第16話:ジュリアン・ヴァディス
(え、え、えーーーーーーー!)
な、何、何されてるの私?
ヴァディス領機で来られた方に、ガシッと抱きつかれた私は、両手が小さいバンザイ状態で固まってしまった。
「も、申し訳ありません。は、はは、離れて頂けませんかかか…」
相手の胸元に埋まってしまった私は、それだけ言うのが、精一杯だった。
「あっ。失礼しました!」
手を離していただくと、今度は、ミレニアが自分の方に引き寄せ、私を護るように抱きしめた。
「ミ、ミレニア。大丈夫、大丈夫だから」
「申し訳ない、懐かしくて気分が高揚してしまい失礼致しました」
ウルフカットの黒髪の、長身の男性だった。胸に掌を当てて頭を下げてくれた。
「はぁ…懐かしい?ですか…」
「お覚えではありませんか?
元々は、私と婚姻する予定だったのですよ」
「え?」
ミレニアを見るがミレニアもキョトンとしている。
「ヴァディスはアルマリンの分家筋です。
子供の頃は、領も隣りでしたし良く一緒に遊んだのですよ。
その流れで12歳になったら、婚約すると両家で決めていたのですが…」
んーー
目を閉じ首を傾げて、必死に記憶を手繰り寄せる。
「もしかして、ジュリアン?」
「はい!」
まるで花でも咲いたかのような笑顔で返事をされた。
そんなお顔をされても…
確かに子供の頃、両家は交流が多かった。ジュリアンとは年齢が近かったので、よく一緒に遊び、城を抜け出しては街や川、海に行った記憶がある。
しかし、八歳には王子と婚約したために王都に行ってしまい、会うことが無くなってしまっていた。
うーん、そういえば面影が…ある…ようなないような…
小さい頃すぎてわかんないー!
「ミレニア。えと、客間とかラウンジとかってある?」
「客間はありませんが、予備士官室をご用意致します。ラウンジは長官公室が利用できます」
「お、お願い」
「ヴァディス様。ご案内させて頂きます。どうぞこちらに」
「ああ、頼む。スフィアまた後で」
ミレニアがジュリアンを連れて行ってくれた。
私は、大急ぎでビンセントの元へと走った。
***
「そうですか、ジュリアン様でしたか」
「ビンセントは覚えてるの?」
「勿論でございます。
確かに王家からの婚約話が無ければ
ジュリアン様と婚約する運びでした」
しらっとそんなことをいわれた。
「そ、そんなの私、全然しらないのだけど…」
「それは誰も言いませんでしたので…」
(ひどいわ!)
「た、確かに高位貴族令嬢の婚姻は、家が決めるものだって理解してるけど、教えては欲しかったわ」
突然、元婚約者みたいのが現れて、抱きしめられるとか、混乱の極みよ。
「でも、王子との婚約で、無くなった話なのよね?」
「はい、正式にこの話は終わっております」
ホッとした。
好きとか嫌いとかでなく、今はそういうことは考えられない。うんうん。
「お嬢様。ジュリアン様に、今後のことでお会いしますが宜しいですね?」
「今後ー!」
え、え。また婚約するの私?
「翔鶴がヴァディス領に向かうことについての話ですが…どうされました」
(あ、あ、ああ。なるほど)
「…なんでもない、なんでもないです。わ、わかりました」
***
夕刻、会談の場が設けられた。
長官公室という部屋だ。
中に入ると天井が高く、壁には高級な木材が張られ、絵画や調度品が置かれている。床には厚手の絨毯まで敷いてある。
中央には、10名ほどが着席できる重厚なマホガニー製のテーブルが置かれていた。
「凄い、本当に軍船なの?」
私は鉄の塊の軍船とは信じられなくて声がでてしまった。
「なんで君が驚いているんだい?」
ジュリアンのほうが落ち着いて、私を笑っている。顔が熱くなる。
「君が変わってなくて、安心したよ」
(む、失礼ね)
「どうぞお掛け下さい」
ビンセントが席を勧め、ソファに腰を降ろした。
テーブルを挟んで私とビンセントに、ジュリアンが向かい合う形だ。
ミレニアがお茶を用意し、それぞれの前に置くと、お辞儀して部屋を出ていった。
「ヴァディス様、この度はご助力有難うございました。
この艦を預かるものとして感謝致します」
ビンセントが家令ではなく、艦長として感謝を述べる。
「ヴァディス家としては当然のことです」
そう言って私に視線を向ける。
(?)
「そうそう、ご存知でしょうか?王都での出来事なのですが…」
なんだろう、勿体ぶった言い方な気がするけど。
「王が王位を、王太子に譲位しました」
衝撃に、私は口にしようと指をかけた紅茶を零してしまう。
「え…何故」
「王子による、クーデター紛いの譲位らしいです」
「そんないくら何でも、王子はまだ成人したばかりですよ…」
信じられない、何が起こっているというの?
「王妃はソニアリシル子爵令嬢になるようです」
「ソニアリシル嬢…」
婚約破棄されていた時に、ソニアリシル嬢と婚約とは聞いたけど…こんなに早くなんて…
「王国の貴族は、アルマリンのこともあり、大きく揺れています」
「ゆ、揺れるとは?」
「新王に従う勢力につくか、前王を復権させる勢力につくかです」
「国が割れるんですか?」
確かに私は、婚約破棄の場でそうは言ったけど。それは望んだわけではない。思い留まって欲しかったからだ。
「新王は、他国への侵攻を行うと宣言しております」
「お、王子は、そんな人では…」
負けん気が強くプライドの高いお方だったが、人のものを力尽くで奪い取るような人ではなかった。
「私も何度かお会いしたことがあります。不自然に感じていますが…情報は確かです。
スフィア嬢」
「はい…」
突然名前を呼ばれ、ジュリアンを見る。
「その一つに、前王と貴方を旗頭にしようとしている勢力があります」
「私ですか!?」
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