第21話:序曲
夏の陽射しが容赦なく降り注ぎ、夏の制服を着ていても、あちらこちらで弱音が囁かれる季節だった。
深緑の木陰が唯一の楽園で、生徒会役員であっても、夏の休みが待ち遠しかった。
先日以来、ソニアリシル嬢は、事あるごとに生徒会室を訪れ、王子や生徒会役員についてまわっていた。
「スフィア様。このままで良いのですか?」
メルディシア様が、ソニアリシル嬢を目で追いながら、私に聞いてくる。
彼女の行動は貴族令嬢としては、考えられない行動が多い。恥ずべきこととされる行動を平気で行なわれる。
「本当は、正しい令嬢の在り方をお伝えできれば良いのですけど…」
「聞き入れてくれそうにないですわよね」
私とメルディシア様は―令嬢として人のことが言えなくなるが―深く溜息をついた。
「どうしたんだい?君たちらしからぬ溜息なんて」
「ステファン様」
なんともバツが悪い、見られてしまった。
顔が赤くなるのが分かる。
「殿方から見て、彼女の行動はどう映るものなのですか?」
「メルディシア嬢にしては、珍しい質問だね」
ステファン様は目を丸くして、驚いた様子だが…
「そうだね、今まで出会った令嬢とは全然違うタイプだね。自己がしっかりしてるというか…画一的な令嬢に満足できなかった人には刺さるかもね」
「ステファン様はどうなんですか?」
「僕は、同じ令嬢から外れた枠なら、スフィア嬢の方が良いな」
私の質問にステファン様はそう答えて、ウィンクをされた。ファンが見たら卒倒しそうな仕草だった。でも…
(同じ令嬢から外れた枠って、どういう意味?)
「凄くわかります」
メルディシア様もそこで頷かないで。
「ユージンには刺さったみたいだね」
ステファン様はユージンを見る。
その視線を追うと…ユージン様がいて、その目には、ソニアリシル嬢が映っているようだった。
「軍事機密もユージンの好物だしね…」
「そのようですね」
「…スフィア嬢。メルディシア嬢。二人とも気をつけてね。なんか嫌な予感がするんだ」
そう言ってステファン様は離れていかれた。
「どういう意味でしょうか?」
私は困惑した。
「さあ…」
それは、メルディシア様も一緒だったみたいだ。
***
夏休み直前のことだった。
夏休みに関して、一年の頃から仲の良かった、フワッとした赤毛のミランダ子爵令嬢、青みがかったように見える銀髪のダイアナ伯爵令譲と教室でお互いの領地を訪れる相談をしていると、教室の入口に学年の違うソニアリシル嬢が姿を現した。
(なんだろう?)
私は、ソニアリシル嬢に声をかけた。
「ソニアリシル様、如何されましたか?」
「スフィア…さん、何でもありません」
嫌そうな顔を向けられ、王子の方に走って行ってしまった。
「どうされましたか?」
「あの方、婚約者であるスフィア様の前で王子のもとに行かれましたが宜しいのですか?」
(そう、明らかなマナー違反…)
王子への誘惑、私への挑発行為と取れる行動だ。
「あ…あの方は、国より王子に託された方らしいので…」
「ですが、それでもおかしくないですか?」
「……」
私が言葉に詰まると。
二人は悲しそうな顔をしてしまわれた。
「私、行って来ます」
ミランダ嬢はそう言うと、ソニアリシルの方に行ってしまう。
「ミランダ様、良いんです、およしになってください」
止めようとするが、聞いて貰えない…
「殿下失礼致します。
そちらのご令嬢とお話させていただいても宜しいですか?」
王子は何事かという顔をする。
「ミランダ嬢。どうされました?」
「このご令嬢が、婚約者であるスフィアルィーゼ様の目の前で、殿下と断りもなく親しくされるのはマナー違反であると思いまして。ご説明に参りました」
聞いていたソニアリシル嬢の顔が赤くなる。恥じているのではなく、怒りの赤。
「なんで、あなたにそんなこと言われなければならないの!」
教室が一瞬で凍りついた。
視線がソニアリシル嬢へと注がれる。
ミランダ様は、いきなりの剣幕に怯まれてしまった。
だって、令嬢はこんな風に人前で怒りを露わにしない…
「あ、あなた年長にそのような振る舞い…」
「関係ないわ、私はもう損する生き方はしないの」
「ソニアリシル嬢!どうしたんだ!」
王子が叫ぶと。ソニアリシルが黙った。
そして、私を睨みつける。
(な、なに?なんで)
「失礼しました殿下。
今日はこれにて失礼致します」
そう言って教室を出て行ってしまった。
「な、なんなの?」
ミランダ様が、歯をガチガチと震わせていらした。
私は、側に行って抱きしめる。
(こんなにお震えになって)
「申し訳ありません。私のために嫌な思いを…」
***
翌日、ミランダ様は学校にいらっしゃらなかった。
「どうされたのでしょう?」
心配した私とダイアナ様は、教授に聞きに教員室を伺った。
教授は、とても辛そうな表情を私たちに向けると…
「今朝。突然申し出があってな。学校を辞められたよ。自領に戻るそうだ」
私はその場に崩れ落ちてしまった。
(何かが、何かが壊れていく…)
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