第15話:ヴァディス領軍
「50…」
艦橋内に、敵の数が溜息のように伝播していく。
「直掩上げろ!
離昇準備!」
私が数に囚われている間にも、ビンセントが、指示を出し始めた。
「と、飛べますか?」
「あと5分程で離昇はできます。ですが、全速までは更に30分必要です、窯が温まるまでは徐々にしか動かせません」
ミレニアを見ると首を振られた。
今のタイミングでは、ティテを上げるのは作業の邪魔にしかならないのは、私にも解る…
窓の外に目を落とす。
甲板上の、忙しないが規則正しい流れに、異質な私とティテは乗れない。
「…ミレニア。奥様とお嬢様を乗せ三人乗れる九七式で脱出してくれ…時間は稼ぐ」
ビンセントがミレニアに向き直り、静かに命令を下す。
「ビンセント。私はここを離れませんよ。みんなが、ティテがいるのに!
ここは私の守らなければならない場所です」
私には、領地がない。だけど、ここで戦っている領民を置いて、逃げるなど考えられない。
「しかし…お嬢様…」
ビンセントが言葉を飲み込んだ。
あれ?私は泣いているようだ。
婚約、領地、お父様の行方、色々なことが頭を過ってしまった。
「スフィア様、奥様のこともありますよ」
ミレニアが、ハンカチーフで涙を拭いて隠してくれる。
(お母様…)
「艦長!十一番偵察機より入電!機影あり!数80!」
「…」
艦橋が静まり返る。
「入電!二番偵察機…」
報告してくれる人が詰まった。
「どうした」
「50機が進行方向を変えたそうです…」
「どういうことだ?」
「十一番偵察機より入電!80機の翼マークが、ヴァディス領の家紋だそうです!」
「ヴァディス領?南の?」
「アルマリンの南方が隣接している縁の深い伯爵家です」
ミレニアが補足してくれる。
「ヴァディス領機より通信!」
「繋げ!」
「……こちら、ヴァディス領軍、飛行…隊…
盟約…に従い、旗艦を援護する…
我が領まで、来られたし……」
私はビンセントの顔を見る。
「…了解した。貴軍に続く」
「お嬢様。宜しいですね」
「他に道がないでしょう…」
「通信。ヴァディス軍機が着艦を求めています」
「まて!着艦なんて技術、アルマリン以外どこにもないだろう!」
ビンセントが席から立ち上がる。
「拒否しろ!」
「既にファイナル(最終着艦コース)に入っています」
ビンセントが窓に走って後方を確認する。
「甲板を空けろ、
着艦ワイヤー間に合わせろ!」
ビンセントが絶叫する。
甲板の拡声器が警告を発し、作業している人が大慌てで滑走路を空けていく。
ふと、私は気付いたことがあり、ミレニアを見る。ミレニアはニコリと微笑んで頷いた。
(ああ、そうか。私が降りるときにもこれが起こるのか…)
ヴァディス軍機が見える。アルマリンと同じA6M5だ。
私は、ミレニアと羅針艦橋後方の飛行管制所に移動して見ている。
「ねえ、ミレニア、あの機体の後ろに編棒みたいなのは何?何か編むの?」
私は、機体の後部から飛び出た先が曲がった金属の細い棒を見て尋ねた。
「あれは、着艦フックです。あれで甲板に貼ったロープに引っ掛けて止まるんです」
見ていて下さいと指差した。
ヴァディス軍機が左右にふらつきながらも、甲板に対し一直線に降りてきた。
鈍い振動が、船を揺らす、車輪が甲板を叩いたのだろう。
ミレニアが言ったワイヤーに…一本目、二本目とそのまま素通りしていく。
「ミレニア?」
「速すぎるようですね…」
五本、六本…ワイヤーって何本あるんだろう。
私からは、この窓の下に見えるものまでしか見えない八本だ。
「おいおい。このままじゃ突っ込むぞ。」
飛行管制所の人が声を漏らす。
七本、八本…
「止まらないの!?」
私は、羅針艦橋まで走って追いかけ、羅針艦橋の前方の窓に辿り着く。
「最後のワイヤーで止まったみたいですね。後がありませんでした」
ミレニアが後ろで教えてくれる。
「ミレニア…私の着艦の時にこういう思いをさせたのね…ごめんなさい」
「無茶はしないでくださいね」
私は、ヴァディス軍機搭乗員を出迎えるために、甲板まで降りた。
アイランドの重い扉を開けると、既に搭乗員は降りていて、こちらに向かって歩いてきていた。
「ようこそいらっしゃいまし…」
私がカーテシーで挨拶しようとすると、いきなり抱きつかれた。
「スフィア逢いたかったよ!」
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