第20話:ソニアリシル
「初めまして、ソニアリシルといいます。生徒会のみなさん宜しくお願いします」
ソニアリシル嬢はそういって、フランツ王子に連れられ、生徒会室に入ってきた。
「ソニアリシル・ド・ラヴィヴ子爵令嬢だ、宜しくしてやってくれ」
王子が補足する。
「一年生かな、宜しく」
「宜しく、ソニアリシル嬢」
「宜しくね」
「ごきげんよう、ソニアリシルさん」
「ごきげんよう…」
(え?)
ソニアリシル嬢は、みんなの挨拶に顔を向け笑顔を振りまくが。私の時だけ驚くような、睨むような表情を浮かべた。
(私何かしたの?)
「スフィアルィーゼ様ですね。お会いできるのを楽しみにしておりました」
「え、はい?」
ソニアリシル嬢は、先程感じたのとは全く違う笑顔で私に近づいてきた。
(なに?さっきのは気のせい)
「ずっと、憧れていました。全校生徒の中でも、気品と美しさで五指に入られているお姉様」
「え、何のことですか…それは?」
周りを見渡すと、知らなかったのかみたいな呆れられた顔を、みんなから向けられた。
「スフィア嬢は、少々、鈍感でポンコツなところがあるが、概ね人気があるんですよ」
ステファン様が教えてくれる。
(気付かなかった…でも言い方が酷いです)
私は頬が熱くなるのを感じて俯いた。
「侯爵令嬢で、王子の婚約者なのに、低姿勢で優しいからね。王妃となる素養で考えると甚だ心配だけど」
シャルル様が心配そうに言う。
「スフィアは田舎者だからな」
王子の言葉。
(失礼ね)
「ところで、フランツ。軍務省へ行ったんじゃないのか?」
ステファン様が、王子に尋ねる。
「ああ、行ってきたよ。彼女の面倒を見るように言付かったんだ」
「は?軍務省がなんでそんなことをフランツに頼むんだ?」
王子は首を振って、自らも不思議に思っていることを露わにしている。
「今後の王国の軍事に関わることだとしか聞いていない」
(軍事?この令嬢がどう関わるというの?)
「ソニアリシル嬢は何か知ってるの?」
ユージン様が興味を示した。
「それは、軍事機密になるそうなのでお話できないんです」
「軍事機密だって?」
ユージン様のワクワクが止まらないように見える。
「ユージン。軍事機密ということは、聞いたら不味いことなんだろう。その辺にしておくんだ」
フランツ王子が見かねられたように言った。
「スフィア。今朝は迎えに行けず、すまなかった」
王子は、毎朝通学に迎えに来てくれる。だけど今朝は、用事で迎えに来られなかったことを謝罪した。
「軍務省とか、国家のご要件ですから、お気になさらないでください…」
私は微笑んでそう返す。
そのとき、背筋にゾワリとする視線を感じた。ソニアリシルが私を睨んでいる気配…
(え?)
このぶつけられている感情は何?嫉妬?自分のものを取られたかのような怒り?
(怖くて、ソニアリシル嬢を見れない…)
「ありがとう。今度埋め合わせはするよ。明日は迎えに行くから」
「…はい。ありがとうございます」
「あ、私も迎えに来てほしいです」
ソニアリシル嬢が何気ない風情でいい出した。
生徒会室が、凍りついたような気がした。
部屋に置かれた時計の時を刻む音だけが耳に届く。
「…ソニアリシルさん。王家の馬車に乗れるのは特別な方なのよ」
メルディシア様が、柔らかく窘めるようにいってくれる。
「今日、軍務省からここまで乗せて頂いたわ」
「それは…」
「…ソニアリシル嬢。私が迎えに行こう。それでどうだい?」
(嘘…)
私は驚いて口元を両手で覆った。メルディシア様も同じようにしている。
侯爵家の子弟が、何の関係もない子爵令嬢を迎えに行くというのだって異例中の異例だ。
「ユージン様がですか。嬉しいです!宜しくお願いします」
と笑顔でカーテシーの姿勢をとった。
ユージン様は、王子と私にウィンクを送ってくれた。王子の代わりを買ってくれたのだとわかる。気の利く方だ。
私は頭を下げて感謝した。
紳士淑女が集まる王立学校ではあるが、僻み妬み嫉みによる様々な陰湿なことが見えないところで行われているというのを、私は生徒会に入った時に知らされた。
(私は、王子と生徒会の仲間に守られ知らずに過ごしていただけらしい)
だから、ソニアリシル嬢は、王子の馬車に乗れば、そういう対象になりかねなかった。
ユージン様はそれを救われたのだ。ユージン様に話しかけるソニアリシル嬢を見てそう思った。
(ユージン様ファンには恨まれるかもしれないのだけど…)
ソニアリシル嬢が加わっていることで、いつもの慣れ親しんだ生徒会室の空気が変わってしまったような気がした。
(優しい時間だったはずなのに…)
その日は、生徒会の報告と夏季休暇に関する事項を申し合わせて、解散することになった。
「明日もまた、寄らせて頂きますね」
ソニアリシル嬢はそう言って帰途に向かった。
私たちは、みんなで顔を見合わせた。
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