第27話:シルヴィ
「この機体かな…?」
私は、ミレニアを伴ってジュリアンにヴァディスの飛行場に連れていって貰った。
昨夜、寝ていると夢に出てきたのだ。妖精の泣いている姿が…
「この子です…でもこの子…不思議」
その飛行機は、濃緑に塗装されていて、翼にはヴァディスの紋章が描かれている。
そこまではここに居る他の子たちと同じだけど、この子は明らかに違った。なんというか後ろ向きに操縦席ついている。
「この機体は、一機だけ半年前に見つかったんだ」
ジュリアンは、機体…下についた垂直尾翼?に触れながら教えてくれる。
私は近づいて、その子の脚に手を置いた。
「妖精も居るみたいなんだけど…
まったく反応してくれないんだ」
私は説明するジュリアンを見ると、その子に視線を移して語りかける。
「あなたが呼んだの?」
『…』
「私は、スフィアルィーゼというのスフィアと呼んでね。貴方の名前を教えて」
『…シ、シルヴィ…』
「なぜ、泣いてたの…」
『なんで?』
(?)
聞き返されてしまった。
『なんで、泣いてたって…知ってるの?』
「昨日貴方の夢を見たの…」
『誰も私と話せないのよ!誰も私と一緒に飛ぶことが出来ない…このままだと私もこの中にいられなくなって、J7W1は翔ぶこと無く朽ちてしまうわ』
「朽ちる?」
『妖精も居ない飛べない翼は本来の姿に戻るわ』
(え?どういうこと?元の姿って何?)
『私の声が聞こえる貴方なら…私と繋がって。お願いします。もう直ぐ朽ちてしまう』
「ジュ、ジュリアン…この子に、座ってもいい?」
「スフィア様?」ミレニアが驚いた顔をする。
ジュリアンも突然私に話しかけられキョトンとしている。
私がブツブツ一人でしゃべってるように見えていたのだろう。
(まるで変な人よね…)
ジュリアンは不思議そうな目でずっと、私を見ていた。
「この機体は動かないよ、誰が乗っても駄目だった。このまま倉庫行きが決まってるんだ」
「このままではダメ、お願い私をこの子に乗らさせて」
ジュリアンは逡巡したが、首を縦に振ってくれた。
「ジュリアン様」ミレニアが不服そうにジュリアンを見ている。
「大丈夫よミレニア。この子が呼んでいるの」
「それが、心配なんです!」
(困った顔をさせてしまった)
私は後ろ向きの操縦席に入るため、操縦席まで掛けられたラッタルを昇る。
この子、凄く脚が長くて一階建ての家の屋根くらいの高さに、操縦席がついている。
「スフィア様、スカート!」
(ああ、しまったわ)
今着ているヴィジット・ドレスも、クリノリンが入っている。
「これじゃあ乗れないわ」
『待って…』
シルヴィの声に心臓が止まった気がする。
とても嫌な予感がした。
「シルヴィ!待って、止めて!」
一陣の風がドレスに触れた気がした。
(あーーーー!)
「ミレニア!お願いジュリアンから私を隠してーーー!」
その直後、ドレスのスカートがクリノリンごと下に落ちた。
私は、急いで操縦席に乗り込む。
一回操縦席の中まで隠れるがそっと、目を出してジュリアンのほうを見る。
ミレニアが必死に手で遮ってくれているようだが…ジュリアンの顔が赤い。
「わ、私は、何も見てない、見てないぞ!」
(絶対嘘だ)
「シルヴィー!」
『な、なんですか?入れましたよね…』
「なんで、貴方たちは人のスカートを斬るのよ!」
***
『接続します、呼吸を整えて下さい』
私は、羞恥に逸る心臓を手で抑え、深く息を吸う。
ドルン、ドルン、ドドドドドド……
背中から力強い振動が伝わってくる。
振動を伴うその音は直ぐにプロペラが空気を切り裂くキィィィィンという高音に切り替わった。
後ろを見ると、キ44-IIIの四枚のプロペラより、大きな六枚のプロペラが回転していた。
『あああぁ。嬉しい同調できた』
妖精の嬉しさに泣いている感覚が伝わってくる』
「良かったわね」
「嘘だろ、動いた」ジュリアンの声が聞こえた。
「なんだ、なんだ?」
「例の機体が動いてるぞ!」
「行ってみよう」
整備士風の人たちも此方を見て騒ぎ出している。
「ス、スフィア様!早く降りて下さい。いや、お待ちください直ぐに違うお召し物を…」
ミレニアが切られたスカートとクリノリンを抱え、オロオロしていた。
『飛びましょう』
シルヴィが嬉しそうに言い出した。
(え?飛ぶ?)
『さあ』
(え?)
『お願い。さあ!』
「ええええ!」
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