く曲線に見え、空と地上の境目が白く見える。上を見ると昼間なのに何故か暗い夜のよう。下を見ると白い雲が地上で見るよりも、遠く感じる。
旋回しようと操縦桿を倒すと、急に翼が何も掴んでいないようになって、いきなり失速して高度が落ちる。
「キャーーーーーア!」
『だ、駄目よ!ユックリユックリ。全ての操作はミリ単位で行って』
「うん…うん」
『外は呼吸もできないほど空気がとても薄いし、気温は凍てつくマイナス五十度。人は生きれない世界なの』
背筋にゾクリとしたものが走る。
『空気が薄いと、翼は空気を掴めないから、直ぐに落ちちゃうのよ』
そんな世界があるなんて知らなかった。
「わかったわユックリね」
その時、私は見てしまった、数百キロ離れているはずのアルマリンの街を。
小さいとても小さいが、海岸線や丘や山の位置を見れば分かる、あれはアルマリンだ。
小さいから詳細は分からない。
でもまだ街はあった、蹂躙はされていないと聞くが、空襲は受けていた。
心配だ、このまま行ってしまいたいくらい…
私は大きく大きく弧を描いて旋回し、アルマリンを見続けた。
「シルヴィ。戻りましょう…」
『わかりました、スフィア。ありがとう』
「いいえ此方こそ。
おかげで決心できました」
私とシルヴィはゆっくり降下して、着陸コースへと入る。
左下にはティテを乗せた翔鶴も見える。
静かに揺蕩っていた。
着陸は、ティテに比べれば視界が良いが、足の長さが感覚として掴めず、自分が身構える前に、ドシンという振動を受けて驚いてしまった。
着陸早々、車輪止めをされ、風防を開ける前にラッタルを掛けられて、ミレニアが駆け上がってきた。
「スフィア様!何をなされるんですか!」
そう言いつつミレニアはシーツを私に渡し、ジュリアンが近寄るのをブロックしてくれた。
『スフィア。ありがとう。嬉しかったわ。現地妻でもいいのでまた来てね』
(シルヴィにどこで憶えたのか分からない、いかがわしい言い方をされてしまった)
「うん、また来るわ。今度はスカート切らないでね」
ミレニアにシーツで包まれ、怒られながらヴァディスの宮殿へと戻る。
ジュリアンは終始顔を赤くしたまま何も話さなかった。
(それじゃあ、私だっていつまでもまで忘れられないじゃないの…もう)
***
夕食が終わり。
「急かして悪いとは思っている。だが聞かせて貰えないだろうか?」
昨日のことを伯爵が聞いてきた。
一瞬ビンセントに目を向ける。
ビンセントが頷いてくれている。
飛行場から帰って、私はビンセントに相談している。私の気持ちを伝えると
「わかりました、お嬢様のお考えに私は従います」と言ってくれた。
私は一回深呼吸してから伯爵を見つめた。
「伯爵、私、スフィアルィーゼは、戦姫として反体制に参加させて頂きます」
一瞬だけ室内の音が消えた気がする。
最初に声を発したのは伯爵。
「そうか、ありがとう」
「スフィア」
ジュリアンは心配そうに私の顔を伺っている。
「そのかわり、どうかアルマリンをお願いいたします」
私は深々と頭を下げてお願いした。
ビンセントも同じようにしているようだ。
「わかった。必ずアルマリンは救ってみせよう」
「ありがとうございます」
私は涙を流していた。
感謝のためか、自分に待ち受ける運命のためかそれはわからなかった。
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