第19話:王立学校
「それは凄いね…
新国王はそのことを?」
「…」
私がミレニアの方に視線を向けると、ジュリアンの視線もそれを追った。
「ふぅ…わかったよ。今はこの話に触れない方が良いんだね」
「恐縮です」
「ただ、もし新国王がスフィアのこの能力を知っていて、婚約したなら、何故婚約破棄に至ったのか。ソニアリシル嬢にそれ以上の力を感じた?又は…」
ジュリアンは顎に手をやる。
「もっとも、その能力だけで君と婚約したとも思えないけどね…」
私が、キョトンとした風情でいると、可笑しそうに微笑まれた。
「ソニアリシル嬢のことは、何かわかるかい?」
「ソニアリシル嬢ですか?」
雲海に視線を向ける、雲海が途切れはじめ所々木々の緑が顔を出し始めていた。
私は、目を瞑って記憶を手繰り寄せる…
「ソニアリシル嬢は、昨年入学してきました」
「昨年?」
「家門が爵位を賜ったのが昨年だったそうで、遅れての入学と聞いています。年齢的には一つ年下です」
「待ってくれ。
一代限りの騎士爵や準男爵ならともかく、子爵位を賜るなど…
戦争のないこの時代には考えられないな。
商人が金で買うこともあるが…男爵がせいぜいだろう」
ジュリアンが話を止める。
「言われてみれば。そうですね」
「君は不思議に思わなかったのか?」
「私自身は、直接ソニアリシル嬢との接点はなかったので、良く知らなかったのです」
(そう、学年が違うため、私は彼女を知らなかった)
「生徒会室に来るようになって、初めてソニアリシル嬢を知るようになりました」
(王子が連れて来たのを覚えている。初めてなのに敵意を向けられている気がした)
デッキに吹き付ける外気の寒さではない寒気がした。
私は、最初に出会う頃まで思い出すことにした…
***
ブライドル王立学校
王国の最高学府とされ、政治、経済、外交、軍事、歴史、帝王学、作法などの教育を、王都に住む貴族や王族の子女は、6年間王立学校で学ぶことになっていた。
私や王子は最高学年で、生徒会の役員もしていた。
私は、いつものように、放課後まだ誰もいない生徒会室で片付けをしていると、重厚な扉が開かれた。
「ご苦労さま、スフィア嬢」
「ごきげんよう、ステファン様」
王子の友人で公爵家のステファン・ド・ランツァウ様。文武両道の貴公子で、女子の人気が高い明るい金髪の青年。私と同じ歳だがそうは見えない落ち着きがある。
「こんにちは、スフィアルィーゼ様」
「ごきげんよう、シャルル様」
こちらも王子の友人で侯爵家の、シャルル・ド・クロイ様。物静かな文官肌で、片手には本をいつも持たれている印象の方だ。
「スフィア様、お疲れさま」
「ごきげんよう、ユージン様」
同じく王子の友人で侯爵家の、ユージン・ド・クルクアス様。軍事的な才能は、教師すら舌をまく天才と言われているかただ。
王子のこの友人たちは、王子が王太子、王になるときに周りを固められる。新たな重臣になる方たちだった。
「相変わらず、スフィア様は早いわね」
「ごきげんよう、メルディシア様」
流れる黒髪を靡かせて入ってきたのは、才女、伯爵令嬢のメルディシア様。
この方たちと、王子と私で生徒会メンバーになる。
「殿下はまだ来られないのかしら?」
「今日は用事があるとかで、軍務省の方に出向かれています」
「軍務省?王子とは言え学生なのに?」
メルディシア様が怪訝な顔をされる。
「私もおかしいとは思うのですが…」
「スフィア嬢を置いて行かれるとは。これは、俺が取っちゃっても良いってことかな?」
ステファン様が私の机の前で頬杖をついて冗談を言ってくる、いつものことだ。
「何を言ってらっしゃるんですか。ステファン様ファンの女生徒に聞かれたら私、殺されちゃいますよ。冗談は程々にお願いしますね」
何か衝撃を受けたような顔をして自分の席に戻られた。冗談とはいえこの三人のファンに聞かれたら命が幾つあっても足りないわ。ただでさえ王子の婚約者ということで恨まれてるのに…
「スフィア様にも、ファンクラブはあるの知ってる?」
メルディシア様の言葉に一瞬固まる。
「あの、考えられませんけど…」
「昨年生徒会に居た、ロイド様が会員1号で、女生徒も多いファンクラブらしいわよ」
「ロイド様はいったい何を考えておいでだったのでしょうか?私なんかのファンとか…」
「それなら、僕たちも入ってるよ…」
と、シャルル様、ステファン様、ユージン様が何かカード状のものを見せてくる。
会員証らしい。
「おからかいが過ぎますよ」
顔が熱くなるのを感じつつ、横を向くとメルディシア様までカードを掲げていた。
「スフィア様、本当に知らなかったんですか?」
コクリコと私は頷いた。
(考えたこともありません)
「そこがスフィアルィーゼ様の良いところですよ」
もう、俯くしか無かった。
「俺の妃を困らせないでやってくれ」
私を含め、その場のみんなが声の方を見ると、扉を開けてフランツ王子が立っていた。
横には見慣れぬ女生徒がいた。
タイの色はオレンジ色…一学年?
(いったい誰?)
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