第23話:ヴァディス宮殿
「ティ…ティテ。だ、大丈夫?」
翔鶴は錨泊に入り、今はヴァディスに上陸するための裝載艇の準備が行われている。
私は、その前に格納庫に寄ったのだけど…ティテが…
『み、見ないでー!』
ティテは、六人の整備士に囲まれて、外装を取られて骨組みだけの丸裸にされていた。
翼以外は、スケスケで反対側が見えている。
冷静な私もいて(わぁ、こうなってるんだークリノリンみたい)とか思ったりもしている。
「スフィアお嬢様」
白い服の整備士さんが作業する手を止めて、私に話しかけてくる。
「こ、これって、痛くないのですか?」
整備士が驚いた顔をする。
「痛い。ですか?」
私はコクコクと頷く。
「気をつけてやってますが…」
「ティテどうなの?痛い?」
『い、痛くはないけど…こんなの恥ずかしいわ』
痛くないのには安心した。
「整備員さん…あまり恥ずかしくないようにも、どうかお願いします」
整備員さんは言葉を失ってしまい。泣きそうな困った顔になってしまった。
「で、できればで良いので、お願いします」
「や、やってみます。おい!シート持ってきて恥ずかしくないように隠してやれ!」
整備士が全員固まってしまった…
(ごめんなさい、ごめんなさい)
私は両手を合わせて、頭を下げるしか無かった。
「ティテ、ヴァディスに行ってくるわ。戻ったら一緒に空を翔びましょう」
『うん、私、翔びたい!早く帰ってきてー』
***
後部デッキに出ると、空は青く、遠くに色とりどりな屋根の街並みが見える。
結構遠くに錨泊したんだなと思った。
昨日、私が泣き出した場所の、すぐ脇に階段がついていて、そこを降りると十五メートル程の船が待っていた。
機銃も付いている長官艇と言うらしい…
乗るのは、私とビンセント、ミレニア。護衛の騎士が六人。執事とメイドが四人。
先に乗っていたミレニアに手を引かれて船に乗り込む。
「ビンセント。船は大丈夫なの?」
「ミスティ・ローザに任せてきました」
メイド長の名前。
「乗られてたんですね」
私は喜びと共に、身体が凍りつく…
ミスティさんは、子供の頃の教育係でもあったので、怒られていた記憶ばかり思い出されたのだ。
ミレニアが、操舵室に入ると…
ボッ、ボボッ……ドロロロロロ……と船に振動が伝わる。
「出発します」
ミレニアがそう言うと、船は波を乗り越えながら街へと向かった。
(ミレニア…操舵できるんだ…)
***
桟橋には、ジュリアンと騎士が二人、執事っぽい人が四人待っていた。
「ようこそお出で下さいました。
ヴァディスは、皆様を歓迎いたします」
ジュリアン…着水の後に自分の飛行機で先に戻って、その足で私たちを出迎えるとか凄いわね。
「この度はお招き頂きありがとうございます」
私はカーテシーで応える。
今日の私は、令嬢然とした薄紫を基調としたドレスに身を包んでいる。
「君はその姿の方がやっぱり似合うよ」
艦内ではずっと馬上服だったから…
「ありがとうございます」
「ここから見ても壮観な船だね」
ジュリアンが見ている先、私も視線を移すと翔鶴が静かにその巨体を休めていた。
海に浮かぶ姿を外から見るのは初めてで、ああやっぱり船なんだと思った。
だけど、船だとしても、とても異質…そう感じた。
なんだろう、何か、誰かに似ている気がする…
「行きましょう」
ジュリアンの差し出した手に、私が手を乗せると、待たせていた馬車へと案内してくれた。
「これから、父に会っていただきます」
ヴァディス伯爵、小さい頃は何度も会ったことがあるが、私が人となりまで分かる歳ではなかったので、実際にどういう人なのかは分からない。
だけど、これからの翔鶴…アルマリンの行く末に大きく影響することは間違いない。
「大丈夫ですよ。私もついています」
ジュリアンがそう言ってくれるが…ジュリアンはヴァディス側ですよね?
***
アルマリンは城が領主館だが、ヴァディスは宮殿が領主館だった。
街から続く山の麓に広大な庭や噴水が見て取れる。
大きな金色の門を潜り抜け、玄関まで続く運河を模した池の横を進む。
玄関前には多くの使用人が出迎えてくれていた。
「王都の宮殿並みですね」
「お爺様の趣味だそうです」
外から馬車の扉が開けられると、ジュリアンが先に降りて私の手を取ってくれる。
赤い絨毯の上に足を降ろすと、使用人が傅いていた。
(大仰ね…)
王都では普通だったが…今の私には大仰に感じてしまう。
長い廊下を、ジュリアンの後ろに付いて歩く。
ジュリアンの靴音と、ドレスの衣擦れの音だけが耳に届く、静かすぎて息苦しい。
ビンセントもミレニアも別の所に案内されてしまい、今は私一人だけ…
居てくれても、発言できる立場ではないから仕方ないと言えば仕方ないが…
(不安…)
マホガニー製の扉の前でジュリアンが立ち止まった。
「ここです」
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