第18話:何か間違えてましたか?
「ジュリアン!」
(なぜここに?予備士官室に留まって貰ってるはずなのに…)
「ヴァディス様。ここは立ち入り禁止となっております。お部屋にお戻り下さい」
ミレニアがティテから飛び降り、ジュリアンを静止しようとする。
「スフィア。君と話がしたいんだ」
「ジュリアン、幾ら助けてくれたからと言って、規則は守ってもらわないと困ります」
ジュリアンはミレニアの静止をすり抜けると、ティテの翼に軽やかに飛び乗って来た。
「凄いねこれ。スフィアの戦闘機?」
ジロジロとティテの内部を見て感想を漏らす。
「俺のA6M2とは全然違うね」
「ジュリアンお願い、予備士官室へ戻って」
ジュリアンは動きを止めると、私の顔をじっと見る。
「本当に綺麗になったね」
(え、何?、突然)
「小さいころから、綺麗になると思ってたけど…想像以上だ」
「な、な、なにいてるんでふか…」
声が上擦る。
お世辞や、社交辞令では何度も言われたが、こんなうっとりとした顔で言われたことはない。
「わ、わかりました、後ほど伺いますので、今は部屋にお戻りください」
「『スフィアー』様」
ティテとミレニアの声がハモる。
(えー、なんか間違えた?)
突然、ジュリアンが顔を近づけてくる。
「!!」
ビックリした私の顔を見るとニッと笑顔を作った。
「じゃあ、部屋で待ってるよ」
そう言うと、さっさとティテから降りて背を向けてしまう。
「あ、ちょっと…待…」
呼び止めようとしたが、ジュリアンは振り返ることもせず行ってしまった…
ミレニアが睨みながら、歩いてくる。
「え、なに?なんで怒ってるの?」
「何じゃありません、何で殿方の部屋に行くことにしたんですか?」
『どうそう』
「だ、だって、ジュリアンでしょ?」
「スフィア。貴女は王都で何を学んできたのですか?婚姻前の令嬢が殿方の部屋を訪れるなど…」
『そうよそうよ』
「だって、子供でしょ?」
「それは、昔のことでしょ?今は貴女だけが子供です」
『そうよ、スフィアが子供なのよ』
あーあ風に首を振られた。
(失礼ね)
「…王子は勝手に入って来てたんだもん…」
***
翔鶴の尾部、甲板後部の縁に当たる部分の下には、柱だけで吹き抜けになっている部分がある、装載艇が何艘も上にも横にも置かれた場所。
その最末端は張り出しになっていて、後方をパノラマ状に見ることができた。
「凄ーい!」
手摺から下を見ると、海ならぬ、雲海が見える。
その、雲海の白い絨毯に山の頂きが見える部分は、まるで島のようだ。
空を見ると、澄み切った群青の青空に、輝く太陽が一際近く感じられる。
聞こえる音も。ザザザーという波の音ではなく
吹き抜けを通る。
ヒュゥゥゥ
という風の音が、空を行く船を示していた。
「スフィア様。お席にお座りください」
テーブルに椅子、お茶を用意し、この場をセッティングしてくれたミレニアが声をかけてくれる。
ミレニアが引いてくれた席に座ると、「冷えますので」とショールを掛けてくれた。
ジュリアンは、そんな私を見て終始笑っていた。
「そこのメイドさんが、私の部屋を訪ねてきたときはどうしたものかと思ったけど。
こんな場所をセッティングしてくれるなんて…感謝するよ」
「恐縮です」
「さて」
ジュリアンはティーカップに口をつけると切り出した。
「メイド…君はミレニアだよね?」
「はい」
「覚えているよ、君はスフィアといつも一緒だったから、君とも一緒に遊んだよね」
「はい、覚えております」
そう言ってミレニアはお辞儀する。
「だから、ま、いいか。」
「?」
(何がいいのだろうか?)
「スフィア」
「なんですか?」
「私と婚約しないか?」
流れる風に髪がさらわれ、手で押さえたタイミングだった。
(は?今なんと)
「私は、小さいときから君が好きだった、その気持ちは今も変わらない」
「え、あぁぁの。ありがとうございます」
ミレニアが私の態度に手で顔を覆ってしまった。
(し、しかたないじゃない、目の前でこんなこと言われるの初めてなんだから!)
「でで、でも、私はその…今は、お父様の事も領地のこともあるのでで、そのようなことは…」
「性急なのは分かっているし。そういうタイミングではないことも理解している」
「は…い」
ジュリアンは、私から一瞬目を逸らして空を見て目を閉じた。そして気迫と切なさが混じった目で私に再び目を合わせてきた。
「だけど、君をもう他の人には奪われたくないんだ」
「…」
「君を王家に取られたとき、どれだけ悔しい思いをしたか…」
「ジュリアン…?」
「差し出がましいですが。貴族の婚姻は両家の意向によります。ご当人で決められるものではございません」
ミレニアが助け船を出してくれる。
「わかっている。だがスフィアの気持が知りたいんだ」
「わ、私は…」
「ヴァディス様。今のスフィア様にお聞きしても、決して良い回答は得られませんよ」
ミレニアの言葉に、ジュリアンは驚く。
「ふむ、確かにその通りか…」
私の顔を見つめると
「今日は答えを求めない。私の気持を伝えたに留めよう」
ホッ
「とたんにホッとした顔をされるのは、複雑な気持だな」
ええ、顔に出てた?
「まあ、君にとっては七年ぶりだから仕方ない、としておくよ。傷ついたけど」
ジュリアンは胸を抑え大仰に空を見ている。
「あわわわわ、ご、ごめんなさい…」
「ところで、スフィアは妖精と会話できるのかい?」
「気持が伝わって来るの、だから会話になるのよ」
「ス、スフィア様!」
(え、え?言っちゃ駄目だった?)
「へー素敵だね」
胸がドクンと跳ねた。
ジュリアンの――目つきが変わった気がした。
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